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歯車師アキラと雪だるま
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空が灰色の冬の日、白い雲、どこまでも染める雲が海の向こうに見えます。耳を澄まさなくとも、波の音が聞こえてきます。ここはイリオモテ。遠い遠い昔は、西表島と呼ばれていた島です。
遠い遠い昔、空からとても強い光が降り注ぎ、世界は終わりました。衛星砲というとても恐ろしい兵器がたった一度動いただけで、世界は終わってしまったのです。
それから長い長い時間がたちました。生き残った人間たちは、ほそぼそと命をつなげ、今となってはそれなりに平和な世界ができました。
今日は珍しく、イリオモテに雪が降っています。真冬のイリオモテでは、鳥の鳴き声も聞こえません。波の音だけが、穏やかに聞こています。でも、歯車屋さんでは、いつもと同じ歯車の音がしていました。
歯車屋さんの中には、カチカチと音を立てて動く歯車機械がたくさんあります。そんな歯車屋さんの奥で、もくもくと作業机に向かっているのが、歯車師の青年アキラです。歯車師は、歯車を使う機械を作ったり直したりするお仕事です。
アキラは、レンズが何枚も重なったメガネをかけて、小さな歯車をじっと見ながらヤスリで削っています。
「どうだ、調子の方は?ん?」
アキラに声をかけたのは、車いすに乗ったおじいさんでした。
「あー……。微妙なとこっすね」
アキラは、ごまかしたように言いました。本当は、あまりうまくいっていなかったのですが。
「なーにが微妙なところじゃ。さっきからぜんぜん進んでないじゃないか。どれ、貸してみろ」
おじいさんお見通しです。アキラから歯車とヤスリを受け取ります。
おじいさんは、歯車を指で探るように触ります。そして、少しづつヤスリで削りながら、黙って歯車を触って感触を確かめます。そして、またヤスリで削って感触を確かめてを繰り返します。
カチカチ、カチカチ、静かに時計の音だけが聞こえてきます。
おじいさんは何回か歯車を削っては触り、具合を確かめました。
「よおし、これでいい。はめてみろ」
おじいさんが、アキラに歯車を渡します。アキラがそれを受け取って時計にはめると、ピッタリとはまりました。
「メガネもなしにこれじゃあ、かなわねえっすよ」
アキラが苦笑いします。
「はっはっは、目に頼ってるようじゃあ、まだまだよ」
「んなこと言ったって」
「まあ、慣れだよ慣れ。お前はまだ歯車師になってまだ2年くらいだったか。それにしちゃあセンスはあるからな。続けていけばこのジジイよりもよっぽど腕の良い歯車師になるだろうよ」
アキラは、将来の目標がありませんでした。だから、色々なことをやってみました。そして2年前に、歯車師になることを選びました。面倒なことが嫌いなアキラでしたが、なんだかんだ言っても歯車機械の組み立ては好きだったのです。
「そうだ、そろそろコレ持ってって交換してもらわんとなあ」
おじいさんが、山積みになった部品を見て言いました。それは、アキラが修理に失敗して使えなくなった歯車やバネなどです。
「あー、それじゃあ行ってくるっすよ」
アキラは、山積みになった部品を詰め込めるだけ袋に詰め込みます。そして、コートを羽織って玄関を開けました。白く染まった冷たい空気が、歯車屋さんに流れ込んできます。
「それじゃ、行ってきます」
「気をつけてな」
アキラはおじいさんに見送られて、雪の降る外へと出かけていきます。
アキラが向かうのはガラクタ屋さんです。ガラクタ屋さんは、色々なガラクタをみんなから買い取って、それを別の島に売ったりしているお店です。アキラが持っていく部品は、別の島の工場でまた生まれ変わるのです。
雪で真っ白な道を、アキラは歩いていきます。歩く度に雪を踏みしめる音がします。それと、穏やかな波の音も静かに聞こえてきます。
イリオモテでは、冬の雪が降る日に人が外を出歩くことはあまりありません。ですから、人の声も聞こえません。静かな道を、アキラは歩いていきます。
