愛人を作ってもいいと言ったその口で夫は私に愛を乞う

初瀬 叶

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第67話 Sideレニー

〈レニー視点〉


「はぁ~~~」

「隊長、何度目のため息ですか……。士気が下がるんですけど」

そう言われても、僕の気持ちは晴れないのだから仕方ない。どんよりと頭上に広がる今の空のようだ。

「ひと雨来そうですね」

「だな。隊長!どうします?宿までもうちょっとありますけど、どこかで雨宿りしますか?」
隊員達の声に反応する。

「馬鹿言うな!これ以上遅くなるわけにいかんだろ!」

そう怒鳴った僕はチラリと横の豪華な馬車を見た。

殿下の婚約式への出席で隣国の皇太子殿下のリカルド様がこちらに向かっていると聞いたのもほんの少し前だというのに、まさか辺境まで足を伸ばす羽目になるとは。

隣国との国境でリカルド殿下の馬車が賊に襲われ、殿下付きの護衛が随分とやられてしまった。辺境伯の騎士団によって、賊は討伐されたが、王都までの護衛をこちらの近衛で賄えと言われた時には、嫌な予感がした。

『お前が隊長となり、リカルド殿下の護衛をしろ』
僕の上司である近衛騎士団団長の鶴の一声で、ここに来る事になったのだが……これ以上王都までに時間が掛かれば、婚約式に間に合わない。
っていうか、僕達の到着を悠々と辺境伯邸で待っていた隣国の一行に腹が立つ。待たずにこちらに来れば良いだろう!ならば途中で落ち合えただろうに。

隣の国も跡継ぎ問題できな臭い噂が絶えない。内乱など起きなければ良いが……。友好国とはいえ、巻き込まれるのは御免だ。

結局、宿までの道を急いでいたが、途中で雨が降り出した。

「隊長!どうします?」

「宿まではあと少しだ!急げ!」

僕は馬の腹を蹴りスピードを上げる。後でまた『馬車に酔った』とリカルド殿下に文句を言われるだろうが、知ったこっちゃない。こっちにも都合かあるのだ。


何とか雷が鳴り始める前に宿に到着出来た。

「クソッ!びしょ濡れだ」

僕は馬を降りて、胸ポケットからハンカチを取り出すと、肩や、髪の水滴を拭った。
ハンカチぐらいでは拭き取れないが、気は持ちようだ。

「はぁ~、やっぱり降られちゃいましたね」

隊員は水滴を手で払いながら言った。

「これ以上時間は掛けられんからな、仕方ない」

「ですけどね。……まーた、文句言われますよ『早い』だの『揺れる』だの」

「……覚悟の上だ」

リカルド殿下にとって、本心は婚約式などどうでも良いのだろう。自国が危ないから避難した……婚約式は丁度良い口実だったのだ。だからなのか、全く持って急ごうという気がない。……このままじゃ、僕も婚約式の夜会に参加出来なくなりそうで、ずっとソワソワしていた。

「隊長、ちょっとハンカチ貸して下さいよ。びしょびしょだと宿屋に悪い」

そう言って手を伸ばす隊員の手を叩いた。

「馬鹿言うな!貸せるわけないだろう!」

「な、何でですか?ちょっとぐらいいいじゃないですか!」

「ダメだ!宿屋に頼んで何か拭く物を貸してもらえ!」

僕は自分の背にハンカチを後ろ手に隠す。

「ちょ!別にくれって言ってるわけじゃないのに、酷いじゃないですか。そんな大切な物なんですか?」

隊員は苦笑いだ。だが、僕はその言葉にハッとする。……何故僕はこんなにムキになっているんだろう……と。



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