明るいパーティー(家族)計画!勇者になれなかった僕は…

にゃも

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勇者召喚2

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    夢を見ているようだ。
 ただ何もない白い部屋。
 上も下も左右もどこまで続いているかもわからず、感覚の取れない世界。

 「…術で…それにしては珍しい…でも案外君みたいなのが…」

 誰かが何かを言っていた気がする。

 「ここを出ると…記憶…でも、心配しな…通じる…魔王に…たら…しく。」

************************

 目を覚ますと知らないおっさんが顔を覗きこんでいた。

 ここは知らない天井のシーンでは?と思うも慌てて転がると立ち上がる。

(今何をしようとしていた!!)

 慌てて体を調べるが裸ではなく直前まで着ていた制服のようである。倒れていたらしく恐らく目の前の男性は人口呼吸をしようとしていた所らしい。

 「おお!成功だ!目を覚ましたぞ!」

 顔を近づけていた男が大げさに驚くと周りがざわつき始める。

 「静粛に!」

 威厳のある声が響くと周りは静かになる。

 (どこかの大きなホテルだろうか?やたらと広いホールにいるようだが。)

 それにしてもここはどこの国だろう。こんなホテル日本にあるだろうか。
 それともヨーロッパあたりだろうか。もしくは何かの撮影中のセットの中だろうか?
 去年習った教科書に出てくるヨーロッパの古代の建築物に似ている気がする。

 (でも気絶しているうちに誰かが海外へ運んだとかそんな馬鹿な話…でも誰かに何か言われたような気がするが思い出せない。)

 日本語?やはり日本のどこかなのだろうか。

 西洋風な作りの建物はともかくとして役者らしき人たちの格好もセットに合わせた感じである。顔立ちも日本人とは違った面持ちである。

 西洋の騎士の物語の撮影だろうか?けれども周りを見回すがカメラらしき機材は一切ない。

 静粛にと言った男は椅子の上に座っており見事な王冠をしている。誰がどう見ても王様である。

 その王の前や俺達を囲い込むようにしているのは、西洋の甲冑に似たものを着ている騎士や棒を持ち何やら、ぶつぶつと言っている集団である。

 (まさか異世界とか言わないよな…。もしくは西洋の過去へタイムリープしたとか?)

 顔をつねってみると痛みがある。とりあえず、夢の線は消えたようだ。

 「知らない天井?」

 「ここはどこだ?」

 お決まりの台詞をいうマネージャーと苛立たし気に頭をさすっているレイ。飛ばされた時に何かに頭をぶつけたのか、あの時の頭痛の影響があるのかは知らないがかなり機嫌が悪そうだ。

 「おお、言葉が通じるではないか!」

 (これはまた…)

 俺は息をのんでしまう。いや、起きたての幼馴染2人も次の言葉が出てこない所を見ると同じ事を思って固まってしまったのだろう。囲んでいた兵をどかすように中央を我が物顔で進んできた人物はどう見ても王女様だろう。

 「成功したようじゃな。よくやったフレミア。しかし姿が見えぬが…まあよいわ。しかし三人とは…そなたらの名前は何という?」

 金髪の長い髪を一部クルクルと巻いているドリルな髪をした少しキツい顔をした美人が近づいてくる。見るからに王女といった白と赤のドレスを着た女性が目の前に来ると立ち止まる。

 「ほう、よい顔をしておるな。そなた名前は?」

 レイを見ると王女らしき人は目を細めニヤリと笑う。聞かれたレイはまだ混乱しているようだが、答えた方がいいと判断すると名前を名乗った。

 「俺は佐伯 玲だ…でございます。」

 さすがにレイでもため口は不味いと判断したようだ。相手の表情を探りながら言葉を選んでいるらしい。

 「ほう、サエキ レイか。珍しい名前じゃな。異世界人ならば当然か。よし、勇者レイと今後は呼ばせてもらおう。」

 「あの…私は…」

 「誰が口を開いてよいと言った女よ。おぬしに興味などない。ふむ、2人と聞いていたが…3人とは。」

 王女は俺をチラリと見るとため息をつく。何やら腹の立つ女である。

 「マリアンヌ。何故ここにいる?これから余がこの者たちと話をするのだ。後で勇者には会わせると約束しよう。だからまずはここから去るがよい。」

 「いいじゃないお父様。私こそが勇者様に愛される…」

 「マリアンヌ、娘とて容赦はせぬぞ。2度は言わん消え失せよ。」

 「っ、わかりましたわ!ローラ!いらっしゃい。」

 女は侍女を呼び寄せると王を睨むようにして出ていく。

 (あいつ、あの堂々とした大人らしさをしておきながら王の娘だったのか王女ではなく姫だったのか。それにしても侍女の人…顔に痣があったが…。)

