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正義とは 女性の祭りと逃げる温泉好き
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「そんな馬鹿なっ!」
ユウキは椅子から立ち上がっていた。テーブルを挟んだ先にいるのはアルテミアとダーニャの二人だけである。ユウキが倒したと思っている村長には祭りの支度をするようにアルテミアは促し事実を知る者のみがこの場にいる事になる。
「公表されたという事実が全てであり、私達の中での真実がどうであれこの村ではユウキ殿が英雄だという事はもう消しようのない真実となったという事だよ。」
アルテミアの言葉に理解が追い付かないユウキにダーニャが言う。
「誰が魔族かをそこのお嬢ちゃんが暴いてつき止めてくれたおかげで今があるわけさね。コイツかもという外れたアテはアタシにもあったんだけど酒場のマスターだとは思いつかんかった。アタシが思っていたそいつは誰かに既に殺されていたしね。それに二人が死んだと思っていたアタシたちからのユウキさんへの罪滅ぼしの形でもあったのさ。二人の犠牲と共に手に入れた村を救ってくれたという名誉ってわけさね。…老い先短いアタシには不必要な栄誉だ。ならばユウキさんにと思ったんだよ。国に使える騎士団でも当たり前にあるだろう?死んだら一階級昇進して祀られる。二人の二階級分をユウキさんにってわけだわさね。村長からも村娘を抱いて欲しいと言われていたんだろ?この村の未来の為という都合とも合致してね。英雄に救われた村、祭りの復活、悪いとは思うが既に他の街や村にも情報は流させてもらっているから諦めるんだね。」
(この世界でも当然のようにプロパガンダは存在するわけだ。)
ユウキは険しい表情をしたまま黙って聞く。
「それって!!」
「酷いかい?魔族に手も足も出なかったお嬢ちゃん。」
ティナは口を閉ざす。
「いいじゃないかい。英雄。この村には現在、財産とはっきりと言える物は対してない。金貨などの報酬は出せない。ならば今後、ユウキさんの旅に有利になるよう英雄という噂と二人の代わりの女性達を用意しようと考えていたのさ。英雄の情報が流れていれば次の村や町でも依頼は来るようになるだろうし、いい男、いい女が寄ってくるようになるかもしれない。それにいくら否定しようともこんな婆が倒したと誰が信じる?諦めな。」
「実力と見合っていない称号は身を滅ぼしかねないわ…。自分たちの都合のいいように一人になったユウキを利用しようとしただけでしょう?予想外に私達が生きたから慌ててここに呼び寄せた。違うかしら?」
レイランが二人を睨みつける。
「……仮にだとしたらなんだい?アンタ達も利用したらいいじゃないかい。英雄という名誉を。やり方次第じゃ、遊んで暮らせるよ?この村で一生を過ごすなら女性は抱きたい放題だろう、私の領土内であれば異世界から来た勇者の噂のようにいくらでも仕立てやれるよ?聞けば勇者は王城に引きこもって女を抱く毎日みたいじゃないかい。けれども、勇者は勇者として扱われている。何の功績もあげていないのに…ね。ならば、少なくともユウキ殿達の方がこの村を救うきっかけになる事実を作ってはいるのだ。」
アルテミアが開き直りレイランを睨み返す。死ぬはずだったお前たちには言っていない。何故生きていたと言わんばかりの態度である。
「このままこの村を出て行ったらどうします?祭りにも参加せずに。」
「せめて今日だけは過ごして欲しいね…この子が言う通り、救うきっかけになってくれたことには違いない。何ももてなさずにでは心苦しいからねー。けれど、それでも出て行くというのであれば止めはしないよ。ただ村を救った英雄の話に美談が増えるだけさね。ようやく救われた村の財政を自分の為に使わず今後の復興の為に使って欲しいと言って英雄ユウキは旅にでたのであった…なかなかいいシナリオじゃないかね?」
「英雄というのを外し救った人がいるという形にはしてくれないんですね。」
