107 / 162
第107話
「デボラ、これなんかどうかな?」
「いや、デボラにはこっちの方が似合う。なぁ、デボラ、こっちのドレスがいいよな?」
二人がこぞって私にドレスを勧めてくれるのはありがたいのだが『こっちだ』『いや、こっちの方が』と競うように私の元へとドレスを運んでくるのが、どうにも鬱陶しい。
私はそんな二人の間をぬって、一着のドレスの前へと向かう。
「こちらにいたします」
私が選んだのは二人がどちらとも選ばなかった一着。どちらのオススメを選んでも、何となくモヤモヤが残るに違いない。これが私の最適解だ。
「少し地味じゃないか?」
「落ち着き過ぎてはいないだろうか?」
二人は少し不満気な顔をしていたが、私はそれを無視してニッコリと微笑む。
「隣国の国旗の色は濃い藍色と白を基調としております。このドレスも同じ。皇太子殿下と食事をするのであれば、これが喜ばれるかと」
私の答えに二人はハッとしたように自分の手に持っていたドレスに視線を落とす。二人とも自分の髪の色だ、瞳の色だとドレスを選びがちだったことを反省したようだ。
「なるほどデボラの言う通りだな」
レニー様は納得したように微笑んだ。
「デボラに言われるまで気づかないとは……僕は殿下の側近失格かな」
クラッド様も苦笑しながらも納得してくれたようだ。
……正直、この三人の空間から逃げ出したい。なんとも落ち着かない。レニー様の態度はまぁ、分かる。昨日私に好かれるように努力すると誓ったばかりだ。だが、どうしてもクラッド様の態度には違和感しか感じない。
元々クラッド様は私に対して敬意を持って接してくれていたと思う。お茶会の準備の時だってそうだ。だが、今は……なんと言葉にすれば良いのか分からないが、それ以上の親しさを感じるのだ。……戸惑いしかない。
結局、最後の最後までドレスの代金をどちらが支払うかで揉めていたが、私はクラッド様にドレス代、レニー様にアクセサリー代を支払ってもらうことで、事なきを得た。
結局、外出から戻った私はヘトヘトだった。これを気疲れというのだろう。
しかし、今日はハロルドが領地に戻る日。疲れていても彼の見送りぐらいはきっちりしたい。
「奥様、果樹園の再建のための資金をありがとうございました。これでまだまだ増やせそうです」
ハロルドが私に深々と頭を下げるのを私は手で制した。
「私は予算の改定案を出しただけ。実際お金を出してくれたのはレニー様よ」
私は隣に立つレニー様に微笑んだ。彼も同じように笑顔を私に返してくれる。……ほんの少し頬を赤らめながら。
「旦那様、本当にありがとうございます。今、領地はとても活気づいています。雰囲気も凄く良くて」
ハロルドはもう一度、今度はレニー様に向けて深々と頭を下げた。
「農作物は天候に左右される。こればかりは神の采配だが、きっと上手くいくと僕も信じてる。ハロルド、領地のことは任せた。近いうちにまた顔を出すから。……デボラと二人で」
その言葉に顔を上げたハロルドは嬉しそうに笑った。
「旦那様が領民を気にかけてくれていると、そう思うだけで皆安心します。お二人が領地に足を運ぶまでに今の倍に収穫量を増やしてみせます」
ハロルドの力強い言葉に私達も頷いた。
ハロルドを乗せた馬車を見送りながら、レニー様が静かに言った。
「机に向かっている時間は少し苦痛だが。これからの領地のことを考えるとワクワクする自分がいるよ。領地経営をもっと本格的に学ばなければな。……デボラ、教えてくれるかい?」
「喜んで。ブラシェール伯爵領の為に二人で共に頑張りましょう」
そう私が言えば、レニー様は微笑んで私の手を握る。私達はそのまま、手を繋いで屋敷の方へと歩みを進めた。
「いや、デボラにはこっちの方が似合う。なぁ、デボラ、こっちのドレスがいいよな?」
二人がこぞって私にドレスを勧めてくれるのはありがたいのだが『こっちだ』『いや、こっちの方が』と競うように私の元へとドレスを運んでくるのが、どうにも鬱陶しい。
私はそんな二人の間をぬって、一着のドレスの前へと向かう。
「こちらにいたします」
私が選んだのは二人がどちらとも選ばなかった一着。どちらのオススメを選んでも、何となくモヤモヤが残るに違いない。これが私の最適解だ。
「少し地味じゃないか?」
「落ち着き過ぎてはいないだろうか?」
二人は少し不満気な顔をしていたが、私はそれを無視してニッコリと微笑む。
「隣国の国旗の色は濃い藍色と白を基調としております。このドレスも同じ。皇太子殿下と食事をするのであれば、これが喜ばれるかと」
