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第50話
銀色の髪に紫色の瞳、高い鼻に少し薄めの唇。
そこに立っているのは、もう二度と会えないと思っていたブルーノそのもののように見えた。……いや、違うことは分かっている。
私は彼の棺に縋り付いて泣いたことを覚えている。そこに眠る彼の顔が病気のせいで痩せこけてしまっていたことも。
「おい……大丈夫か?」
フリオが私の頬を指で拭う。いつの間にか私は涙を一粒流していたようだ。ブルーノの葬儀を思い出してしまった……こんな場所で泣くなんて。
「あ……ごめんなさい。大丈夫よ」
すると目の前にスッと白いハンカチが差し出された。
「お使いください」
ブルーノより、少し高い声。よく見るとブルーノより少し目が大きい。それに背もブルーノより低いみたいだ。
「ありがとう……」
私はそのハンカチを受け取ると、そっと頬の涙を押さえた。
つい、ハンカチを差し出してくれた人物の顔を見入ってしまう。見れば見るほど似ているが、ブルーノとは別人であることが理解できた。
フリオが飲み物を注文すると、彼は小さく頭を下げて、去っていった。
私は自分の手にハンカチが残されていることに気づく。返さなくては……そう思うが、このまま返すのは申し訳ない。洗って返そう……私は自分の手元のクラッチバッグにそのハンカチをそっと仕舞った。
別にここにもう一度来る為の言い訳ではない……そう自分に言い聞かせながら。
「どうしたんだ?」
彼が去ってから、フリオは不思議そうに私に尋ねた。
「知り合いに似ていて……少し驚いたの」
「知り合いか。同一人物ではなく?」
「ええ……。その知り合いはもうこの世にいないから」
私の答えにフリオは少し気まずそうに俯いた。
「ごめん……」
「貴方が謝る必要はないわ」
「だけど……それなら驚くのも無理はないな」
そんな話をしていると、先ほどの彼が飲み物を持って現れた。
冷静になって、もう一度彼を見る。グラスをテーブルに置く指も、爪の形もブルーノとは違う。この世には似た人物が三人居るというが、この人はその内の一人なのだろう。
「お前、名前何だっけ?」
フリオがふいに名を尋ねる。
「え……?俺の名前ですか?レオです」
盆を抱え直しながら答えた顔には戸惑いが見えた。
「あぁ、そうだったな。こいつはまだ入りたてなんだ」
フリオがそう言ってレオに指をさす。レオは紹介されたと思い、私に向かってペコリと頭を下げた。── その時。
「あっ……と。不味いな」
とフリオが顔を顰めた。
彼の視線は、たった今ホールに入って来た緑色のマスクの少しふくよかな女性に注がれている。
するとその女性は辺りを見回しながら、大きな声で言った。
「フリオ!フリオはどこなの?」
私は自分の隣に居たフリオを見た。彼は何とも言えない表情だ。
「ごめん、ちょっと席を外すよ。おい、レオ。お前がこのご婦人のお相手をしててくれ」
フリオはまだ私達のテーブルの側に居たレオに声をかけた。
「え?俺が……ですか?」
「そうだ。ボーイだってここで働く男にはかわりないからな」
フリオはそう言って腰を上げた。
「ごめん。あの御婦人は俺のお得意さんだ。本来ならこうして既に席に着いている男を指名するのはご法度だが、彼女は気難しくてね。君に迷惑が掛かる前に俺は行くよ」
そう言ってフリオは私にウィンクしてみせた。
フリオが急いでその御婦人の元へと大股で近づいていくのを私はボーッと見守った。彼らも大変なんだ……そう思いながら。
すると、私から人二人分程を空けてレオが控えめな様子で腰掛けた。
「あの……俺では力不足かもしれませんが……」
レオの小さな声が聞こえた。緊張しているのが分かる。
「別に無理してここに居なくても良いのよ?私は適当に一人で飲んでおくから……ってレモン水だけど」