「こちらの都合もあるからね…。場合によっては密かに英雄が英雄のまま姿をくらます…という話もいいかもしれないさね。さて、お互い気持ちよく別れたいとは思わないかい?村が平和になり今後も安泰でよかった、それでいいじゃないかい。一緒に魔族を倒したのは事実なのさね。」
「…わかりました。」
「ユウキ!!」
「ご主人様!!」
ティナとレイランが二人して驚く。
「その代わり、この二人がどういう状態だったかは秘密にして欲しい。通りすがりの人に救われたとはいえ、誰かを詮索されたくない。そういう約束があったから…。何があっても詮索しないし、その人が誰かわかっても依頼しないと約束して欲しい。」
「構わないよ。男どもも要因が消えたんだ、そのうち自力で回復するだろうしね。」
「……。」
ユウキは立ち上がるとレイランとティナの肩を叩くと歩き出す。後を追うように慌てて二人が立ち上がる。
そして二人は明日この村をでるよというユウキの言葉を聞き、午後を旅の支度をする事に使う事にするのだった。
夕刻、日もすっかり落ちると村の中心の広場には露店が立ち並び、適当に円になるように御座が敷かれており村人たちが好きなように座り、食事をしたり呑んだりと縁日に似た雰囲気を出していた。
その中央にある木で組まれた櫓の上では数人が踊っておりユウキは盆踊りか?と思いながらティナとレイランとフレミアと四人でそれを特等席に座らせられながら見ていた。
村長やアルテミアの座る間、一段高くされた木でつくられた台の上からの参加。これがこの世界の祭りの形なのかあえてユウキ達を話しを聞きたがる村人達から意図的に離したのかはわからないが迂闊に縁日のように欲しい物を取りにいけず、何も言わずに料理が大量に持ってこられるのでトイレ以外では自由に行動できないでいた。
盛大に紹介された後は、作られた真実という名のストーリーをアルテミアが高らかに村人達へ伝え聞かせるのを横で複雑な表情で三人は聞き終えると質の低い踊りを見せられる。
祭りが中止になって数年の間、踊りの練習も止まっていたのであろう。レイランの踊りを見ているユウキにとってはとても拙い遊戯に見えた。
「レイランの踊りがまた見たいな…。」
「え?」
つい口から洩れ出てしまったユウキの声をしっかりと聞いていたレイランはドキリとし赤面していたのだがユウキは自然と口に出していた事に気づいていなかった。
「…。」
ティナだけはレイランが朝からユウキを見る態度が急激に昨日と変わっている事に気づいていた。
祭りが終わると皆、それぞれの家へと村人達は帰って行く。
女性達の多くもその帰路につくのだが、その中の数人が途中で同じある方向へと行先を変える。単身者のみならず、旦那や彼氏と別れた女性の数人もである。きっとあの協会に行くのだろう…方向からするととユウキはそれを確認する。
「俺達も帰るか…。」
ユウキが言うと村長が村の女性を一人呼ぶとユウキが泊まる家へと誘導してくる。
「ではユウキさんはこちらへ。」
それに何も言わずに従う三人。この後の展開をなんとなく昼の説明とこの漂う空気で感じていた。
「この場から逃げたい…温泉入りたい。」
この時、ユウキがボソリッと呟くのをレイランだけは聞いていた。
****************************
ユウキと別れたレイランとティナとフレミアの三人は最初に案内された部屋の中で敷かれた布団に入り横になっていた。
寝る時間にはまだ早い。けれども何もすることがない。
思えば旅をし始めてからこの三人だけになる事は今までなかったのではないだろうか?
ティナもレイランも何を話していいのかわからずにいた。普段であればあの酒場に居た時のように他愛のない話の一つでもするのだろうが、これからユウキの身に起こる事も相まって二人とも重い口が開かずにいた。
「辛気臭い。」
この空気に耐えられずに早々に寝たふりをしていたフレミアが小声でつぶやいていた。
(一日くらいユウキと離れる事に我慢できないのかしら…普通なら死んでた所で生きてた。それで今日は満足してればいいのにこの二人は…ユウキもあの後だからトラウマになって出来ないかもしれないってのに。知らないからこその嫉妬よね。私だけはユウキに同情するわ。ちゃんと最後までヤレるのかしら?)
