愛人を作ってもいいと言ったその口で夫は私に愛を乞う

初瀬 叶

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第76話

陛下や王太子殿下のダンスが華麗に終わる。私は眺めながら『あの宝石って一体いくらするのかしら?』なーんてくだらない事を考えていた。

次は上位貴族のダンスに移る。一応伯爵位まで上位として入っている為、レニー様が恭しく私の手を取った。

「さあ、行くぞ」

レニー様の顔が強張っていて怖い。緊張し過ぎだ。まるで戦場に行くかのよう。

「レニー様、もう少し肩の力を抜いて」

「わ、分かってる」

私にそう言われたレニー様は一度大きく息を吐き出した。

フロアに出た私達は、向かい合うと改めて手を取り合う。

「顔を下げないでくださいね」

「分かった。……君を見つめておくことにする」

うん?言っていることは合っている。合っているんだが、なんだかこそばゆい。

「そ、そうですね」

何となく調子が狂う。今日のレニー様はやはり何処か変だ。

音楽が始まり、私達はステップを踏む。
レニー様は体躯がしっかりしているので、ステップを踏んでも身体がぶれることがない。正直踊りやすい。

私のドレスがふわりと広がり、ターンも美しく決まる。レニー様の顔はまだ少し緊張気味だが、ちゃんと私の顔を見たままだ。

「その調子です」
私が微笑めば、レニー様もつられて笑顔を見せた。

「辺境に行っている間、練習出来なかったからヒヤヒヤしていた」

会話が出来る余裕さえ見せるレニー様。上出来だ。

「『食わず嫌い』ならぬ『やらず嫌い』ですわ。練習すれば直ぐに上達いたしましたもの」

「な、ならば他の曲も教えてくれるか?君と、もっと踊りたい」

顔を赤らめるレニー様に、不覚にもドキドキしてしまう。

「他の夜会も参加の予定で……?」

「し、社交も伯爵としての務めだろう?」

まるで別人のように当主としての自覚が芽生えたらしい。嬉しいことではあるが、ここまで変化するとは……。結婚当初のギスギスした関係を思えば、進歩と言えるのではないだろうか。
『夫婦』にも色んな形があるのかもしれない。私はふとそんな事を考えていた。

音楽が鳴り止み、ダンスが終わる。私達は改めてお辞儀をして微笑み合った。

差し出したレニー様の腕に私は手を添える。次は下位貴族のダンスが始まる。私達はフロアの端へと移動を始めた。

「何とかなったか……?」
レニー様が不安気に私に尋ねた。

「ええ、とてもお上手でした」
私の言葉にレニー様は明らかにホッとしたようだった。

下位貴族のダンスが終われば、後は王族の皆様へ挨拶をして……それからは自由だ。ダンスを楽しむも良し、酒を嗜むも良し。王宮の庭も開放されている、月夜を散歩するも良し……だ。

「何か飲むか?」

レニー様がそう私に尋ねた時、タイミング良く飲み物が運ばれて来た。

「貰おう」

盆に乗せられたワイングラスを二つレニー様が受け取ると、一つを私に渡す。

「殿下へのご挨拶前にお酒を口にしても大丈夫でしょうか?」

「ワイン一杯ぐらい平気だろ?」

そう言いながら、レニー様は私のグラスにカチリと自分のグラスを合わせた。
その姿が様になっていて、私は改めてレニー様は皆が騒ぐ程の美丈夫なのだと納得する。

私達はダンスが一段落したのち、陛下と殿下へ挨拶に赴いた。
当初の目的は私達の結婚報告だ。思いの外夜会が楽しくて忘れてしまいそうだった。

ダンスも踊った。目的も果たした。

「レニー様、そろそろ帰りますか?」

もうやるべきことは全て済ませた。もう帰っても問題ない。

「い、いや……もう少し!そ、そうだ、庭でもさ── 」

「レニー!」

レニー様が私に何かを言いかけたが、それを掻き消す程の声が聞こえた。

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