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第57話
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医者は御者に送らせた。
今、私とレオは向かい合って座っている。
「どうぞ」と目の前に置かれたお茶はほんの少しだけ色のついたお湯のようなお茶だった。
ぐるりと見渡した家の中は殺風景で、子どものいる家とは思えない。
「お金はいつか、返します」
膝の上にギュッときつく結ばれた拳は少し震えていた。
「出しゃばった真似をしてごめんなさい。でも、病気の人を目の前にして放っておくことは出来なかった。これは私が勝手にしたことよ。お金は返さなくていい。……あ、これ」
私はハンカチの存在を思い出した。レオに借りたハンカチと、新しく私が刺繍した薄い水色とピンク色のハンカチ。それにうちで作ったジャムを使ったクッキーを綺麗に包装した物をテーブルに私は置いた。
「これは?」
「ハンカチ……借りていたでしょう?それと、こっちはお礼。クッキーが入ってるんだけど、熱が高いなら妹さんにはまだ無理かしら」
「クッキー……喜びます」
「女の子は甘い物が好きだもの。そんなに日持ちはしないけど、食べられそうだったら……」
私がそこまで言うと、レオは申し訳なさそうに頭を下げた。
「医者の金まで出してもらったのに……こんな物まで……本当にありがとうございます」
私は急にバツが悪くなった。貴族が平民に施しを与えてるように感じるかしら?それは酷く傲慢なものに思えた。
「頭を上げて?これでも出しゃばり過ぎたって反省してるの」
レオはパッと顔を上げた。
「でも、お陰で助かりました!貴女はシルビアの命の恩人── 」
「大袈裟よ。でも、偶々ここに来て良かったわ」
私の言葉にレオは改めて尋ねた。
「あの……何故ここに?」
「ハンカチを返そうとクラブに行ったの。そしたら妹さんが病気で休んでるって聞いて」
「それだけで、わざわざここまで?」
レオが驚いているのも分かる。たった一晩……いや二時間半程一緒に過ごしただけの相手だ。しかもお喋りだけ。でも私自身、その理由について理解していた。
「あなたね、私の親友によく似てるの。だから何だと言われればそれまでだけど、何だか放っておけなくて」
これはいつも私がブルーノに言われていた言葉。『デボラは少し向こう見ずなところがあるから、何だか放っておけなくて』と。
「……大切な方でしたか?」
レオはまるでブルーノがこの世に居ないことを既に知っているような口ぶりだった。
「ええ、とても。二人で夢を語り合うのが好きだった。彼と過ごした時間は私の宝物なの」
「彼……?」
「あぁ、ごめんなさい。あなたとその人を重ねているわけではないのだけれど……亡くなった人を思い起こすのは気分が悪いわよね」
「そんなこと……」
そう言ってレオは首を緩く振った。
「ねぇ、さっきの男性……ほらあなたに暴力を振るった。あの人は誰なの?」
「叔父さんです。父親の弟で……両親を亡くした後、俺が成人するまで面倒をみてくれる……はずだった。怪我をするまでは腕のいい大工だったんだけど、俺が十五歳の時、屋根から落ちて怪我を。それからは酒浸りになって、暴力を振るうようになったから、俺はシルビアを連れて叔父さんの家を出た」
私はすれ違った際に嗅いだ、酒の臭いを思い出して顔を顰めた。
「では十五歳で妹さんと?」
私の問いに、レオは小さく頷いた。
今、私とレオは向かい合って座っている。
「どうぞ」と目の前に置かれたお茶はほんの少しだけ色のついたお湯のようなお茶だった。
ぐるりと見渡した家の中は殺風景で、子どものいる家とは思えない。
「お金はいつか、返します」
膝の上にギュッときつく結ばれた拳は少し震えていた。
「出しゃばった真似をしてごめんなさい。でも、病気の人を目の前にして放っておくことは出来なかった。これは私が勝手にしたことよ。お金は返さなくていい。……あ、これ」
私はハンカチの存在を思い出した。レオに借りたハンカチと、新しく私が刺繍した薄い水色とピンク色のハンカチ。それにうちで作ったジャムを使ったクッキーを綺麗に包装した物をテーブルに私は置いた。
「これは?」
「ハンカチ……借りていたでしょう?それと、こっちはお礼。クッキーが入ってるんだけど、熱が高いなら妹さんにはまだ無理かしら」
「クッキー……喜びます」
「女の子は甘い物が好きだもの。そんなに日持ちはしないけど、食べられそうだったら……」
私がそこまで言うと、レオは申し訳なさそうに頭を下げた。
「医者の金まで出してもらったのに……こんな物まで……本当にありがとうございます」
私は急にバツが悪くなった。貴族が平民に施しを与えてるように感じるかしら?それは酷く傲慢なものに思えた。
「頭を上げて?これでも出しゃばり過ぎたって反省してるの」
レオはパッと顔を上げた。
「でも、お陰で助かりました!貴女はシルビアの命の恩人── 」
「大袈裟よ。でも、偶々ここに来て良かったわ」
私の言葉にレオは改めて尋ねた。
「あの……何故ここに?」
「ハンカチを返そうとクラブに行ったの。そしたら妹さんが病気で休んでるって聞いて」
「それだけで、わざわざここまで?」
レオが驚いているのも分かる。たった一晩……いや二時間半程一緒に過ごしただけの相手だ。しかもお喋りだけ。でも私自身、その理由について理解していた。
「あなたね、私の親友によく似てるの。だから何だと言われればそれまでだけど、何だか放っておけなくて」
これはいつも私がブルーノに言われていた言葉。『デボラは少し向こう見ずなところがあるから、何だか放っておけなくて』と。
「……大切な方でしたか?」
レオはまるでブルーノがこの世に居ないことを既に知っているような口ぶりだった。
「ええ、とても。二人で夢を語り合うのが好きだった。彼と過ごした時間は私の宝物なの」
「彼……?」
「あぁ、ごめんなさい。あなたとその人を重ねているわけではないのだけれど……亡くなった人を思い起こすのは気分が悪いわよね」
「そんなこと……」
そう言ってレオは首を緩く振った。
「ねぇ、さっきの男性……ほらあなたに暴力を振るった。あの人は誰なの?」
「叔父さんです。父親の弟で……両親を亡くした後、俺が成人するまで面倒をみてくれる……はずだった。怪我をするまでは腕のいい大工だったんだけど、俺が十五歳の時、屋根から落ちて怪我を。それからは酒浸りになって、暴力を振るうようになったから、俺はシルビアを連れて叔父さんの家を出た」
私はすれ違った際に嗅いだ、酒の臭いを思い出して顔を顰めた。
「では十五歳で妹さんと?」
私の問いに、レオは小さく頷いた。
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