フレミアはやれやれというとさっさと寝る事にする。今日ばっかりはユウキの所に居ては発見されないとも限らない。誰がいつ何人ユウキを狙ってくるか想像がつかないからだ。そこで魔族扱いされてはかなわない。
(ユウキのあの様子からして逃げるのだろうけれど誰も相手にしないってわけにはあの三人の思惑の中にいる限りでは無理だろうし…あわよくば英雄の子っていうのも計算に入れてそうだし…ここはユウキに出来ないよう子賻運を祈る…なんちゃって…)
フレミアはふとんの中で一人で吹くが…。
(ユウキのツッコミがないと虚しいわね。)
そういうと静かに寝息を立てるのであった。
(気まずい。)
眠れないレイランとティナは互いに静かな部屋の中で天井を見ていた。
レイランは心の中にあるモヤモヤとした生まれかけている恋愛感情とユウキが誰かを抱くであろうという嫉妬心により眠れずにいた。しかし、それはティナも同じだろうとレイランは声を発しないが起きていると思われる寝たふりをしているティナをチラリと見る。
ティナはティナで奴隷として時にはしょうがないと思いながらも自分でもなくレイランでもない見知らぬ他人をユウキが抱くという事に何故か苛立ちを感じていた。ならばレイランならば?と聞かれたらと考えて首を傾げてしまう。
(あれ?嫌だけどまだ嫌じゃない?でもやっぱりちょっと嫌かも?)
この感情は何なのだろうか?先程からこの感情がグルグルと自分の中で回っているのだ。
ティナは目を閉じ自身の顔を叩くイメージをする。
(何を考えているんだアタシは。くそっ、本当ならユウキの剣にならなきゃいけないアタシがこんな簡単に魔族にやられたって事を真剣に考えなきゃいけないのに…。)
その時、レイランからポツリと聞こえた声に反応してしまう。
「温泉…」
「え?」
反応が返ってくるとは思わなかったのだろうレイランが驚いていたようだが何かを決めたかのようにティナに聞いてくる。
「ティナは温泉知ってるの?」
「うん。知ってる。実は今日入ってきた。アタシが酒場のマスターが魔族だって知ったのは実は…。」
ようやく会話をしたというのにその内容を聞いてレイランは飛び起きる。
「レイラン、どこに行くの?」
「ちょっとその温泉に行ってみようかと…。」
ティナはさすがにその人は居ないと思い行っても無駄だとレイランに言うがレイランは少し挙動不審にもしそうなら温泉とかいうのに入ってサッパリしてから戻ってくるわというと出て行ってしまう。
アタシも行こうかとティナも思うのだが全員が居なくなった時に誰かが侵入してきてフレミアが見つかったら?と一瞬考えてしまいその場に残る事にするのだった。
部屋を出たレイランはティナに聞いた温泉の場所へとユウキの部屋を見てから向かおうとする。
村は既にほとんどの家で灯りが消えていた。明かりが残っているのはユウキのいるであろう森の近くの家と村長の家だけとなっている。本来ならばこういう日なのだ、酒場で祭りのように騒ぎが続いていてもいいのだろうが流石に魔族が住んでいた酒場の跡で騒ごうとはしなかった。声が漏れ聞こえる村長の家、きっと皆そこに集まって騒ぎたい者は騒いでいるのだろう。
村長を悲しませないためにもという意味もあるかもしれないが…。
レイランはユウキの家に群がっている女性達を見て「げっ」と声を漏らしてしまう。
明かりに群がる虫のように黒い服を着た女性達が30人程家の外から部屋の中を覗こうとしていたり扉の前で列を作っているのだ。
流石にこの人数を抱くのは無理だろうそれでもこうして順番待ちまでしてとレイランは盛りのついた女性達を見て思うが自身もその気で外に出てきたのを思い出し私も変わらないか…むしろこの子たちの方が自分の気持ちに素直じゃないかと思う。
別れ際にユウキが行ってた温泉を口実に部屋を抜け出してきているレイランはティナの気持ちも知っていたにも関わらずこうして行動をしている。
(頭を冷やそう。本当に温泉に入ってこよう。森の中は暗いが松明でも持って行けば大丈夫だろう。)
「貴方もユウキさんに抱かれに来たの?」
ユウキがいるであろう家の横を過ぎ去ろうとした時、仮面をつけた女性の一人に声をかけられる。
「いえ…私は少し温泉に入ろうかなって。ええ、旅の仲間に聞いて…」
「温泉?私も行っていいかしら。どうもユウキ様が中から鍵をかけてしまったらしく入れないでいるみたいなんですよ。どうせ、着くの遅くで順番最後の方だろうし…子種を貰えるチャンスも薄そうだし…。もういいかなって。あ、森の中は夜中は行くの禁止されてますからバレるの防止の意味もあるこのマントと仮面つけてきましょう。素顔で誰かに見られたらやっかいですよ?」
目の周りだけを隠した仮面の下に見えるそばかすのある少女らしき女性がレイランに同じ仮面とマントを渡す。
「ええ、わかったわ。じゃあ、いきましょう?」
二人は松明を持ち森の中へと入って行く。すると村に届いていた匂いが少しきつくなってくる。
「観光地でもある自然の噴水がここにあるんですよ。」
そう案内してくれる少女は毒かもしれないので飲んだり触ったりはしないでくださいねという。
「怖いもの見たさで急に飛び出す噴水の如きこの腐ったような毒のような匂いのする熱いお湯を見に来るんですか。」
「ええ、でも貴女の話だとこれに入れると?」
「そうみたい…私の旅の仲間が今日入ったって…あっ!!」
レイランは見知らぬ少女に微かに道から外れる所に人がいるのを指さす。
「誰かわかりません。静かにこっそりといきましょう。」
「魔族の可能性も?」
「ありえます。この村の人がこの毒のようなお湯に入る事なんてありえません。」
ゆっくりと気づかれないように湯浴みのように湯を身体にかけている者に近づいていく。
ガサガサッ!!
