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第62話
観劇から帰った私は早速ジャムの店を開く計画を実行するべくハロルドに手紙を書いた。
店を開くなら、もっと多くのジャムを作る必要がある。今は閉鎖してしまった果樹園を再建出来るのか……確認する必要があった。
「あとは資金ね……」
私の呟きに家令が反応した。
「ブラシェール伯爵家にはそれぐらいの資金はありますよ」
「分かってるのよ……。でもあまり使いたくないかなって。失敗したら丸々負債になるもの」
「ふむ……。私に少しツテがあるのですが……少し時間を下さいますか?」
家令の顔を見る。彼は微笑むと言った。
「実はうちの祖母の店が閉店しましてね。どうするかな……と父に相談されていたんです。それから少し時間が経っているので、あまり期待しないでいただきたいのですが……」
「そのお店って……?」
「パン屋でした。祖母が亡くなってそのままに。そこを使えれば……」
「それなら新しく店を建てる必要もないし……!」
私は思わず立ち上がっていた。
「落ち着いてください。まだどうなるか分からないんですから」
家令は苦笑した。
「わ、分かってる。ごめんなさい……」
私は恥ずかしくなって、少し頬を染め、改めて腰掛けた。
家令はクスクス笑いながら、私に言った。
「奥様は本当に……ブラシェール伯爵家のことを考えてくださってますね」
「当たり前でしょう?」
「当たり前を当たり前に出来ること。これって意外と難しいんですよ」
「うーん……そうかもしれない。でも、私にはこれが普通」
私はそう言ってニッコリと微笑んだ。
「ところで奥様。明日はどんなドレスをお召しになりますか?」
そう言われて、私は明日の社交クラブのことを思い出して、ため息をついた。
「まぁ!良くおいで下さいましたわ!」
社交クラブの扉を開きホールに顔を出した私を出迎えたのはマドリー夫人だった。
「お招きいただき、ありがとうございます」
マドリー夫人は私の頭から爪先までをサッと眺めると、ニッコリ微笑んだ。
「素敵なドレスですわね。貴女の美しさを引き立ててるわ~」
そう言ってマドリー夫人は口元を扇で隠す。……少し地味だったかしら?私は今日のドレスをほんの少し後悔した。
「ありがとうございます。マドリー夫人も相変わらずお美しく── 」
「止めて!」
私の鼻先に彼女の扇の先端がかすめる。
「えっ……?」
「その名前で呼ばないで。ここではその名を聞きたくないの」
どうも『マドリー夫人』と呼んだことを責められているようだ。
「では何とお呼びすれば……」
「ここでは『姫様』と呼ばれてるの……って貴女にそう呼ばれても嬉しくはないから……そうね、オーナーでいいわ」
『姫様』と聞いて笑わなかった私を誰か褒めてほしい。
店を開くなら、もっと多くのジャムを作る必要がある。今は閉鎖してしまった果樹園を再建出来るのか……確認する必要があった。
「あとは資金ね……」
私の呟きに家令が反応した。
「ブラシェール伯爵家にはそれぐらいの資金はありますよ」
「分かってるのよ……。でもあまり使いたくないかなって。失敗したら丸々負債になるもの」
「ふむ……。私に少しツテがあるのですが……少し時間を下さいますか?」
家令の顔を見る。彼は微笑むと言った。
「実はうちの祖母の店が閉店しましてね。どうするかな……と父に相談されていたんです。それから少し時間が経っているので、あまり期待しないでいただきたいのですが……」
「そのお店って……?」
「パン屋でした。祖母が亡くなってそのままに。そこを使えれば……」
「それなら新しく店を建てる必要もないし……!」
私は思わず立ち上がっていた。
「落ち着いてください。まだどうなるか分からないんですから」
家令は苦笑した。
「わ、分かってる。ごめんなさい……」
私は恥ずかしくなって、少し頬を染め、改めて腰掛けた。
家令はクスクス笑いながら、私に言った。
「奥様は本当に……ブラシェール伯爵家のことを考えてくださってますね」
「当たり前でしょう?」
「当たり前を当たり前に出来ること。これって意外と難しいんですよ」
「うーん……そうかもしれない。でも、私にはこれが普通」
私はそう言ってニッコリと微笑んだ。
「ところで奥様。明日はどんなドレスをお召しになりますか?」
そう言われて、私は明日の社交クラブのことを思い出して、ため息をついた。
「まぁ!良くおいで下さいましたわ!」
社交クラブの扉を開きホールに顔を出した私を出迎えたのはマドリー夫人だった。
「お招きいただき、ありがとうございます」
マドリー夫人は私の頭から爪先までをサッと眺めると、ニッコリ微笑んだ。
「素敵なドレスですわね。貴女の美しさを引き立ててるわ~」
そう言ってマドリー夫人は口元を扇で隠す。……少し地味だったかしら?私は今日のドレスをほんの少し後悔した。
「ありがとうございます。マドリー夫人も相変わらずお美しく── 」
「止めて!」
私の鼻先に彼女の扇の先端がかすめる。
「えっ……?」
「その名前で呼ばないで。ここではその名を聞きたくないの」
どうも『マドリー夫人』と呼んだことを責められているようだ。
「では何とお呼びすれば……」
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