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第106話
心配になった私は食事もそこそこに、レニー様を追って玄関ホールに向かった。
そこには険悪なムードの二人。漏れ聞こえてきたクラッド様の声には、アリシア様への不満が含まれる。
「クラッド様、おはようございます」
私が出てきたことにより、クラッド様は笑顔に、レニー様は不機嫌そうな顔をした。
「やぁ、デボラ。朝早くから悪いね。仕事が立て込んでいて、この時間しか取れなくて」
「なら、誘わなきゃいいだろ」
クラッド様の声に被せるようにレニー様は反論した。私が口を挟む隙もない。
しかし、クラッド様はレニー様のそんな言葉など意に介せず、私へと微笑みかけた。
「ハルコン侯爵家が贔屓にしているドレスショップがあってね。無理を言って既に店を開けてもらっている。じゃあ、行こうか」
クラッド様が私の方へと手を差し出す。それをレニー様がはたき落とした。
「痛いじゃないか」
「気安くデボラに触るなよ」
レニー様はクラッド様を睨んでいるが、当の本人は苦笑いだ。
「エスコートは当たり前だがお前がそう言うなら仕方ない。デボラ、さぁ出かけようか」
「あの、まだ支度が── 」
「ドレスは必要ない。晩餐会には出席させないからな」
レニー様は今度は私の言葉に被せてきた。私とクラッド様の間に立ちはだかるように腕を組んでいる。
「レニー……。これは陛下の命を受けたものだ。パートナー同伴でと言われている」
「だから、アリシアを── 」
「国家の恥を晒すのか?」
クラッド様の声が一際冷たく感じる。『恥』とはさすがに言い過ぎだろう。
「兄さん!さすがにそれはっ──」
「クラッド様、それは言い過ぎ──」
私とレニー様の言葉が重なる。しかし、クラッド様は耳を貸すことなく話し続けた。
「陛下に『お前の妻では力不足だ』と言われた僕の気持ちが分かるかい?顔から火が出る程恥ずかしかったよ」
私は別にアリシア様を好きなわけではない。いや……言葉を選ばずに言うなら、苦手だ。
しかし、それでも私はクラッド様の物言いにカチンときていた。
「選んだのはクラッド様では?」
私の声色はきっと酷く冷えていただろう。それでも言わずにはいられなかった。約半年前『初恋だった』と少し照れたように言っていたクラッド様は何処へ行ったというのか。
クラッド様はスッと真顔になる。さっきまでの微笑すらなくなってしまった。
「心の底から後悔しているよ」
クラッド様の声は今まで聞いたことのないような暗さを含んでいた。
しかし、すぐさまクラッド様はいつものように柔らかく微笑むと私に言った。
「支度がまだだと言っていたね。今のままでも十分美しいと思うが。あまり時間がないんでね、急いで支度して来てくれるかな?」
表情は柔らかいながらも、その声には有無を言わさぬ圧があった。私は無意識にその圧に屈し頷いてしまう。
「デボラ!」
レニー様はほんの少し私を責めるように名を呼んだが、思い直したようにクラッド様に向き直ると一言言った。
「僕もついて行く。ドレス代も僕が支払うから」
そこには険悪なムードの二人。漏れ聞こえてきたクラッド様の声には、アリシア様への不満が含まれる。
「クラッド様、おはようございます」
私が出てきたことにより、クラッド様は笑顔に、レニー様は不機嫌そうな顔をした。
「やぁ、デボラ。朝早くから悪いね。仕事が立て込んでいて、この時間しか取れなくて」
「なら、誘わなきゃいいだろ」
クラッド様の声に被せるようにレニー様は反論した。私が口を挟む隙もない。
しかし、クラッド様はレニー様のそんな言葉など意に介せず、私へと微笑みかけた。
「ハルコン侯爵家が贔屓にしているドレスショップがあってね。無理を言って既に店を開けてもらっている。じゃあ、行こうか」
クラッド様が私の方へと手を差し出す。それをレニー様がはたき落とした。
「痛いじゃないか」
「気安くデボラに触るなよ」
レニー様はクラッド様を睨んでいるが、当の本人は苦笑いだ。
「エスコートは当たり前だがお前がそう言うなら仕方ない。デボラ、さぁ出かけようか」
「あの、まだ支度が── 」
「ドレスは必要ない。晩餐会には出席させないからな」
レニー様は今度は私の言葉に被せてきた。私とクラッド様の間に立ちはだかるように腕を組んでいる。
「レニー……。これは陛下の命を受けたものだ。パートナー同伴でと言われている」
「だから、アリシアを── 」
「国家の恥を晒すのか?」
クラッド様の声が一際冷たく感じる。『恥』とはさすがに言い過ぎだろう。
「兄さん!さすがにそれはっ──」
「クラッド様、それは言い過ぎ──」
私とレニー様の言葉が重なる。しかし、クラッド様は耳を貸すことなく話し続けた。
「陛下に『お前の妻では力不足だ』と言われた僕の気持ちが分かるかい?顔から火が出る程恥ずかしかったよ」
私は別にアリシア様を好きなわけではない。いや……言葉を選ばずに言うなら、苦手だ。
しかし、それでも私はクラッド様の物言いにカチンときていた。
「選んだのはクラッド様では?」
私の声色はきっと酷く冷えていただろう。それでも言わずにはいられなかった。約半年前『初恋だった』と少し照れたように言っていたクラッド様は何処へ行ったというのか。
クラッド様はスッと真顔になる。さっきまでの微笑すらなくなってしまった。
「心の底から後悔しているよ」
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しかし、すぐさまクラッド様はいつものように柔らかく微笑むと私に言った。
「支度がまだだと言っていたね。今のままでも十分美しいと思うが。あまり時間がないんでね、急いで支度して来てくれるかな?」
表情は柔らかいながらも、その声には有無を言わさぬ圧があった。私は無意識にその圧に屈し頷いてしまう。
「デボラ!」
レニー様はほんの少し私を責めるように名を呼んだが、思い直したようにクラッド様に向き直ると一言言った。
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