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マイオ村 それぞれの調査と危険な出会い

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    村長宅を出て一行は村長に紹介された宿屋の一つに今日は泊まることにする。

 泊まると言っても何事もしなければここで泊まる事になるだろうという話なのだが…

 ユウキは先程の話について考えていた。

 「…抱くの?」

 フレミアの冷たい視線にユウキは首を振る。

 「いや、今の所そのつもりはないよ。それよりも…」

 (四年前に急に呪いが広がり始める…必ず理由があるはずだ。けれど、今まで呪いがかかった事のある人だってそれは考えたはずだ。それでも理由がわからず現状にいたるのだろう。夕刻まで残り時間三時間程か。)

 ユウキは荷物を降ろすと二人に話をする。

 「これから夕方まであと三時間。この件に関して調べてみようと思う。」

 「ん、アタシも調査する。ご主人様が不能になると困るから。」

 「…私も調べてみようかしら。暇だし。」

 「あー…頑張ってね~。」

 一人胸ポケットから抜け出そうとするフレミアをユウキは捕まえる。

 「フレミアも参加してくれ。」

 「離してよ!原因は男性の問題でしょ?しかも夢の中の女を抱いて勃たなくなるとか…。それにユウキには能力があるし効かないだろうしほっといてもいいんじゃない?」

 「そうかも知れないけど効かないとも断言できないだろ?試してないんだから。それにフレミアの国の問題だろ?国民の為にと思ってさ。」

 「国民と言ってもね…私こんな姿だし。だからそっちはお父様にでも任せればいいんじゃない?だからそれはどうでもいいのよ。私が手伝いたくないのはユウキの私への扱いがさっき酷かったからなのだもん。」

 「だもんて…仕方がないだろ?バレたらフレミアが危ないかもしれないんだぞ?」

 「バレてもいいじゃない。どうせ私はたいした事ない存在なんですから。つーん!」

 (…めんどくさい奴め。確かこれでも年上だったよな。この姿だとどうも子供のような気がしてならない。まあ、わがまま姫様だったんだろうし精神年齢は元から低かったんだろうが。)

 「なによ!その眼は!凄い失礼な事考えてたんでしょ!」

 「フレミア、この宿の豪華食事セットのフルコース。」

 ピクッと反応するフレミア。

 「いやいやこんな村に出てくるそんなもので元姫である私が満足するわけ…」

 ここはムカつくがレイが女性達に使っていた手を使用してみることにする。

 「頼むよ、フレミア。俺には君だけが頼りなんだよ。」

 ピクリッと先程よりも大きく反応するフレミア。効果はあったようだ。

 「……私だけ?」

 耳が微かにこちらに向きピクピクと動き次の言葉を催促するように動いている。

 「そうだよ、フレミア。この中で魔術の知識が一番豊富で聡明な君以外で誰がこの謎を解けるというんだ?」

 「そ、そうよね、魔術が原因だった場合聡明な私じゃないときっとわからない事があるわよね。うんうん。で?」

 「それに、フレミアは妖精になってもこんなに綺麗なんだ。もし俺がその呪いにかかって噂の女性に魅了させられそうになってもフレミアがいれば効かないかもしれないだろ?(メドゥーサの用な敵だったら盾にできそうだし。女性には効かないらしいし。)」

 「ふ、ふ~ん。ようやくユウキも少しは私の魅力に気づいてきたようね。私の方が美人だろうから私を見れば正気に戻るし見劣りする奴の呪いだったら効かないってわけね?まあ気が付くのが少し遅い気がしないでもないけど…さっきの言葉と痛かった部分は仕方がないから許してあげるわ。」

 あと一押しだろう。

 「頼む、フレミア。適性検査の魔法陣もそうだけど魔術方面が原因だったらフレミアしかわからない可能性があるんだ。俺の為に一回だけ…な?」

 「…一回だけ?」

 「頼むよ。今回一回だけ。お願いを聞いてくれないか?一回だけだからさ。」

 「まあ、今回だけなら…豪華ディナーセットの美味しい所だけチョイスして小皿に持ってユウキ自身の手で召使のように私に食べさせてくれるなら手を打ちましょう。」

 ちょろいな。美味しい豪華な食事とは言っていない。働き次第では豪華なゲテモノ料理でも食べさせてあげよう。

 「また悪い顔してる。ご主人様って基本的にいい人だけど。フレミア様と話す時だけ悪い人になる気がする。」

 「元々悪い人に決まってるじゃない。何よあんなの私を口説いてきた過去の男達と一緒じゃない。先っぽだけだからさ!とか君だけ!とか今回だけだから一回だけ!とか。それに誰にでも美人とかあんな事を言うなんて…。」

 「?」

 「なんでもないわ!」

 時間がないはずのユウキとフレミアが仲良くいつもの他愛無いやり取りを始めたのを見て、もうほっといても大丈夫だと判断したレイランとティナは二人を残して先に村に調査へと出るのだった。