そばかすの女性がヌルヌルとする足元に転びかけ近くの枝を掴みそこね転んでしまう。
「う~…痛い。」
「誰だ!!」
その聞き覚えのある声にレイランは驚き声をあげかけてしまうが正面からその身体を見てしまいついゴクリッと唾を呑み込んでしまう。
「あ!ユウキ様!!うそっ!」
喜び抱き着くそばかすの女性にしまったという表情をするが、2人だけかと確認するとユウキは仕方がないといった表情をしてこんなことを言ってくる。
「お願いだから他の人には言わないで欲しいんだけど…。」
「言いません!!だから私達二人を抱いてください!!」
そばかすの子は何て素直に自分の気持ちを伝えるのだろうか。レイランは純粋に気持ちをぶつけているこの子をドンの酒場にいた小さい子供たちのように可愛いなと思っていた。
だからユウキの言葉を聞いてようやく気付いたのだ。このそばかすの女性が何を言ってくれたのかという事に。
「わかった。でも少し、色々とあってダメかもしれないけどその時は許してね。」
ユウキは椅子から立ち上がっていた。テーブルを挟んだ先にいるのはアルテミアとダーニャの二人だけである。ユウキが倒したと思っている村長には祭りの支度をするようにアルテミアは促し事実を知る者のみがこの場にいる事になる。
「公表されたという事実が全てであり、私達の中での真実がどうであれこの村ではユウキ殿が英雄だという事はもう消しようのない真実となったという事だよ。」
アルテミアの言葉に理解が追い付かないユウキにダーニャが言う。
「誰が魔族かをそこのお嬢ちゃんが暴いてつき止めてくれたおかげで今があるわけさね。コイツかもという外れたアテはアタシにもあったんだけど酒場のマスターだとは思いつかんかった。アタシが思っていたそいつは誰かに既に殺されていたしね。それに二人が死んだと思っていたアタシたちからのユウキさんへの罪滅ぼしの形でもあったのさ。二人の犠牲と共に手に入れた村を救ってくれたという名誉ってわけさね。…老い先短いアタシには不必要な栄誉だ。ならばユウキさんにと思ったんだよ。国に使える騎士団でも当たり前にあるだろう?死んだら一階級昇進して祀られる。二人の二階級分をユウキさんにってわけだわさね。村長からも村娘を抱いて欲しいと言われていたんだろ?この村の未来の為という都合とも合致してね。英雄に救われた村、祭りの復活、悪いとは思うが既に他の街や村にも情報は流させてもらっているから諦めるんだね。」
(この世界でも当然のようにプロパガンダは存在するわけだ。)
ユウキは険しい表情をしたまま黙って聞く。
「それって!!」
「酷いかい?魔族に手も足も出なかったお嬢ちゃん。」
ティナは口を閉ざす。
「いいじゃないかい。英雄。この村には現在、財産とはっきりと言える物は対してない。金貨などの報酬は出せない。ならば今後、ユウキさんの旅に有利になるよう英雄という噂と二人の代わりの女性達を用意しようと考えていたのさ。英雄の情報が流れていれば次の村や町でも依頼は来るようになるだろうし、いい男、いい女が寄ってくるようになるかもしれない。それにいくら否定しようともこんな婆が倒したと誰が信じる?諦めな。」
「実力と見合っていない称号は身を滅ぼしかねないわ…。自分たちの都合のいいように一人になったユウキを利用しようとしただけでしょう?予想外に私達が生きたから慌ててここに呼び寄せた。違うかしら?」
レイランが二人を睨みつける。
「……仮にだとしたらなんだい?アンタ達も利用したらいいじゃないかい。英雄という名誉を。やり方次第じゃ、遊んで暮らせるよ?この村で一生を過ごすなら女性は抱きたい放題だろう、私の領土内であれば異世界から来た勇者の噂のようにいくらでも仕立てやれるよ?聞けば勇者は王城に引きこもって女を抱く毎日みたいじゃないかい。けれども、勇者は勇者として扱われている。何の功績もあげていないのに…ね。ならば、少なくともユウキ殿達の方がこの村を救うきっかけになる事実を作ってはいるのだ。」
アルテミアが開き直りレイランを睨み返す。死ぬはずだったお前たちには言っていない。何故生きていたと言わんばかりの態度である。
