愛人を作ってもいいと言ったその口で夫は私に愛を乞う

初瀬 叶

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第146話

「奥様、王宮からお呼び出しです」

私もレオナと共にテーブルに並べられたジャムに値札を付けていると、家令が慌ててやって来た。

「王宮?まさかレニー様に何か?」

途端に不安になる。騎士は怪我がつきもの。そう頭で理解していても、『王宮からの呼び出し』などと聞くとドキリとするのは仕方ない。

「いえ。王妃陛下のイヤリングの件で……と」

イヤリングの件と言われても、私は何もしていないのだけど……。私はチラリとレオナを見た。今回の功労者はレオナだ。私の視線に気付いたレオナは、笑顔を見せた。

「ここは、大丈夫ですよ。もう殆ど商品は並べ終わりましたし、後は売るだけ── 」

その言葉に被せるように、執事が声を上げた。

「あ、あの!私が手伝いますので、その……奥様は王宮へ……」

執事がレオナの様子を窺って少しモジモジしている。

「え?いいんですか?ありがとうございます!デボラ様、じゃあ、ここは二人で大丈夫ですから」

レオナの答えに明らかにホッとする執事。── 断られなくて良かったわね、と私もなんだか自分までむず痒い気持ちになった。


「そう?じゃあちょっと行ってくるわ」

私はそう言ってからチョイチョイと執事を手招きした。
執事は私に近寄ると少し背を屈める。

「大工の皆様にお昼ご飯の用意を。それと── 」

私が少し小声になると、執事はなお一層背を屈め私の口元に耳を寄せた。

「レオナに迷惑をかけないようにね。……凄く良い子なの。応援はしてあげるけど、あまり焦ってはダメよ」

執事の顔は真っ赤になった。

「お、奥様……!」

「じゃあね!後は頼んだわよ」

私は迎えに来た家令と共に急いで馬車に向かう。城へ向かうなら着替えを済まさなければならない。


私は慌てて着替えを済ませると、直ぐに王宮へ向かう。

案内された部屋には陛下と妃陛下、そしてレニー様とクラッド様が待っていた。

「お待たせしてしまい、申し訳ありません」

私は深く腰を落とす。謝罪の意味も込めて挨拶をした。

「貴女に直接お礼が言いたかったの」

一番初めに口を開いたのは、妃陛下だった。

「イヤリングを見つけてくれて本当にありがとう」

妃陛下は例のイヤリングを手に握り、嬉しそうに微笑んでいる。

「いえ……あの── 」

アリシア様を捕まえたのはレオナだし、イヤリングを見つけたのはレニー様だ。私は結局何もしていない。それなのに、こんな風に感謝されるとどう答えれば良いのか分からない。

隣に立つレニー様が、私の腰にスッと手を回すと、私に向かってこっそりとウインクした。

「妃陛下、今回は偶然ではありますがイヤリングを見つけることが出来、私達夫婦もとても嬉しく思っています」

レニー様の言葉に陛下も大きく頷いた。

「確かに偶然かもしれないが、あの女があの日あの場所に現れなければ、このイヤリングもいつの日か他の誰かの手に渡っていたかもしれん。私からも礼を言おう」

「このイヤリングはね……然程価値はないの。だからこれを拾った侍女も私の物だとは思わなかったみたい。でも母の形見で……本当にありがとう」

妃陛下は自分の手の中のイヤリングを大事そうに見つめる。その瞳は潤んでいるように見えた。

こんな時に「実は私は何の関係もないんです」などと言う勇気はない。

「そ、それは良かったです……」

私はそう小さな声で言う他なかった。

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