アキラは、イリオモテの冬の静かさが嫌いではありませんでした。夏の賑やかなイリオモテも好きですが、冬の静けさの中で歯車について考えることも、とても好きなのです。アキラは真っ白な道を歩きながら、歯車の設計についてずっと考えていました。
いろいろと考え込んでいるアキラの目に、ふと止まるものがありました。女の子が自分の背の高さほどもある大きな雪の玉を、頑張って押しているのです。
「ふん!……ふーん!」
でも、いくら押してもなかなか前に進まないようです。
「むー」
女の子は、仕方ないなあという顔で、周りを見渡します。そして、アキラと目が会いました。
「あ!アキラさん!ちょーどいいところに!」
アキラは、その声に答えます。
「あかねちゃん、雪だるまかい?」
「うん。でも……」
あかねちゃんは料理屋さんの子供で、12歳の女の子です。今日は長靴と手袋、そしてフード付きのコートで、雪遊びをする準備万端の格好です。ですが……。
「もう押せなくなっちゃったかも……」
あかねちゃんは雪玉を力いっぱい押します。でも、雪玉はびくともしません。
「ふん!ふーん!むー……」
がんばって雪球を押そうとしています。でも、雪球はびくともしません。
「アキラさん、手伝って下さい!」
あかねちゃんは、アキラを見上げて言いました。
「うーん、じゃあ、ちょっとだけだよ」
そう言うと、アキラも雪球を一緒に押し始めました。少しずつ、雪球が転がり始めます。
「わーい!ありがとう!」
あかねちゃんも、一緒に雪球を押します
雪が振る音と静かな波の音、そして雪球を押す音だけが聞こえます。アキラとあかねちゃんは、雪球を押してゆっくりと歩きます。
「どこまで押すのかな?」
「お家の前まで!もうすぐ下り坂だから、がんばるよ!」
「ようし、それじゃあ、一気に推しちゃおうね」
アキラも力を入れて、どんどんと雪玉を押していきます。
「よいしょ、よいしょ」
あかねちゃんは、ぐんぐん進む雪球を、一生懸命押しています。
「ふんっ……!結構、重いな……!」
アキラは、雪球の以外な重さにびっくりしながらも、雪球を押します。力であかねちゃんに負けるわけにはいきません。
……それからしばらくして、二人はあかねちゃんの家の前に着きました。ふたりで押してきた雪球は、あかねちゃんの背の高さと同じくらいの大きさになっていました。
「ふぅ、ふぅ……ついたぁ!」
あかねちゃんはちょっと疲れてしまったようですが、とても満足そうです。
「はあ、はあ……着いたか……」
アキラは、だいぶ疲れているようです。
「あとはこれを乗っけるだけだよ!」
あかねちゃんの言葉に、アキラは目に転がる巨大な雪玉が写りました。
「え?これ、どうしたの」
「パパが作ってくれました!」
あかねちゃんは、エヘンと言いたそうなくらいに胸を張って答えます。
「なるほどね……」
あかねちゃんのパパは、とても力持ちな男です。それに比べてアキラは、そこまで筋肉が強いわけではありません。どうしたもんかと悩むアキラでしたが、こればっかりはどうしようもありません。
「お!あかね、帰ったか!」
あかねちゃんのパパが、家から出てきました。
「ただいま!アキラさんが手伝ってくれたんだ!」
あかねちゃんが笑顔で答えます。
「おーう!そりゃあありがとうよ!いつもスマンなあ!」
あかねちゃんのパパは、大きな体で見た目は怖そうですが、心は優しいのです。
「いえいえ、たまたま通りかかっただけですから」
「ハッハッハ!この雪の振る日に通りかかったのも何かの縁だ。どうだい、ラーメンの1杯でも奢らせてくれや」
あかねちゃんのパパは、料理屋なのです。
「あー……、せっかくですけど、ガラクタ屋に行かないといけないので」
「おっと、それなら急がなきゃな!そしたら、これを持っていきな」
あかねちゃんのパパは、料理屋の割引券をアキラに渡しました。
「え?いいんですか?」
「いいってことよ!娘の遊びに付き合ってくれたお礼だ」
あかねちゃんのパパは、笑顔で答えます。
「そういうことならありがたく頂きます……あ!そうだ!」
