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第98話 Sideレニー
〈レニー視点〉
「レニー、楽しかったわね」
劇場の灯りが一斉に灯り、一気に視界が明るくなる。
「あ、あぁ」
正直、暗くなってから何も覚えてない。……多分寝てたな。
隣で明るい声ではしゃぐのはアリシアだ。寝起きの僕に彼女の少し甲高い声が耳障りに聞こえる。
僕は彼女が僕の肩に乗せた手をそっと外して立ち上がった。
「さぁ、帰ろう」
「きっとまだクラッドも帰っていないでしょうし。 そうだ!私、少しお腹が空いちゃった。ねぇ、レニー。近くに美味しいレストランが── 」
「いや、帰ろう。少し疲れた」
「えぇ?怪我しているから近衛のお仕事お休みしてるって聞いたわ。なのに、何を疲れるの?」
彼女はカラカラと笑った。その様子が何だか僕の事を馬鹿にしている様に聞こえる。
「近衛の仕事が休みでも、当主としての仕事があるから──」
「そんなのデボラさんに任せてしまえばいいのよ。彼女お仕事が好きみたいだもの」
この言葉、今までの僕なら何も気にしなかっただろう。だが、今の僕には……物凄く不快に思えた。
「そんな言い方はないだろ。デボラは僕の代わりに領地に心を砕いてくれているんだ。──アリシア、君はハルコン侯爵家のために何をしているんだ?」
僕にそう言われたアリシアは目を見開き、唇を震わせた。
「酷いわ……私の体が、他の人みたいに丈夫でないことを誰よりも知っている貴方が、そんなことを言うなんて……」
「ご、ごめん。だが、デボラのことを── 」
「酷いわレニー。私だってデボラさんみたいに元気だったら、ちゃんと家のために働けたのよ。でもクラッドはそれでも……体の弱い私でも良いからって結婚したの。貴方にとやかく言われたくないわ」
アリシアはガタンと怒った様に席を立ち上がると、僕の前を横切りボックス席から出た。
一瞬、僕は呆気に取られたが、直ぐに思い直して彼女の後を追う。エスコートしてきた責任は最後まで果たさなければならない。
馬車の中でもアリシアは不機嫌を隠そうともせず、僕と目を合わせなかった。
幼い頃からアリシアはむくれると不機嫌さをアピールしてきた。僕は彼女の笑顔が見たくて、必死にご機嫌を取っていたっけ。……しかし、今はそんな気分になれなかった。僕は窓の外を見る。すっかり外は暗く、月明かりと街の光が道を照らしているだけだった。
「……ねぇ、何か私に言う事はないの?」
アリシアが沈黙に耐えられなくなったように口を開いた。
「え?」
「レニー……貴方、結婚してから変わってしまったわ」
アリシアはため息交じりにそう言った。
変わった?── 確かに僕は変わった。伯爵になるということが、単なる名前だけでないことを知った。僕には領地と領民を守る義務がある。大切なものが増えたことにちゃんと気づけた。それも全てデボラのお陰だ。
彼女は美しいだけでなく、賢く温かい。彼女への好意に気付いた時、僕は彼女の凄さを素直に認められるようになった。
ただ……自分の今までの行動のせいで、すっかり彼女は僕の気持ちを誤解している。いや……誤解じゃないか。僕が自らそう彼女に言ったんだ。今さら「あの発言をなかったことにしてくれ」と言ったところで彼女は僕を信じてくれるのだろうか?