「このままこの村を出て行ったらどうします?祭りにも参加せずに。」
「せめて今日だけは過ごして欲しいね…この子が言う通り、救うきっかけになってくれたことには違いない。何ももてなさずにでは心苦しいからねー。けれど、それでも出て行くというのであれば止めはしないよ。ただ村を救った英雄の話に美談が増えるだけさね。ようやく救われた村の財政を自分の為に使わず今後の復興の為に使って欲しいと言って英雄ユウキは旅にでたのであった…なかなかいいシナリオじゃないかね?」
「英雄というのを外し救った人がいるという形にはしてくれないんですね。」
「こちらの都合もあるからね…。場合によっては密かに英雄が英雄のまま姿をくらます…という話もいいかもしれないさね。さて、お互い気持ちよく別れたいとは思わないかい?村が平和になり今後も安泰でよかった、それでいいじゃないかい。一緒に魔族を倒したのは事実なのさね。」
「…わかりました。」
「ユウキ!!」
「ご主人様!!」
ティナとレイランが二人して驚く。
「その代わり、この二人がどういう状態だったかは秘密にして欲しい。通りすがりの人に救われたとはいえ、誰かを詮索されたくない。そういう約束があったから…。何があっても詮索しないし、その人が誰かわかっても依頼しないと約束して欲しい。」
「構わないよ。男どもも要因が消えたんだ、そのうち自力で回復するだろうしね。」
「……。」
ユウキは立ち上がるとレイランとティナの肩を叩くと歩き出す。後を追うように慌てて二人が立ち上がる。
そして二人は明日この村をでるよというユウキの言葉を聞き、午後を旅の支度をする事に使う事にするのだった。
夕刻、日もすっかり落ちると村の中心の広場には露店が立ち並び、適当に円になるように御座が敷かれており村人たちが好きなように座り、食事をしたり呑んだりと縁日に似た雰囲気を出していた。
その中央にある木で組まれた櫓の上では数人が踊っておりユウキは盆踊りか?と思いながらティナとレイランとフレミアと四人でそれを特等席に座らせられながら見ていた。
村長やアルテミアの座る間、一段高くされた木でつくられた台の上からの参加。これがこの世界の祭りの形なのかあえてユウキ達を話しを聞きたがる村人達から意図的に離したのかはわからないが迂闊に縁日のように欲しい物を取りにいけず、何も言わずに料理が大量に持ってこられるのでトイレ以外では自由に行動できないでいた。
盛大に紹介された後は、作られた真実という名のストーリーをアルテミアが高らかに村人達へ伝え聞かせるのを横で複雑な表情で三人は聞き終えると質の低い踊りを見せられる。
祭りが中止になって数年の間、踊りの練習も止まっていたのであろう。レイランの踊りを見ているユウキにとってはとても拙い遊戯に見えた。
「レイランの踊りがまた見たいな…。」
「え?」
つい口から洩れ出てしまったユウキの声をしっかりと聞いていたレイランはドキリとし赤面していたのだがユウキは自然と口に出していた事に気づいていなかった。
「…。」
ティナだけはレイランが朝からユウキを見る態度が急激に昨日と変わっている事に気づいていた。
祭りが終わると皆、それぞれの家へと村人達は帰って行く。
女性達の多くもその帰路につくのだが、その中の数人が途中で同じある方向へと行先を変える。単身者のみならず、旦那や彼氏と別れた女性の数人もである。きっとあの協会に行くのだろう…方向からするととユウキはそれを確認する。
「俺達も帰るか…。」
ユウキが言うと村長が村の女性を一人呼ぶとユウキが泊まる家へと誘導してくる。
「ではユウキさんはこちらへ。」
それに何も言わずに従う三人。この後の展開をなんとなく昼の説明とこの漂う空気で感じていた。
「この場から逃げたい…温泉入りたい。」
この時、ユウキがボソリッと呟くのをレイランだけは聞いていた。
****************************
ユウキと別れたレイランとティナとフレミアの三人は最初に案内された部屋の中で敷かれた布団に入り横になっていた。
寝る時間にはまだ早い。けれども何もすることがない。
思えば旅をし始めてからこの三人だけになる事は今までなかったのではないだろうか?