 ゴホンッ

 去る姫を3人ともが見ていたのだが王が咳払いをしたことで視線を王へと向けなおす。

 レイだけは再度チラリと姫を見てニヤリとした笑みを浮かべていた。

 「異世界の住人達よ。まずはここに召喚した事を詫びよう。」

 一ミリ足りとも下げない頭と相応しくない態度で詫びの言葉を王は吐く。

 「この世界に呼んだのは…」

 王は説明する。

 この世界が魔王復活により滅ぶらしい。それを阻止する為に古い文献にあった勇者となる異世界人を召喚したという話である。
 何故俺達が…という疑問には右大臣ミケロが説明する。
 要約すると召喚には三つの条件があるらしく、適性と能力など条件に合致したのが俺達だったらしい。
 異世界からの勇者は一人のみ。
 我々三名のうちの一人が勇者らしい。もう一人は勇者ではないがこの世界で生きる為の才能があると判断され巻き込まれた形で召喚されたのだろうという事である。

 「では、もう一人は?」

 レイが途中で疑問を投げかける。

 「それは、勇者の従者として適合したのだろう。勇者に近しい者で隠れた才能があるとみなされたのか…。もしくは勇者の寵愛を受けた名残が残っていたかですな。」

 大臣のミケロが代わりに答えるとビクリッと体を震わせるマネージャー。

 「まあ、適性を見れば理由はわかりますがな。」

 「ああ、なるほどね。ならナツミは何にも能力のない人間だろう。そして俺が勇者なのだろうな。ユウキはまあ、いつも通り俺のサポート役って所だろう。」

 レイは何食わぬ顔で王に言う。

 「異世界で俺が勇者か。ははっ、RPGみたいで最高じゃないか!魔王退治か…面白そうだけどリスクがありそうだな。勇者の俺に対してメリットはないのかな?」

 「失礼だろう貴様!!」

 兵の一人が大声を出すが、王が制止する。

 「お前が勇者で間違いないのだな?」

 「ああ、調べるまでもなく俺が勇者だ。ナツミを今朝抱いているからな。」

 絶望の表情を浮かべているナツミ。

 先程の大臣ミケロの話で言っていた勇者の体液などの残りに反応したのではないかという話だろう。二人はセットとして呼ばれたのではないだろうか。心身ともにサポートする役として。

 「そうか…なら俺だけが本当の意味で巻き込まれたんだな。」

 感情を隠す必要なんてないだろう。俺たちの関係なんて等の昔に破綻しているんだから。
 あの二人がそういう関係なら俺はここに居たくはない。それについて何かを言う筋合いもないのだし。

 「どこに行くんだよユウキ。俺のサポート役だろう?」

 「今の俺はこの世界の事を何も知らないし、適性があると言われても何もできない一般人だ。魔王討伐を目指すにしても自分の能力を伸ばさないとただの役立たずだ。だから修行に出るんだよ。」

 「ならそうしてくれ。俺は城で剣とか特訓とかしながら異世界の勇者生活を楽しんでるわ。」

 俺は背を向け先程、姫が出て行った方向へと歩いていく。

 「魔王を討伐する勇者以外はどう生きようと構わんだろう。それに外を詳しく知る勇者の同郷の者がいた方が将来的には確かに都合がいいであろう。ミケロ、必要なサポートをしてやれ。後、持てるだけの金貨を渡してやれ。勇者の右腕にもなるかもしれない男ならいい武器や防具などを買う必要があるだろうからな。勇者とは関係なく召喚される突出した才能があるのならばいい買い物であろう。精々旅をし将来勇者のサポート役となるべく精進せい。」

 王は俺に言いたい事だけいうと興味をなくしたらしくレイと話始めた。

 「ユウキ…違うの!ねえ、一人で行っちゃうの?……ユウキ!」

 掠れたマネージャーの声が聞こえた気がするが振り返ることなく部屋を出ていく。
 俺がこの城にいても勇者とその彼女の邪魔にしかならないだろう。
 いい機会だ。ようやくこの幼馴染の関係から解き放たれるのだから好きに生きる事にしよう。

***************************
 その後、城を出ていくユウキを遠くから見ていたモノがいた。

 「せめてもの償いに私が彼をサポートしましょう。何の罪滅ぼしにもならないかもしれませんが捨てられた者同士お似合いかもしれませんね。」

 少女は空を飛び、彼の後を追いかけていく。

 「こんな呪われた身でできることなんてたかがしれているんですけどね。」

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