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第68話 Sideレニー
〈レニー視点〉
「ハ、ハンカチとはどうやって洗えば良いのだ?」
部下に尋ねるのが格好悪く感じて、僕は宿屋の従業員にコソッと質問した。
「洗っておきましょうか?」
おさげ髪の従業員がニッコリと微笑んで僕に手のひらを向ける。
「い、いや!自分でやる!自分でやるから……その……教えて欲しい」
従業員は首を少し傾げたが、直ぐに「桶と石鹸を持って来ますね」と廊下を小走りに去っていった。
その後部屋で習った通りに丁寧にハンカチを洗う。窓際に皺をよーく伸ばして掛けた。この天気じゃ明日までに乾くかどうか……。僕はハンカチに刺繍された鷲をそっと指で撫でた。
女性に刺繍入りのハンカチを貰ったのは初めてだ。騎士にとって、それは大切な意味を持つ。
『無事に帰って来てください』
騎士に贈るハンカチは、謂わばお守りのようなものだ。家や国で待つ恋人や家族が無事を祈り一針一針刺していくと聞いた。
すると──
「隊長、何ニヤニヤしてるんですか?」
直ぐ側で声がして、僕は飛び上がる程驚いた。
「うわっ!びっくりした!何を勝手に入って来てるんだ!」
「何回もノックして、声も掛けたのに返事がないから心配で。ってか、鍵は掛かってなかったですけど」
「ノック……?すまん、気づかなかった」
「どうしちゃったんですか、隊長。リカルド殿下のわがままに疲れちゃったんです?」
「いや……そういうわけでは……」
確かにリカルド殿下は、自分の思い通りにならないと、すぐにへそを曲げる。だが、どこの王族もこんなもんだ。自己中心的で、わがまま。正直慣れっこだ。
「へぇ~!見事な刺繍ですね」
隊員が僕が干したハンカチに手を伸ばす── のを既の所ではたき落とした。
「痛っ!何するんですか!」
「せっかく綺麗に洗ったところだ。汚い手で触るな」
僕はハンカチを隠すように、隊員との間に立つ。
「隊長、さっきから何か変ですよ?それに……何だか慌ててます?正直、もう婚約式に間に合わなくても──」
「ダメだ。婚約式には間に合わせる。……お前らの中にだって王宮の警護にあたる者もいるはずだろう?」
「だからじゃないですか!酒も飲めず、突っ立って貴族眺めながら夜会の警備にまわるより、こうしてのんびり、わがまま殿下に付いて馬に乗ってる方が良いですよ」
「馬鹿を言うな。宿屋の周りだって警戒が必要だ、呑気にしてられるか。それに、お前だって貴族だろう」
「まぁ、一応端くれですけどね。あぁ、そう言えば隊長は夜会に参加するらしいですね。珍しいこともあるものです……ってか、近衛になって初めてじゃないですか?」
「う、うん……まぁ」
僕はその時、何故か頭にデボラの顔がふと浮かんだ。……ダンス、ちゃんと踊れるかな?
「……何でニヤニヤしてるんです?やはり隊長おかしいですよ?」
隊員はまるで変なものを見るような目つきで僕を眺めている。
「なっ!別にニヤけてなんかいない!で、何だ、何か用があったんじゃないのか?」
こいつは結局、何しに来たんだ?
「あ!隊長が変だから忘れるところでした。夕食の準備が整ったそうですよ」
「殿下はもう召し上がったのか?」
「とっくに。あとは俺達だけです。さぁ、食堂に行きましょう」
隊員はそう言うとサッサと背を向けた。僕はもう一度振り返る。
濡れて鷲の羽が色濃くなった刺繍が目に入って、何故か僕は心が温かくなった。
「ハ、ハンカチとはどうやって洗えば良いのだ?」
部下に尋ねるのが格好悪く感じて、僕は宿屋の従業員にコソッと質問した。
「洗っておきましょうか?」
おさげ髪の従業員がニッコリと微笑んで僕に手のひらを向ける。
「い、いや!自分でやる!自分でやるから……その……教えて欲しい」
従業員は首を少し傾げたが、直ぐに「桶と石鹸を持って来ますね」と廊下を小走りに去っていった。
その後部屋で習った通りに丁寧にハンカチを洗う。窓際に皺をよーく伸ばして掛けた。この天気じゃ明日までに乾くかどうか……。僕はハンカチに刺繍された鷲をそっと指で撫でた。
女性に刺繍入りのハンカチを貰ったのは初めてだ。騎士にとって、それは大切な意味を持つ。
『無事に帰って来てください』
騎士に贈るハンカチは、謂わばお守りのようなものだ。家や国で待つ恋人や家族が無事を祈り一針一針刺していくと聞いた。
すると──
「隊長、何ニヤニヤしてるんですか?」
直ぐ側で声がして、僕は飛び上がる程驚いた。
「うわっ!びっくりした!何を勝手に入って来てるんだ!」
「何回もノックして、声も掛けたのに返事がないから心配で。ってか、鍵は掛かってなかったですけど」
「ノック……?すまん、気づかなかった」
「どうしちゃったんですか、隊長。リカルド殿下のわがままに疲れちゃったんです?」
「いや……そういうわけでは……」
確かにリカルド殿下は、自分の思い通りにならないと、すぐにへそを曲げる。だが、どこの王族もこんなもんだ。自己中心的で、わがまま。正直慣れっこだ。
「へぇ~!見事な刺繍ですね」
隊員が僕が干したハンカチに手を伸ばす── のを既の所ではたき落とした。
「痛っ!何するんですか!」
「せっかく綺麗に洗ったところだ。汚い手で触るな」
僕はハンカチを隠すように、隊員との間に立つ。
「隊長、さっきから何か変ですよ?それに……何だか慌ててます?正直、もう婚約式に間に合わなくても──」
「ダメだ。婚約式には間に合わせる。……お前らの中にだって王宮の警護にあたる者もいるはずだろう?」
「だからじゃないですか!酒も飲めず、突っ立って貴族眺めながら夜会の警備にまわるより、こうしてのんびり、わがまま殿下に付いて馬に乗ってる方が良いですよ」
「馬鹿を言うな。宿屋の周りだって警戒が必要だ、呑気にしてられるか。それに、お前だって貴族だろう」
「まぁ、一応端くれですけどね。あぁ、そう言えば隊長は夜会に参加するらしいですね。珍しいこともあるものです……ってか、近衛になって初めてじゃないですか?」
「う、うん……まぁ」
僕はその時、何故か頭にデボラの顔がふと浮かんだ。……ダンス、ちゃんと踊れるかな?
「……何でニヤニヤしてるんです?やはり隊長おかしいですよ?」
隊員はまるで変なものを見るような目つきで僕を眺めている。
「なっ!別にニヤけてなんかいない!で、何だ、何か用があったんじゃないのか?」
こいつは結局、何しに来たんだ?
「あ!隊長が変だから忘れるところでした。夕食の準備が整ったそうですよ」
「殿下はもう召し上がったのか?」
「とっくに。あとは俺達だけです。さぁ、食堂に行きましょう」
隊員はそう言うとサッサと背を向けた。僕はもう一度振り返る。
濡れて鷲の羽が色濃くなった刺繍が目に入って、何故か僕は心が温かくなった。
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