私の言葉にレオは少しだけ頬を緩めた。
そこに立っているのは、もう二度と会えないと思っていたブルーノそのもののように見えた。……いや、違うことは分かっている。
私は彼の棺に縋り付いて泣いたことを覚えている。そこに眠る彼の顔が病気のせいで痩せこけてしまっていたことも。
「おい……大丈夫か?」
フリオが私の頬を指で拭う。いつの間にか私は涙を一粒流していたようだ。ブルーノの葬儀を思い出してしまった……こんな場所で泣くなんて。
「あ……ごめんなさい。大丈夫よ」
すると目の前にスッと白いハンカチが差し出された。
「お使いください」
ブルーノより、少し高い声。よく見るとブルーノより少し目が大きい。それに背もブルーノより低いみたいだ。
「ありがとう……」
私はそのハンカチを受け取ると、そっと頬の涙を押さえた。
つい、ハンカチを差し出してくれた人物の顔を見入ってしまう。見れば見るほど似ているが、ブルーノとは別人であることが理解できた。
フリオが飲み物を注文すると、彼は小さく頭を下げて、去っていった。
私は自分の手にハンカチが残されていることに気づく。返さなくては……そう思うが、このまま返すのは申し訳ない。洗って返そう……私は自分の手元のクラッチバッグにそのハンカチをそっと仕舞った。
別にここにもう一度来る為の言い訳ではない……そう自分に言い聞かせながら。
「どうしたんだ?」
彼が去ってから、フリオは不思議そうに私に尋ねた。
「知り合いに似ていて……少し驚いたの」
「知り合いか。同一人物ではなく?」
「ええ……。その知り合いはもうこの世にいないから」
私の答えにフリオは少し気まずそうに俯いた。
「ごめん……」
「貴方が謝る必要はないわ」
「だけど……それなら驚くのも無理はないな」
そんな話をしていると、先ほどの彼が飲み物を持って現れた。
冷静になって、もう一度彼を見る。グラスをテーブルに置く指も、爪の形もブルーノとは違う。この世には似た人物が三人居るというが、この人はその内の一人なのだろう。
「お前、名前何だっけ?」
フリオがふいに名を尋ねる。
「え……?俺の名前ですか?レオです」
盆を抱え直しながら答えた顔には戸惑いが見えた。
「あぁ、そうだったな。こいつはまだ入りたてなんだ」
フリオがそう言ってレオに指をさす。レオは紹介されたと思い、私に向かってペコリと頭を下げた。── その時。
「あっ……と。不味いな」
とフリオが顔を顰めた。
彼の視線は、たった今ホールに入って来た緑色のマスクの少しふくよかな女性に注がれている。
するとその女性は辺りを見回しながら、大きな声で言った。
「フリオ!フリオはどこなの?」
私は自分の隣に居たフリオを見た。彼は何とも言えない表情だ。
「ごめん、ちょっと席を外すよ。おい、レオ。お前がこのご婦人のお相手をしててくれ」
フリオはまだ私達のテーブルの側に居たレオに声をかけた。
「え?俺が……ですか?」
「そうだ。ボーイだってここで働く男にはかわりないからな」
フリオはそう言って腰を上げた。
「ごめん。あの御婦人は俺のお得意さんだ。本来ならこうして既に席に着いている男を指名するのはご法度だが、彼女は気難しくてね。君に迷惑が掛かる前に俺は行くよ」
そう言ってフリオは私にウィンクしてみせた。
フリオが急いでその御婦人の元へと大股で近づいていくのを私はボーッと見守った。彼らも大変なんだ……そう思いながら。
すると、私から人二人分程を空けてレオが控えめな様子で腰掛けた。
「あの……俺では力不足かもしれませんが……」
レオの小さな声が聞こえた。緊張しているのが分かる。
「別に無理してここに居なくても良いのよ?私は適当に一人で飲んでおくから……ってレモン水だけど」
私の言葉にレオは少しだけ頬を緩めた。
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