私の答えに二人はハッとしたように自分の手に持っていたドレスに視線を落とす。二人とも自分の髪の色だ、瞳の色だとドレスを選びがちだったことを反省したようだ。
「なるほどデボラの言う通りだな」
レニー様は納得したように微笑んだ。
「デボラに言われるまで気づかないとは……僕は殿下の側近失格かな」
クラッド様も苦笑しながらも納得してくれたようだ。
……正直、この三人の空間から逃げ出したい。なんとも落ち着かない。レニー様の態度はまぁ、分かる。昨日私に好かれるように努力すると誓ったばかりだ。だが、どうしてもクラッド様の態度には違和感しか感じない。
元々クラッド様は私に対して敬意を持って接してくれていたと思う。お茶会の準備の時だってそうだ。だが、今は……なんと言葉にすれば良いのか分からないが、それ以上の親しさを感じるのだ。……戸惑いしかない。
結局、最後の最後までドレスの代金をどちらが支払うかで揉めていたが、私はクラッド様にドレス代、レニー様にアクセサリー代を支払ってもらうことで、事なきを得た。
結局、外出から戻った私はヘトヘトだった。これを気疲れというのだろう。
しかし、今日はハロルドが領地に戻る日。疲れていても彼の見送りぐらいはきっちりしたい。
「奥様、果樹園の再建のための資金をありがとうございました。これでまだまだ増やせそうです」
ハロルドが私に深々と頭を下げるのを私は手で制した。
「私は予算の改定案を出しただけ。実際お金を出してくれたのはレニー様よ」
私は隣に立つレニー様に微笑んだ。彼も同じように笑顔を私に返してくれる。……ほんの少し頬を赤らめながら。
「旦那様、本当にありがとうございます。今、領地はとても活気づいています。雰囲気も凄く良くて」
ハロルドはもう一度、今度はレニー様に向けて深々と頭を下げた。
「農作物は天候に左右される。こればかりは神の采配だが、きっと上手くいくと僕も信じてる。ハロルド、領地のことは任せた。近いうちにまた顔を出すから。……デボラと二人で」
その言葉に顔を上げたハロルドは嬉しそうに笑った。
「旦那様が領民を気にかけてくれていると、そう思うだけで皆安心します。お二人が領地に足を運ぶまでに今の倍に収穫量を増やしてみせます」
ハロルドの力強い言葉に私達も頷いた。
ハロルドを乗せた馬車を見送りながら、レニー様が静かに言った。
「机に向かっている時間は少し苦痛だが。これからの領地のことを考えるとワクワクする自分がいるよ。領地経営をもっと本格的に学ばなければな。……デボラ、教えてくれるかい?」
「喜んで。ブラシェール伯爵領の為に二人で共に頑張りましょう」
そう私が言えば、レニー様は微笑んで私の手を握る。私達はそのまま、手を繋いで屋敷の方へと歩みを進めた。
あなたにおすすめの小説
わたしは夫のことを、愛していないのかもしれない
鈴宮(すずみや)
恋愛
孤児院出身のアルマは、一年前、幼馴染のヴェルナーと夫婦になった。明るくて優しいヴェルナーは、日々アルマに愛を囁き、彼女のことをとても大事にしている。
しかしアルマは、ある日を境に、ヴェルナーから甘ったるい香りが漂うことに気づく。
その香りは、彼女が勤める診療所の、とある患者と同じもので――――?
「妾の子だから」と呑気に構えていたら、次期公爵に選ばれました
木山楽斗
恋愛
父親であるオルガント公爵が大病を患った、その知らせを聞いた妾の子のヘレーナは、いい気味であるとさえ思っていた。
自分と母を捨てた父のことなど、彼女にとっては忌むべき存在でしかなかったのだ。ただ同時にヘレーナは、多くの子がいるオルガント公爵家で後継者争いが起こることを予感していた。
ただヘレーナは、それは自分には関係がないことだと思っていた。
そもそも興味もなかったし、妾の子の中でも特に存在感もない自分にはそんな話も回ってこないだろうと考えていたのだ。
他の兄弟達も、わざわざ自分に声をかけることもない。そう考えていたヘレーナは、後継者争いを気にせず暮らすことにした。
しかしヘレーナは、オルガント公爵家の次期当主として据えられることになった。
彼の兄姉、その他兄弟達が彼女を祭り上げたのだ。
ヘレーナはそれに困惑していた。何故自分が、そう思いながらも彼女は次期当主として務めることになったのだった。
※タイトルを変更しました(旧題:「どうせ私は妾の子だから」と呑気にしていたら、何故か公爵家次期当主として据えられることになりました。)
あなたの隣に私は必要ですか?
