愛人を作ってもいいと言ったその口で夫は私に愛を乞う

初瀬 叶

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第39話 Sideアリシア

〈アリシア視点〉

私は貧乏子爵の生まれで、貴族という名が恥ずかしくなるぐらいの暮らししか出来ていなかった。何なら裕福な平民より質素で、領地も猫の額程。そんな貧乏な暮らしでも父には子爵として家門を守るという使命があった。

母親は私が赤ん坊の頃に亡くなり、父は直ぐに再婚した。娘の私より、跡継ぎになる息子を産んでくれる女性だ。

正直、再婚した母親は穏やかな女性だったが、私にはほぼ無関心だったように思う。母を喪った私は乳母に育てられ、新しい母親に馴染むこともなく成長した。だが、弟が生まれたことで父の愛情の全てが弟に注がれるようになった。

その頃になると、私は『なんて可愛らしい。お人形さんみたいね』とよく言われる少女に成長していた。
だからといって、両親に関心を向けてもらえるわけじゃない。私は家族の中で孤独を感じていた。

そんなある日、父親が朝からそわそわしているのを見かけた。メイドに聞けば、遠縁にあたる侯爵が訪問の予定だと聞いた。あぁ……そう言えば事あるごとに父親が『うちはハルコン侯爵と縁続きだから』と自慢していたことを思い出す。
ここからほど近い場所に広大な領地を持つハルコン侯爵。どんな人物なのだろうとその時興味を持った。

初めて会った侯爵は彫りの深い顔立ちに黒髪。そして何より一目で分かるほど質の良い衣装で現れた。子ども心に、自分の父親と侯爵との違いに愕然としたものだ。
ハルコン侯爵には二人の息子がいると聞いた。一人は私と同じ歳だとも。私はますます興味を持った。家にいても楽しくない。私の興味が外へと向くのは仕方ないことだったと思う。

そして、ハルコン侯爵を前にして、父はやたらとペコペコしていた。そんな姿を情けないと思う傍ら、貴族の中で身分というものがいかに大事かを思い知ったのだった。

そこからだ。私がろくに食事をせずに部屋に閉じこもるようになったのは。 
お腹は空いた。だが、私は我慢した……父が私の扱いに困ってハルコン侯爵に相談することを願って。
子どもの浅知恵だったこの作戦は、思いのほかうまくいった。残念ながら父がハルコン侯爵に相談したわけではない。ハルコン侯爵の方から、私のただならぬ様子を案じて声を掛けてくれたのだ。……いかに父親から関心を向けられていないのかが露呈したが、そんなことはどうでも良かった。私は八歳の時にハルコン侯爵家へと引き取られることになった。

そこで私の孤独な時間は終わりを告げた……はずだった。

美しく可憐に成長した私は、クラッドのプロポーズを受けた。しかしハルコン侯爵となったクラッドは忙しい、忙しいと私の相手をしてくれない。結婚前には私のわがままを可愛いと受け止めてくれていたのに、今では『もう少し侯爵夫人の自覚を持ってくれると嬉しいんだけどね』とチクリと私に嫌味まで言うようになった。

しかし私にはまだレニーが居る。レニーは騎士だからか、弱い者を守りたいという気持ちが強かった。……だから私はレニーの前では、いつでも弱々しい姿を見せる。
……相手によって態度を変えることなど、朝飯前だ。

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