アキラは割引券をもらうと、思い出したように袋からいくつかの歯車を取り出しました。
「これ、もしよかったら使ってください」
歪んだ歯車を受け取ったあかねちゃんのパパは、それを覗き込むように眺めます。
「ん?壊れた歯車?」
「あー!それ!雪だるまの目にしたい!いいでしょ!?」
あかねちゃんが駆け寄ってパパを見ます。
「なるほど、そういうことか」
「はい。そういうことです」
「よし、いいぞ。これで雪だるまに好きな顔を書くんだよ」
「わーい!」
パパの許しを得たあかねちゃんは、自由に雪だるまの顔を作っていきます。
「……よーし!できたぁ!」
あかねちゃんが飾り付けた顔は、歯車とバネでできた笑顔でした。
「それじゃあ、最後の仕上げだな」
そう言うと、あかねちゃんのパパは雪だるまの頭を抱えます。
「はァ……ふんッ!」
あかねちゃんのパパが、いえやっと雪だるまの顔を投げると、胴体にくっついて、見事な雪だるまになりました。
「うわーい!できたー!」
あかねちゃんは大喜びです。
「おお、すげえな……」
アキラはその力に驚きを隠せません。
「ハッハッハ!これくらいはパパに任せておきゃあ朝飯前よ!」
あかねちゃんのパパが声高々に笑います。
「パパすごい!」
あかねちゃんもぴょんぴょんとジャンプしながら喜びます。
そんな二人を見て立ち去ろうとしたアキラに、あかねちゃんが言いました。
「アキラさん!雪玉を運んでくれてありがとう!」
「あかねちゃんこそ、最後まで諦めなくてすごかったと思うよ」
アキラはそう言うと、あかねちゃんの頭をなでました。
「でへへへへ」
あかねちゃんは照れながらも、とてもれしそうです。
……それからなんやかんやあって、アキラはガラクタ屋に行き、物々交換を終え、家へと帰りました。
「随分と遅かったたじゃないか」
車いすに乗ったおじいさんが、アキラを迎え入れます。
「まあ、この天気だし、いろいろあってさ」
そう言うと、アキラはガラクタ屋で手に入れたお金を、車いすに乗ったおじいさんに渡しました。
「む、少しばかり少なくないか?」
車いすのおじいさんは目を光らせます。ですが、アキラは飄々と答えます。
「ああ、ちいとばかり雪だるまにくれてやったんですよ」
おしまい
遠い遠い昔、空からとても強い光が降り注ぎ、世界は終わりました。衛星砲というとても恐ろしい兵器がたった一度動いただけで、世界は終わってしまったのです。
それから長い長い時間がたちました。生き残った人間たちは、ほそぼそと命をつなげ、今となってはそれなりに平和な世界ができました。
今日は珍しく、イリオモテに雪が降っています。真冬のイリオモテでは、鳥の鳴き声も聞こえません。波の音だけが、穏やかに聞こています。でも、歯車屋さんでは、いつもと同じ歯車の音がしていました。
歯車屋さんの中には、カチカチと音を立てて動く歯車機械がたくさんあります。そんな歯車屋さんの奥で、もくもくと作業机に向かっているのが、歯車師の青年アキラです。歯車師は、歯車を使う機械を作ったり直したりするお仕事です。
アキラは、レンズが何枚も重なったメガネをかけて、小さな歯車をじっと見ながらヤスリで削っています。
「どうだ、調子の方は?ん?」
アキラに声をかけたのは、車いすに乗ったおじいさんでした。
「あー……。微妙なとこっすね」
アキラは、ごまかしたように言いました。本当は、あまりうまくいっていなかったのですが。
「なーにが微妙なところじゃ。さっきからぜんぜん進んでないじゃないか。どれ、貸してみろ」
おじいさんお見通しです。アキラから歯車とヤスリを受け取ります。
おじいさんは、歯車を指で探るように触ります。そして、少しづつヤスリで削りながら、黙って歯車を触って感触を確かめます。そして、またヤスリで削って感触を確かめてを繰り返します。
カチカチ、カチカチ、静かに時計の音だけが聞こえてきます。
おじいさんは何回か歯車を削っては触り、具合を確かめました。
「よおし、これでいい。はめてみろ」
おじいさんが、アキラに歯車を渡します。アキラがそれを受け取って時計にはめると、ピッタリとはまりました。