ティナもレイランも何を話していいのかわからずにいた。普段であればあの酒場に居た時のように他愛のない話の一つでもするのだろうが、これからユウキの身に起こる事も相まって二人とも重い口が開かずにいた。
「辛気臭い。」
この空気に耐えられずに早々に寝たふりをしていたフレミアが小声でつぶやいていた。
(一日くらいユウキと離れる事に我慢できないのかしら…普通なら死んでた所で生きてた。それで今日は満足してればいいのにこの二人は…ユウキもあの後だからトラウマになって出来ないかもしれないってのに。知らないからこその嫉妬よね。私だけはユウキに同情するわ。ちゃんと最後までヤレるのかしら?)
フレミアはやれやれというとさっさと寝る事にする。今日ばっかりはユウキの所に居ては発見されないとも限らない。誰がいつ何人ユウキを狙ってくるか想像がつかないからだ。そこで魔族扱いされてはかなわない。
(ユウキのあの様子からして逃げるのだろうけれど誰も相手にしないってわけにはあの三人の思惑の中にいる限りでは無理だろうし…あわよくば英雄の子っていうのも計算に入れてそうだし…ここはユウキに出来ないよう子賻運を祈る…なんちゃって…)
フレミアはふとんの中で一人で吹くが…。
(ユウキのツッコミがないと虚しいわね。)
そういうと静かに寝息を立てるのであった。
(気まずい。)
眠れないレイランとティナは互いに静かな部屋の中で天井を見ていた。
レイランは心の中にあるモヤモヤとした生まれかけている恋愛感情とユウキが誰かを抱くであろうという嫉妬心により眠れずにいた。しかし、それはティナも同じだろうとレイランは声を発しないが起きていると思われる寝たふりをしているティナをチラリと見る。
ティナはティナで奴隷として時にはしょうがないと思いながらも自分でもなくレイランでもない見知らぬ他人をユウキが抱くという事に何故か苛立ちを感じていた。ならばレイランならば?と聞かれたらと考えて首を傾げてしまう。
(あれ?嫌だけどまだ嫌じゃない?でもやっぱりちょっと嫌かも?)
