愛人を作ってもいいと言ったその口で夫は私に愛を乞う

初瀬 叶

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第128話

「こちらを」

気合いを入れて屋敷の扉を開いた私達の前に、執事が深々と頭を下げている。その手に持つのは『辞表』

「ずいぶんと用意がいいな」
レニー様はほんの少し不快感を滲ませながらそう言った。

「侯爵邸にお二人が招待された段階で覚悟しておりましたので」

レニー様は執事の辞表を封筒から出してサッと目を通すと、私にそれを寄越した。私もそれを受け取ると目を通す。

「それで?何か言いたいことはあるか?」
レニー様は刺々しい物言いで執事の様子を窺う。

「言いたいことはございません。言い訳もいたしません。私のやったことは執事として正しくないことはわかっておりますから」

執事はそうきっぱりと言った。その様子はどこか清々しくもあり、私もなんだか気分が悪い。

「ねぇ……貴方の主は誰なの?レニー様?それともクラッド様?」

執事の肩がほんの少しピクリと跳ねたのを見逃さなかった。

「……私の主は──」
「その間が答えね。よく分かったわ。レニー様を主と認めない人にこの家の執事を任せるつもりはないし──」

私は執事の言葉を待たずに、そう言った。言葉を切った私はレニー様に顔を向ける。レニー様は小さく頷くと執事に言った。

「僕は良い主人ではなかったかもしれないが、これでもここの当主なんでね。荷物を纏めて早めに出て行く手筈を整えてくれ」

「……本当に申し訳ありません。直ぐに出ていきます」

執事は深々と頭を下げたが、どうしてもそれが私には心からの言葉に聞こえず、何とも嫌な気持ちのまま、玄関ホールに残る執事に背を向けた。

湯浴みを済ませ、私は寝室へと向かう。今日は色んなことが起こりすぎていて疲れた。

夫婦の寝室の扉を開けると、そこにはまだレニー様の姿はなかった。

執事の件は、少なからずレニー様にもダメージを与えていると思う。主として認められていなかったのだと、はっきりと分かってしまったのだから。

ほんの少しレニー様を待ってみたが、疲れた私は寝台の魅力に抗えず、のっそりと寝台に横たわった。

先に休んでしまっても構わないかしら?レニー様のことは気になるが、もう瞼を開けておくのが限界だ。
それにしてもレニー様、遅いな……と思っていたところに小さくキィ……という音が聞こえる。

寝室の扉が細く開けられていて、そこに人の影がチラついている。── が、その人物は何故かそこから微動だにしない。
ここを覗く人物なんてレニー様しか思いつかないのだが……。

私はゆっくりと上半身を起こす。

「……レニー様?」


扉から除く人影がピクリと動く。うん、やっぱりレニー様で間違いない。

そのまま暫くすると、ギィーッと大きく扉が開かれて、レニー様が姿を現した。
しかし、その顔は何とも言えない表情を浮かべている。
執事の件がそんなにショックだったのだろうか?


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