「メガネもなしにこれじゃあ、かなわねえっすよ」
アキラが苦笑いします。
「はっはっは、目に頼ってるようじゃあ、まだまだよ」
「んなこと言ったって」
「まあ、慣れだよ慣れ。お前はまだ歯車師になってまだ2年くらいだったか。それにしちゃあセンスはあるからな。続けていけばこのジジイよりもよっぽど腕の良い歯車師になるだろうよ」
アキラは、将来の目標がありませんでした。だから、色々なことをやってみました。そして2年前に、歯車師になることを選びました。面倒なことが嫌いなアキラでしたが、なんだかんだ言っても歯車機械の組み立ては好きだったのです。
「そうだ、そろそろコレ持ってって交換してもらわんとなあ」
おじいさんが、山積みになった部品を見て言いました。それは、アキラが修理に失敗して使えなくなった歯車やバネなどです。
「あー、それじゃあ行ってくるっすよ」
アキラは、山積みになった部品を詰め込めるだけ袋に詰め込みます。そして、コートを羽織って玄関を開けました。白く染まった冷たい空気が、歯車屋さんに流れ込んできます。
「それじゃ、行ってきます」
「気をつけてな」
アキラはおじいさんに見送られて、雪の降る外へと出かけていきます。
アキラが向かうのはガラクタ屋さんです。ガラクタ屋さんは、色々なガラクタをみんなから買い取って、それを別の島に売ったりしているお店です。アキラが持っていく部品は、別の島の工場でまた生まれ変わるのです。
雪で真っ白な道を、アキラは歩いていきます。歩く度に雪を踏みしめる音がします。それと、穏やかな波の音も静かに聞こえてきます。
イリオモテでは、冬の雪が降る日に人が外を出歩くことはあまりありません。ですから、人の声も聞こえません。静かな道を、アキラは歩いていきます。
アキラは、イリオモテの冬の静かさが嫌いではありませんでした。夏の賑やかなイリオモテも好きですが、冬の静けさの中で歯車について考えることも、とても好きなのです。アキラは真っ白な道を歩きながら、歯車の設計についてずっと考えていました。
いろいろと考え込んでいるアキラの目に、ふと止まるものがありました。女の子が自分の背の高さほどもある大きな雪の玉を、頑張って押しているのです。
「ふん!……ふーん!」
でも、いくら押してもなかなか前に進まないようです。
「むー」
女の子は、仕方ないなあという顔で、周りを見渡します。そして、アキラと目が会いました。
「あ!アキラさん!ちょーどいいところに!」
アキラは、その声に答えます。
「あかねちゃん、雪だるまかい?」
「うん。でも……」
あかねちゃんは料理屋さんの子供で、12歳の女の子です。今日は長靴と手袋、そしてフード付きのコートで、雪遊びをする準備万端の格好です。ですが……。
「もう押せなくなっちゃったかも……」
あかねちゃんは雪玉を力いっぱい押します。でも、雪玉はびくともしません。
「ふん!ふーん!むー……」
がんばって雪球を押そうとしています。でも、雪球はびくともしません。
「アキラさん、手伝って下さい!」
あかねちゃんは、アキラを見上げて言いました。
「うーん、じゃあ、ちょっとだけだよ」
そう言うと、アキラも雪球を一緒に押し始めました。少しずつ、雪球が転がり始めます。
「わーい!ありがとう!」
あかねちゃんも、一緒に雪球を押します
雪が振る音と静かな波の音、そして雪球を押す音だけが聞こえます。アキラとあかねちゃんは、雪球を押してゆっくりと歩きます。
「どこまで押すのかな?」
「お家の前まで!もうすぐ下り坂だから、がんばるよ!」
「ようし、それじゃあ、一気に推しちゃおうね」
アキラも力を入れて、どんどんと雪玉を押していきます。
「よいしょ、よいしょ」
あかねちゃんは、ぐんぐん進む雪球を、一生懸命押しています。
「ふんっ……!結構、重いな……!」
アキラは、雪球の以外な重さにびっくりしながらも、雪球を押します。力であかねちゃんに負けるわけにはいきません。
……それからしばらくして、二人はあかねちゃんの家の前に着きました。ふたりで押してきた雪球は、あかねちゃんの背の高さと同じくらいの大きさになっていました。
