愛人を作ってもいいと言ったその口で夫は私に愛を乞う

初瀬 叶

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第139話

隣国からの返事によると、王妃のイヤリングの行方は分からぬまま。皇太子殿下いや……元皇太子殿下のリカルド様も知らぬということだったのだが……それよりも驚くべき話が我が国に届いた。


「アリシア様の行方が分からなくなっ……た?」

私は持っていたパンをポトリと落とした。朝食を食べていたレニー様は難しい顔をしながらも「今日のレーズンパンは焦げてないな。料理長が作ったのか?」と首を傾げていた。

「今日も私が作りました!上達しただけです!── って、そうじゃなくて!どうしてそんなに落ち着いているんですか!?心配じゃないんですか!?」

「そうか!ついに焦げずにパンを焼けるようになったんだな。凄いね、努力の結晶だ。── 心配しても仕方ない。あちらの国もアリシアとリカルド様との関係があまり重要ではない、と判断したからか、アリシアが逃げ出したことを重く受け止めていないようだ」

パンの話がしたいのか、アリシア様の話がしたいのか、もうよく分からない。褒められているようだが、私はそれどころではない。

「クラッド様は何と?」

「昨日報告があった時には驚いていたようだが、別に気にしていないみたいだったよ。ちなみに兄さんは次の相手を探し始めているし」

「は?もう?──いや、今はそれよりもアリシア様のことを──」

「デボラ、君はアリシアに浮気者だと嘘をつかれたり、せっかくのお茶会の準備を無駄骨にされたのに、まだアリシアを心配してあげているのか……本当に君は心優しい人なんだな」

「それとこれとは話が別です。隣国の言葉をアリシア様は殆ど喋れませんし右も左も分からない土地で……」

「正直、逃げなくても処刑されるようなことはなかったんだから、大人しくリカルド様と幽閉されていれば良かったんだよ。貴族専用の塔だ、衣食住に困ることはない。無駄に逃げたりするから……」

男とは……興味のなくなった女にはこれほど非情になれるのだろうか?

「でも、国境沿いでアリシア様が隣国に捕縛された時、レニー様はどうにかしようと思ったのではないですか?」

「あの時はつい……な。今まで守らなければと思っていた『癖』のようなものだ。あとでゆっくり考えたら、元々それが彼女の選んだ道なんだからって納得したんだよ」

アリシア様は皇太子妃になれると信じてリカルド様と共に隣国へ行ったのだ。まさか幽閉されるとは夢にも思っていなかっただろう。
私が呆れたようにレニー様を見ていると、彼はバツが悪そうに、少し肩を竦めた。

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