らんか
恋愛
政略結婚にて、3年前より婚約し、学園卒業と共に嫁ぐ予定であったアリーシア。
しかし、諸事情により結婚式は延期され、次の結婚式の日取りさえなかなか決められない状況であった。
そんなアリーシアの婚約者ルートヴィッヒは、護衛対象である第三王女ミーアの傍を片時も離れようとしない。
月1回の婚約者同士のお茶会もすぐに切り上げてしまい、夜会へのエスコートすらしてもらった事がない。
そんな状況で、アリーシアは思う。
私はあなたの隣に必要でしょうか? あなたが求めているのは別の人ではないのでしょうかと。
花嫁は忘れたい
基本二度寝
恋愛
術師のもとに訪れたレイアは愛する人を忘れたいと願った。
結婚を控えた身。
だから、結婚式までに愛した相手を忘れたいのだ。
政略結婚なので夫となる人に愛情はない。
結婚後に愛人を家に入れるといった男に愛情が湧こうはずがない。
絶望しか見えない結婚生活だ。
愛した男を思えば逃げ出したくなる。
だから、家のために嫁ぐレイアに希望はいらない。
愛した彼を忘れさせてほしい。
レイアはそう願った。
完結済。
番外アップ済。
婚約者が他の女性に興味がある様なので旅に出たら彼が豹変しました
Karamimi
恋愛
9歳の時お互いの両親が仲良しという理由から、幼馴染で同じ年の侯爵令息、オスカーと婚約した伯爵令嬢のアメリア。容姿端麗、強くて優しいオスカーが大好きなアメリアは、この婚約を心から喜んだ。
順風満帆に見えた2人だったが、婚約から5年後、貴族学院に入学してから状況は少しずつ変化する。元々容姿端麗、騎士団でも一目置かれ勉学にも優れたオスカーを他の令嬢たちが放っておく訳もなく、毎日たくさんの令嬢に囲まれるオスカー。
特に最近は、侯爵令嬢のミアと一緒に居る事も多くなった。自分より身分が高く美しいミアと幸せそうに微笑むオスカーの姿を見たアメリアは、ある決意をする。
そんなアメリアに対し、オスカーは…
とても残念なヒーローと、行動派だが周りに流されやすいヒロインのお話です。
【完結】大好き、と告白するのはこれを最後にします!
高瀬船
恋愛
侯爵家の嫡男、レオン・アルファストと伯爵家のミュラー・ハドソンは建国から続く由緒ある家柄である。
7歳年上のレオンが大好きで、ミュラーは幼い頃から彼にべったり。ことある事に大好き!と伝え、少女へと成長してからも顔を合わせる度に結婚して!ともはや挨拶のように熱烈に求婚していた。
だけど、いつもいつもレオンはありがとう、と言うだけで承諾も拒絶もしない。
成人を控えたある日、ミュラーはこれを最後の告白にしよう、と決心しいつものようにはぐらかされたら大人しく彼を諦めよう、と決めていた。
そして、彼を諦め真剣に結婚相手を探そうと夜会に行った事をレオンに知られたミュラーは初めて彼の重いほどの愛情を知る
【お互い、モブとの絡み発生します、苦手な方はご遠慮下さい】
【完結】魅了魔法のその後で──その魅了魔法は誰のため? 婚約破棄した悪役令嬢ですが、王太子が逃がしてくれません
瀬里@SMARTOON8/31公開予定
恋愛
その魅了魔法は誰のため?
一年前、聖女に婚約者である王太子を奪われ、婚約破棄された悪役令嬢リシェル・ノクティア・エルグレイン。
それが私だ。
彼と聖女との婚約披露パーティの噂が流れてきた頃、私の元に王太子が訪れた。
彼がここに来た理由は──。
(全四話の短編です。数日以内に完結させます)
【完結】愛くるしい彼女。
たまこ
恋愛
侯爵令嬢のキャロラインは、所謂悪役令嬢のような容姿と性格で、人から敬遠されてばかり。唯一心を許していた幼馴染のロビンとの婚約話が持ち上がり、大喜びしたのも束の間「この話は無かったことに。」とバッサリ断られてしまう。失意の中、第二王子にアプローチを受けるが、何故かいつもロビンが現れて•••。
2023.3.15
HOTランキング35位/24hランキング63位
ありがとうございました!