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ティナ視点

 ご主人様が不能になる。
 それを聞いた瞬間絶句した。それはダメだ。あんな気持ちのいい思いが出来なくなるのは嫌だ。

 アタシはレイランさんと共に部屋を出た後、レイランさんとは逆に外部の要因の可能性を考え村にある共有の施設の調査をすることにしたのだ。

 レイランさんは村の人に聞き込みをすると言っていたので内部の問題だろうと考えたのだろう。

 けれどアタシが気になっているのは旅の途中で話していた匂いのするお湯だ。
 もしかしたら、それが幻覚の作用と不能を引き起こす作用のある毒素を含んでいるからではないかと考えたのだ。

 「共有の井戸などにそれが混じってる可能性もあるからまずは村の外から調べよう。」

 アタシはお湯の沸くと言う村長宅の奥、お湯の沸き出す源泉を探しに森へと歩いていく。

 その場所は観光客の集まる場所としても存在した為に今でも歩く道に草木が生い茂らないよう整備されているらしく迷わずスムーズにその場所へと辿り着く事ができた。

 お湯が噴き出す周りは白く、場所によっては黄色や緑に変色していた。ぶくぶくと湧き上がるお湯と共に卵が腐ったような匂いがアタシの鼻をつく。

 「変な匂い。」

 アタシは吐きそうになる。これが原因に違いない。アタシはこの水を採取し持って帰り調べようとする。

 「あれ?私のほかにもお客さんが来たのかな?」

 噴き出す源泉が流れていく崖の下、道からは見えにくい川沿いの一点から声が聞こえる。

 アタシは警戒しながら声の女性の元へと歩いていく。すると人工的に作られたと思われる岩で囲まれた湯船にその女は浸かっていた。

 アタシはギョッとした。長い黒髪の瘦せこけた女性がこの酷い匂いを気にもせずにお湯に浸かっているのだ。

 「あれ?貴女は入りに来たんじゃないの?」

 さも当たり前のように村の人でさえしないこのお湯での入浴をしている女は不思議そうにアタシを見るのだった。入らないのなら何故ここに来たのかしらと言わんばかりに。

 「いいお湯よ?結構長いこと浸かっているけれど誰も来ないから安心して。一緒にどう?」

 アタシが迷っていると別のお湯の溜まり場に猿がやってきてお湯に浸かり始める。

 「温泉は共有の財産、人間だろうと動物だろうと魔族だろうと争いは御法度だから今は大丈夫よ?警戒しなくて。」

 「温泉…貴女はこのお湯が何なのか知っているの?」

 「温泉は温泉でしょ?身体にいいのよ。スベスベになったり、体調がよくなったり、硫黄は…腰痛だったかな?覚えてないな…そういえば私の彼になる人は温泉好きだったのよ。無駄に詳しかったっけ。」

 そういうとお湯をしみこませるように肌を撫でる。

 「このお湯は危険ではないの?」

 「危険?」

 「男が入ると勃たなくなるとか。」

 「そんなわけないでしょ…あなた男なの?」

 「女。」

 「でしょう。なら何故そんなことを聞くのかしら?」

 「この村にいる男は不能になる。できないと子供が産めない。」

 「ああ…そういえばアイツがそんな事をしてるとか言ってたわね。貴方の好きな人でも不能になったの?あなたまだ出来もしない子供でしょうに…。まあいいわ、今は温泉に入れて気分がいいし、この身体になってから初めての人間との会話だしね。一緒に入ってくれるなら少しだけ教えてあげる。その男の子のが治るかはわからないけど。でも将来的に人類は一人しか残らなくなるのだから子供の事なんて気にしなくてもいいと思うわよ?」

 女はそういうとごくらくごくらくとよくわからない事を言っている。

 アタシの第六感がこの人は何かマズイと警告を発している。視点は時より合わない事があり、また話が急におかしな方向に飛んだり、不気味に笑ったり、しまいには人類が一人しか残らないなど変な事を言い出すのだ。けれどこの人は本当に何か知っているとアタシの直感が言っている。

 (アタシはユウキの為のモノ。何か得られるのなら!)

 アタシは覚悟を決めて服を脱ぎこの人と対話をするべくお湯に向かうのだった。

 「あ、ダメよ。ちゃんと入る前に身体を流さないと。次に入る人の事も考えなさい。」

 …入ろうとした所で普通に怒られるのだった。


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レイラン視点

 (まったく、なんで私がユウキの下半身の為に聞き込みをしないといけないのかしら。)

 レイランはいつもなら冷たくフレミアのように関係ないと言い切る自分の思わぬ行動に苛立っていた。

 (節操なしに誰にでも綺麗だの美人だのと言っているに違いないのに!)

 そう思いつつも、真顔では自分にしか美人だと言ってないわよね…という考えが頭を過ぎり頭を左右に振り考えを振り払う。

 (何を考えてるの私は!あくまで仲間よ!契約者よ!今までだって散々色んな男達に口説かれてきたじゃない!)