「ふぅ、ふぅ……ついたぁ!」
あかねちゃんはちょっと疲れてしまったようですが、とても満足そうです。
「はあ、はあ……着いたか……」
アキラは、だいぶ疲れているようです。
「あとはこれを乗っけるだけだよ!」
あかねちゃんの言葉に、アキラは目に転がる巨大な雪玉が写りました。
「え?これ、どうしたの」
「パパが作ってくれました!」
あかねちゃんは、エヘンと言いたそうなくらいに胸を張って答えます。
「なるほどね……」
あかねちゃんのパパは、とても力持ちな男です。それに比べてアキラは、そこまで筋肉が強いわけではありません。どうしたもんかと悩むアキラでしたが、こればっかりはどうしようもありません。
「お!あかね、帰ったか!」
あかねちゃんのパパが、家から出てきました。
「ただいま!アキラさんが手伝ってくれたんだ!」
あかねちゃんが笑顔で答えます。
「おーう!そりゃあありがとうよ!いつもスマンなあ!」
あかねちゃんのパパは、大きな体で見た目は怖そうですが、心は優しいのです。
「いえいえ、たまたま通りかかっただけですから」
「ハッハッハ!この雪の振る日に通りかかったのも何かの縁だ。どうだい、ラーメンの1杯でも奢らせてくれや」
あかねちゃんのパパは、料理屋なのです。
「あー……、せっかくですけど、ガラクタ屋に行かないといけないので」
「おっと、それなら急がなきゃな!そしたら、これを持っていきな」
あかねちゃんのパパは、料理屋の割引券をアキラに渡しました。
「え?いいんですか?」
「いいってことよ!娘の遊びに付き合ってくれたお礼だ」
あかねちゃんのパパは、笑顔で答えます。
「そういうことならありがたく頂きます……あ!そうだ!」
アキラは割引券をもらうと、思い出したように袋からいくつかの歯車を取り出しました。
「これ、もしよかったら使ってください」
歪んだ歯車を受け取ったあかねちゃんのパパは、それを覗き込むように眺めます。
「ん?壊れた歯車?」
「あー!それ!雪だるまの目にしたい!いいでしょ!?」
あかねちゃんが駆け寄ってパパを見ます。
「なるほど、そういうことか」
「はい。そういうことです」
「よし、いいぞ。これで雪だるまに好きな顔を書くんだよ」
「わーい!」
パパの許しを得たあかねちゃんは、自由に雪だるまの顔を作っていきます。
「……よーし!できたぁ!」
あかねちゃんが飾り付けた顔は、歯車とバネでできた笑顔でした。
「それじゃあ、最後の仕上げだな」
そう言うと、あかねちゃんのパパは雪だるまの頭を抱えます。
「はァ……ふんッ!」
あかねちゃんのパパが、いえやっと雪だるまの顔を投げると、胴体にくっついて、見事な雪だるまになりました。
「うわーい!できたー!」
あかねちゃんは大喜びです。
「おお、すげえな……」
アキラはその力に驚きを隠せません。
「ハッハッハ!これくらいはパパに任せておきゃあ朝飯前よ!」
あかねちゃんのパパが声高々に笑います。
「パパすごい!」
あかねちゃんもぴょんぴょんとジャンプしながら喜びます。
そんな二人を見て立ち去ろうとしたアキラに、あかねちゃんが言いました。
「アキラさん!雪玉を運んでくれてありがとう!」
「あかねちゃんこそ、最後まで諦めなくてすごかったと思うよ」
アキラはそう言うと、あかねちゃんの頭をなでました。
「でへへへへ」
あかねちゃんは照れながらも、とてもれしそうです。
……それからなんやかんやあって、アキラはガラクタ屋に行き、物々交換を終え、家へと帰りました。
「随分と遅かったたじゃないか」
車いすに乗ったおじいさんが、アキラを迎え入れます。
「まあ、この天気だし、いろいろあってさ」
そう言うと、アキラはガラクタ屋で手に入れたお金を、車いすに乗ったおじいさんに渡しました。
「む、少しばかり少なくないか?」
車いすのおじいさんは目を光らせます。ですが、アキラは飄々と答えます。
「ああ、ちいとばかり雪だるまにくれてやったんですよ」
おしまい
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