『理不尽ばかりの人生でしたが、異世界でようやく報われるようです

ジュド

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第一章

第2話 神秘の女との邂逅

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目を開けた瞬間、全身を覆う不安と違和感に襲われた。

「……ここは……どこだ?」

 視界いっぱいに広がるのは、見たことのない景色。頭上には透き通るような青空、周囲には深く茂った木々。まるで童話かファンタジーの絵本に迷い込んだかのような光景だった。

「部屋……じゃない。いや、そもそも俺、死んだんじゃなかったか?」

 口に出すと現実味が増し、混乱はさらに強くなった。すると、突然頭上から声が降ってきた。

「おーい、聞こえますか、人間さん!」

 顔を上げると、一人の女性がゆるやかに舞い降りてきた。光を纏ったかのような存在感。まるで神話の女神だ。

「ちょっ……誰!? 空から降ってくるって、天使か!?」

 思わず叫んだが、相手は俺が見えていないかのように言葉を続けた。

「また反応なし……聞こえてるなら返事をしなさい!」

「いやいや……怖いから黙っとこ……」

 小声でぼやき、視線を逸らす。だが、彼女は苛立ったように声を張り上げた。

「もううんざり! 毎回無視されるのは勘弁してほしいのよ!」

 無視を決め込もうとしたが、つい口が滑った。

「閻魔様とか出てきて、天国か地獄か決めるんじゃないのかよ……」

「ごほん。あなたはおばあさんを助けました。その功績により――異世界行きです!」

「はぁ!? なんでそうなるんだよ! ……あっ」

 しまった、思わず反応してしまった。女神はにやりと笑みを浮かべる。

「やっぱり聞こえていたのね」

「ち、違う! 俺はただ独り言を……」

「ふふ、苦しい言い訳。じゃあ、これならどう?」

 女神は突然、変顔をした。

「ぶっ……ははは! な、なんだそれ!」

「やっぱり見えてたわね」

「うっ……やられた……」

 観念した俺に、女神は静かな声で語りかけた。

「では説明するわ。ここは、私が管理する異世界。この世界は今、闇に侵されつつあるの」

「闇……? また王道展開だな……」

「ふふ、あなたにはその闇を払う勇者となってもらいたい」

「ちょっと待て! 俺はただの社畜だぞ! 剣も魔法も使えないのに……」

「大丈夫。あなたが私を“見えた”時点で、資格はあるの。選ばれし者にしかそれはできないから」

「マジかよ……それって詐欺に引っかかった気分なんだけど」

「安心して。勇者の証は紋章として現れるわ。今はただの転生者。でも、あなたには素質がある」

 女神はそう告げると、宙に扉を出現させた。

「この扉の向こうが、あなたの新しい世界。さあ、選んで」

「拒否権は?」

「……もちろんあるわ。ただ、これはチャンス。あなた次第よ」

「……チャンス、か」

 少し考え、俺は深呼吸した。

「わかった。行ってみるよ」

「勇気ある選択ね。健闘を祈るわ」

 扉を抜けると、そこは一面の森だった。

「……マジで異世界……本当に来ちまった……」

 木漏れ日が差し込む緑の森。どこか懐かしく、けれど異様に神秘的。

「おいおい……俺、若返ってないか? 手とか妙に細いし……十代半ばくらい?」

 頬を触って愕然とする。体つきも軽い。

「……リセット人生ってやつか……」

 感慨に浸る間もなく、不気味な唸り声が響いた。

「ガルルル……」

 視線を向けると、大きな狼のようなモンスターが茂みから現れる。

「うわっ、出た! ……どうする俺!」

 じりじりと距離を詰めてくるモンスター。咄嗟に手を振ると――

「……うおおおお!? な、なんだこれ!」

 手のひらから光の玉が放たれ、モンスターに直撃。爆音と閃光が森に響き渡った。

「……マジで魔法!? 俺、魔法使えるのか!?」

 唖然とする俺をよそに、さらに数匹の影が現れる。

「おいおい……増援かよ! ふざけんな!」

 囲まれ、恐怖に駆られる中、必死で念じた。

「剣……俺に武器を……!」

 その瞬間、光が収束し、手の中に輝く剣が現れる。

「……出た……! これが勇者補正ってやつか!」

 狼たちが一斉に飛びかかってくる。

「来るなら来い! 俺だってやる時はやるんだ!」

 叫びながら剣を振るい、一体を斬り払う。しかし数は多く、体力は削られていく。

「はぁ、はぁ……やばい……! 体が……重い……!」

 絶望の淵で、俺は再び光の玉を思い浮かべた。

「もっと……でかく……!」

 掌に現れた光が急速に膨張し、太陽のように輝く球体となる。

「くらええええええ!」

 光の奔流が爆ぜ、周囲のモンスターを一掃した。轟音と閃光が森を包み、静寂が戻る。

「……倒せた……のか……?」

 安堵の声を漏らした瞬間、力が抜け、地面に倒れ込んだ。

「……はぁ……やっぱ……社畜上がりに……戦闘は……きつい……」

 意識が遠のいていく中、森の木々が霞み、視界が暗転していった。
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