愛人を作ってもいいと言ったその口で夫は私に愛を乞う

初瀬 叶

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第38話 Sideアリシア

〈アリシア視点〉

つまらない!つまらない!つまらない!

私は部屋の長椅子に置いていたクッションを思いっ切り壁に投げつけた。

クッションはボスッ!と鈍い音を立てて床に落ちた。私はテーブルに置かれていたカップにも手をかける。イライラしてこれも壁に投げつけたい衝動に駆られるが、辛うじて我慢した。

部屋の扉が『コンコンコン』とノックされ、廊下から控え目な声が掛かる。

「奥様……何かございましたか?」
クッションの鈍い音にも気づく侍女に嫌気がさすが、それを態度には出さないように気をつけた。

「いいえ。別に何でもないわ。ねぇ、レニーに明日の夕食はどうかまた聞いてちょうだい。今日がダメなことは納得したけど、明日なら?明日ならどうかしら」

二カ月後の王太子殿下の婚約式のせいで、クラッドは最近、帰りが遅い。
……まぁ、クラッドと食事をすると、彼が食べている姿を見るだけで、イライラしてしまうので、彼の帰りが遅くなる分には全く構わない。

それにクラッドが居ない方がレニーを夕食に誘いやすい。だのに、ここ二日、レニーにも夕食を断られる始末。全く面白くない。


夕食が出来たと声が掛かる。私はわざわざ食堂に出向くことも億劫で、侍女に食事を部屋へ持って来るように指示した。

「一人の食事は寂しいし……部屋で食べるわ」

「畏まりました。直ぐに準備いたします」

目の前に置かれた食事は普通の女性が食べる量の約半分ほど。
元々食は細かったが、クラッドが結婚してからぶくぶくと太り始めたのを見ると、太ることに恐怖を覚えるようになってしまった。あんな風になりたくない。私はこの美貌を保つ為にも、食事量を調整していた。
この家の使用人達は私があまり身体が丈夫ではない……そう信じている。お陰で私に無理やり食べさせるような人間はここにはいない。

食事を終え、一人の時間を持て余す。子どもの頃は良かった。クラッドもレニーも私を取り合うように私の機嫌を取りに来ていた。私はいつも二人と一緒にいた。身分も高く、顔の良い二人から想われているのは、ただ、ただ気分が良かった。

学園でも、私は二人と一緒に暮らしているというだけで、羨望の的だった。……特にレニー。

彼は自分では気づいていないが、女生徒達の視線を独り占めするほどの美丈夫だ。彼と並び歩く私に嫉妬する女生徒の視線。どんなに周りがレニーの気を引こうとしても、レニーは幼い頃から私しか見ていない。……本当に気分が良かった。

クラッドも痩せていた時は格好良かったが、レニー程の男らしさは無かった。外見だけで言えば、断然レニーの方が好みだ。
しかし……私はクラッドを選んだ。何故かって?それはクラッドがハルコン侯爵を継ぐことが決まっていたからだ。

二人に想われていても両方と結婚することは出来ない。ならば将来を考えてクラッドを選ぶことは当然といえる。
ハルコン侯爵夫人。私はその名に相応しい、価値のある人間なのだから。

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