 私はどうしちゃったんだろう。あの光景を見てからユウキを強く雄として意識しているのは間違いない。今でもアレを忘れられずに自身の行為の役にたてているのだ。

 (はあ…ずっと一人でさえしてなかったのに。)

 レイランは溜息をつく。

 元々レイランはきちんとした部族の伝承を伝える踊り子の一族であった。しかし、部族が盗賊に襲われた際に皆とはぐれ奴隷商に捕まる事になる。攫われ買われた先がドンのあの酒場であり、レイランは抱かれる側の娼婦であった。その容姿から当初から人気が高く若くして見ず知らずの男性に初めてを奪われて以来、一年間で一体何人に抱かれたのかレイランでさえわからない。

 けれども、抱いた男達はいつしかレイランのその喘ぎ声と話し声に魅了され、ドンにこの娘を歌わせてみてはどうかと提案したのだった。

 レイランはそれを聞いて条件として

 「私の歌に価値があったら、それを買って下さい!」

 そう言い二度と男達に抱かれない為に歌の価値で自身を買う事を望んだ。

 ドンはこういう挑戦的な女性が好きだった。

 「いいだろう!期間は一ヵ月!それまでにこの酒場を満席にして見せろ!ただし、期間中も娼婦としての仕事をしながらだ。お前の歌にはまだそれだけの価値はないのだからな!」

 そう言った。当時のドンの酒場は空席も目立つ程で、売春目的の単なる女待ちの酒場であった。

 レイランは約束を守り毎日のように部族に伝わる歌を思い出しながら練習し、毎日のように檀上で歌った。

 すると一ヵ月経つまでにレイランの歌に合わせて曲を奏でる輩が勝手に増えた。それに合わせてレイランが暇な時間に部族の習慣として踊っていたのを見て娯楽として一緒に踊っていた奴隷仲間が檀上で踊り始めた。歌の素晴らしい女性がいるという噂から、踊り子の踊りや音楽を楽しめる娯楽として楽しみながら食事が取れ、そしてその魅力的な踊り子を抱ける店として人が入りきらない程来店するようになった。

 「これはすげーな!レイランお前の勝ちだ!お前はこれから歌姫として過ごしな。元以上に稼ぐだろうからそうだな、二十五歳前には自由にしてやるよ。婚期前ギリギリにはなるが…お前なら欲しい奴は星の数ほどいるだろう。」

 こうして、ユウキに会うまでずっと男に抱かれる事はなくなったのだ。そして、抱かれたいとも思わなくなっていた。もう二度と男性とそういう行為をしたいとも思えないとレイランは思っていた。私は生涯結婚はしないだろう。女として機能してないのだから。

 そう…思っていたのに。

 美人と言われても踊り子としての商売道具としての外見を褒められているだけだと思うようにしていた。どんな男から何を言われても、例え王や右大臣から側室の誘いや本妻になれとの要求を受けていようとも拒絶する程に男に対し異性としての興味がなくなったと思っていたのに。

 「はあ…私も所詮は女だったって事なのかな。」

 こうして、ユウキの為に男が喜びそうな仕草と表情を作り少しでも情報を聞きだそうとしている自分を先週までの自分に見せてやりたい気分である。

 「フレミア様のことを言えないわね。」

 七軒目の家をノックし話を聞くが目新しい情報は得られない。

 男性達は皆、口をそろえて四年前、顔のない女性、容姿が素晴らしいなどしか言わないのだ。

 (魔族のサキュバスの仕業とかいう方が現実味が出てきたわ。)

 サキュバス
 夢へと誘う魔術や魅了の魔術を得意とし男性の精を糧とする女の化物。精を吸われた男は干からびて死ぬか生き残ったとされてもサキュバスの僕とされるのだという。

 いっそ、魔王軍の仕業とか言った方が敵がわかりやすくていいのに。

 「あ、美人なおねーちゃんだ!」

 「凄い、おっぱい!シスターママよりおっきい!」

 八軒目は教会の施設の隣に建てられたボロボロの家であった。
 そこには成人前の六歳から十四歳までの子供たちが集まり勉強をしていた。

 小さい子供たちがレイランに寄ってくる。

 「こんにちわ、シスターは?」

 レイランは子供が苦手だった。

 「ママはお出かけ中。おねーちゃんは他所の人?」

 周りを囲まれるたびに心が痛む。

 「ええ、皆は勉強中?邪魔しちゃ悪いから私は行くわね?」

 当たり障りのない事をいいこの場から早く逃れようとする。

 「凄い美人じゃん!俺のこんなになったぜ?」

 「僕も昨日まではすぐに大きくなってたのに…なんでだろう。」

 (ん?)

 さっさと出て行こうとしたレイランの耳に聞き逃がせない情報が聞こえた気がした。

 「いいなー…僕も大人の人みたいにもうおっきくならないのかな…。」

 (あの子だ!)

 レイランは大人しそうな男と見るからに悪ガキそうな二人の元にいく。

 「すげ、こんな美人見た事ないぜ?シスター以上だ。」

 「でも昨日見た…あれ?思い出せないや。シスターに紹介された人に比べたら…顔が思い出せないけど…あれ?大人の人がお酒を呑む所の近くで気持ちいい事してもらったと思うのにあまり覚えてないや。」

 「ねえ、君今の話少し聞いてもいい?」
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