「当たり前だ。結婚すれば責任も増える」
「ねぇ……デボラさんは浮気してるのよ?」
彼女はイライラしたようにそう言った。
「いや……それは誤解だった。彼女はそんな女じゃない」
あのレオとかいう女は、周りに自分の性別を偽っているようだった。勝手にその秘密を僕が口にするわけにはいかない。
「誤解じゃないわ!私、見たもの!」
アリシアは怒ったようにそう言った。
「見た?どこで?」
僕がそうアリシアに尋ねた瞬間、彼女はハッとして口を閉ざした。
レオは平民だ。何故アリシアはレオとデボラのことを知ったのだろう?僕は疑問を素直に口にしたが、アリシアがそれを答える前に、ハルコン家に馬車が到着したことを御者が告げた。
「レニー、楽しかったわね」
劇場の灯りが一斉に灯り、一気に視界が明るくなる。
「あ、あぁ」
正直、暗くなってから何も覚えてない。……多分寝てたな。
隣で明るい声ではしゃぐのはアリシアだ。寝起きの僕に彼女の少し甲高い声が耳障りに聞こえる。
僕は彼女が僕の肩に乗せた手をそっと外して立ち上がった。
「さぁ、帰ろう」
「きっとまだクラッドも帰っていないでしょうし。 そうだ!私、少しお腹が空いちゃった。ねぇ、レニー。近くに美味しいレストランが── 」
「いや、帰ろう。少し疲れた」
「えぇ?怪我しているから近衛のお仕事お休みしてるって聞いたわ。なのに、何を疲れるの?」
彼女はカラカラと笑った。その様子が何だか僕の事を馬鹿にしている様に聞こえる。
「近衛の仕事が休みでも、当主としての仕事があるから──」
「そんなのデボラさんに任せてしまえばいいのよ。彼女お仕事が好きみたいだもの」
この言葉、今までの僕なら何も気にしなかっただろう。だが、今の僕には……物凄く不快に思えた。
「そんな言い方はないだろ。デボラは僕の代わりに領地に心を砕いてくれているんだ。──アリシア、君はハルコン侯爵家のために何をしているんだ?」
僕にそう言われたアリシアは目を見開き、唇を震わせた。
「酷いわ……私の体が、他の人みたいに丈夫でないことを誰よりも知っている貴方が、そんなことを言うなんて……」
「ご、ごめん。だが、デボラのことを── 」
「酷いわレニー。私だってデボラさんみたいに元気だったら、ちゃんと家のために働けたのよ。でもクラッドはそれでも……体の弱い私でも良いからって結婚したの。貴方にとやかく言われたくないわ」
アリシアはガタンと怒った様に席を立ち上がると、僕の前を横切りボックス席から出た。
一瞬、僕は呆気に取られたが、直ぐに思い直して彼女の後を追う。エスコートしてきた責任は最後まで果たさなければならない。
馬車の中でもアリシアは不機嫌を隠そうともせず、僕と目を合わせなかった。
幼い頃からアリシアはむくれると不機嫌さをアピールしてきた。僕は彼女の笑顔が見たくて、必死にご機嫌を取っていたっけ。……しかし、今はそんな気分になれなかった。僕は窓の外を見る。すっかり外は暗く、月明かりと街の光が道を照らしているだけだった。
「……ねぇ、何か私に言う事はないの?」
アリシアが沈黙に耐えられなくなったように口を開いた。
「え?」
「レニー……貴方、結婚してから変わってしまったわ」
アリシアはため息交じりにそう言った。
変わった?── 確かに僕は変わった。伯爵になるということが、単なる名前だけでないことを知った。僕には領地と領民を守る義務がある。大切なものが増えたことにちゃんと気づけた。それも全てデボラのお陰だ。
彼女は美しいだけでなく、賢く温かい。彼女への好意に気付いた時、僕は彼女の凄さを素直に認められるようになった。
ただ……自分の今までの行動のせいで、すっかり彼女は僕の気持ちを誤解している。いや……誤解じゃないか。僕が自らそう彼女に言ったんだ。今さら「あの発言をなかったことにしてくれ」と言ったところで彼女は僕を信じてくれるのだろうか?
「当たり前だ。結婚すれば責任も増える」
「ねぇ……デボラさんは浮気してるのよ?」
彼女はイライラしたようにそう言った。
「いや……それは誤解だった。彼女はそんな女じゃない」
あのレオとかいう女は、周りに自分の性別を偽っているようだった。勝手にその秘密を僕が口にするわけにはいかない。
「誤解じゃないわ!私、見たもの!」
アリシアは怒ったようにそう言った。
「見た?どこで?」
僕がそうアリシアに尋ねた瞬間、彼女はハッとして口を閉ざした。
レオは平民だ。何故アリシアはレオとデボラのことを知ったのだろう?僕は疑問を素直に口にしたが、アリシアがそれを答える前に、ハルコン家に馬車が到着したことを御者が告げた。
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