この感情は何なのだろうか?先程からこの感情がグルグルと自分の中で回っているのだ。
ティナは目を閉じ自身の顔を叩くイメージをする。
(何を考えているんだアタシは。くそっ、本当ならユウキの剣にならなきゃいけないアタシがこんな簡単に魔族にやられたって事を真剣に考えなきゃいけないのに…。)
その時、レイランからポツリと聞こえた声に反応してしまう。
「温泉…」
「え?」
反応が返ってくるとは思わなかったのだろうレイランが驚いていたようだが何かを決めたかのようにティナに聞いてくる。
「ティナは温泉知ってるの?」
「うん。知ってる。実は今日入ってきた。アタシが酒場のマスターが魔族だって知ったのは実は…。」
ようやく会話をしたというのにその内容を聞いてレイランは飛び起きる。
「レイラン、どこに行くの?」
「ちょっとその温泉に行ってみようかと…。」
ティナはさすがにその人は居ないと思い行っても無駄だとレイランに言うがレイランは少し挙動不審にもしそうなら温泉とかいうのに入ってサッパリしてから戻ってくるわというと出て行ってしまう。
アタシも行こうかとティナも思うのだが全員が居なくなった時に誰かが侵入してきてフレミアが見つかったら?と一瞬考えてしまいその場に残る事にするのだった。
部屋を出たレイランはティナに聞いた温泉の場所へとユウキの部屋を見てから向かおうとする。
村は既にほとんどの家で灯りが消えていた。明かりが残っているのはユウキのいるであろう森の近くの家と村長の家だけとなっている。本来ならばこういう日なのだ、酒場で祭りのように騒ぎが続いていてもいいのだろうが流石に魔族が住んでいた酒場の跡で騒ごうとはしなかった。声が漏れ聞こえる村長の家、きっと皆そこに集まって騒ぎたい者は騒いでいるのだろう。
村長を悲しませないためにもという意味もあるかもしれないが…。
レイランはユウキの家に群がっている女性達を見て「げっ」と声を漏らしてしまう。
明かりに群がる虫のように黒い服を着た女性達が30人程家の外から部屋の中を覗こうとしていたり扉の前で列を作っているのだ。
流石にこの人数を抱くのは無理だろうそれでもこうして順番待ちまでしてとレイランは盛りのついた女性達を見て思うが自身もその気で外に出てきたのを思い出し私も変わらないか…むしろこの子たちの方が自分の気持ちに素直じゃないかと思う。
別れ際にユウキが行ってた温泉を口実に部屋を抜け出してきているレイランはティナの気持ちも知っていたにも関わらずこうして行動をしている。
(頭を冷やそう。本当に温泉に入ってこよう。森の中は暗いが松明でも持って行けば大丈夫だろう。)
「貴方もユウキさんに抱かれに来たの?」
ユウキがいるであろう家の横を過ぎ去ろうとした時、仮面をつけた女性の一人に声をかけられる。
「いえ…私は少し温泉に入ろうかなって。ええ、旅の仲間に聞いて…」
「温泉?私も行っていいかしら。どうもユウキ様が中から鍵をかけてしまったらしく入れないでいるみたいなんですよ。どうせ、着くの遅くで順番最後の方だろうし…子種を貰えるチャンスも薄そうだし…。もういいかなって。あ、森の中は夜中は行くの禁止されてますからバレるの防止の意味もあるこのマントと仮面つけてきましょう。素顔で誰かに見られたらやっかいですよ?」
目の周りだけを隠した仮面の下に見えるそばかすのある少女らしき女性がレイランに同じ仮面とマントを渡す。
「ええ、わかったわ。じゃあ、いきましょう?」
二人は松明を持ち森の中へと入って行く。すると村に届いていた匂いが少しきつくなってくる。
「観光地でもある自然の噴水がここにあるんですよ。」
そう案内してくれる少女は毒かもしれないので飲んだり触ったりはしないでくださいねという。
「怖いもの見たさで急に飛び出す噴水の如きこの腐ったような毒のような匂いのする熱いお湯を見に来るんですか。」
「ええ、でも貴女の話だとこれに入れると?」
「そうみたい…私の旅の仲間が今日入ったって…あっ!!」
レイランは見知らぬ少女に微かに道から外れる所に人がいるのを指さす。
「誰かわかりません。静かにこっそりといきましょう。」
「魔族の可能性も?」
「ありえます。この村の人がこの毒のようなお湯に入る事なんてありえません。」
ゆっくりと気づかれないように湯浴みのように湯を身体にかけている者に近づいていく。
ガサガサッ!!
そばかすの女性がヌルヌルとする足元に転びかけ近くの枝を掴みそこね転んでしまう。
「う~…痛い。」
「誰だ!!」
その聞き覚えのある声にレイランは驚き声をあげかけてしまうが正面からその身体を見てしまいついゴクリッと唾を呑み込んでしまう。
「あ!ユウキ様!!うそっ!」
喜び抱き着くそばかすの女性にしまったという表情をするが、2人だけかと確認するとユウキは仕方がないといった表情をしてこんなことを言ってくる。
「お願いだから他の人には言わないで欲しいんだけど…。」
「言いません!!だから私達二人を抱いてください!!」
そばかすの子は何て素直に自分の気持ちを伝えるのだろうか。レイランは純粋に気持ちをぶつけているこの子をドンの酒場にいた小さい子供たちのように可愛いなと思っていた。
だからユウキの言葉を聞いてようやく気付いたのだ。このそばかすの女性が何を言ってくれたのかという事に。
「わかった。でも少し、色々とあってダメかもしれないけどその時は許してね。」
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