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第一章
第三話 宿の灯りと冒険の始まり
しおりを挟む「……ん……ここは……?」
瞼を開けると、知らない天井が視界に入った。
部屋は薄暗く、壁に掛けられた燭台の小さな炎だけがゆらゆらと揺れている。
「……あれ? 俺……確か、森で魔物と……」
頭を押さえると、戦いの記憶が一気に蘇った。光の剣、狼の群れ、そして倒れた自分。
「夢……じゃ、ないよな」
混乱に沈む俺の横で、椅子に腰かけていた女性が声を掛けてきた。
「起きたかい」
黒髪を後ろで束ねた、落ち着いた雰囲気の女性だった。
「あなたは……?」
「この宿を経営してる者だよ。あんた、森の中でぶっ倒れてたのを冒険者たちが見つけて、ここまで運んでくれたのさ」
「そう、だったんですか……助かりました。本当にありがとうございます」
「礼はいらないさ。医者に診てもらったけど、魔力の使いすぎだってよ。……何してたんだい?」
「えっと……魔物の群れに襲われて……気づいたら必死で魔法を」
「はは、命があっただけ儲けもんだね。……あんた、見たところ素人だろう? もう少し自分を大事にしな」
「……はい」
注意されると、社畜時代に怒られてばかりいた記憶が蘇る。だが今回は、不思議と心地よかった。
「下に飯を用意してある。腹を満たしてきな。それから今後のことを考えな」
「ありがとうございます」
彼女が部屋を出て行くと、俺は深く息をついた。
「魔力……本当に、異世界なんだな」
胸の奥がざわつく。これからの生き方を考えなければならない。
---
階段を降りると、賑やかな声が響いてきた。宿の一階は食堂になっており、冒険者や旅人たちがテーブルを囲み、酒を酌み交わしている。
「お、あんたが倒れてた奴か!」
「元気そうじゃねえか!」
何人かの冒険者が声を掛けてきた。
「はい……本当に、助けていただきありがとうございました」
「気にすんな。森で放っといたら狼の餌だ。せいぜい元気になって返せよ」
「返す……?」
「冒険者としてな! お前、ギルドには入らねえのか?」
「ギルド……?」
「知らねえのか? 依頼を受けて金を稼げるし、戦い方も鍛えられる。お前みたいに初心者でも拾ってくれるぜ」
ギルド、か……。ゲームでよく見た組織だ。ここでも同じ仕組みがあるらしい。
「……俺も、そこで強くなれるかな」
「はは、やってみなきゃわかんねえだろ。行ってみろよ!」
---
翌日、俺は村の中央にあるギルドの建物を訪れた。
「いらっしゃいませ。ご用件は?」
受付の女性がにこやかに頭を下げる。
「あの、ギルドに入りたいんだけど」
「承知しました。では、この紙にお名前をお願いします。その後、こちらの水晶に手を」
「名前……ええと……」
少し迷った末、俺は昔オンラインゲームで使っていた名前を書いた。
「ジドル……です」
「はい。では水晶に手を」
言われるままに掌を置くと、水晶が白く輝いた。
「……あれ?」
受付の女性が目を見開いた。その後ろで、ほかの冒険者たちがざわめく。
「おい、光ったぞ……!」
「しかも真っ白だ。まさか、光属性……?」
「光なんて、滅多に出ねえぞ!」
周囲の視線が一斉に集まり、俺は思わず身をすくめた。
「あ、あの……なんで騒いでるんですか?」
「その水晶は魔法の属性を測るものです。光属性は……とても希少なのです」
「そ、そうなんですか……」
まるで晒し者だ。社畜時代を思い出して胃が痛むが、今回は悪い意味じゃないらしい。
「ジドルさん、これで正式にギルドの一員です。どうぞよろしくお願いします」
「は、はい……」
---
それからの日々は、依頼をこなしながらの生活となった。
「こいつで最後だ! よし、討伐数は規定に達したな」
「お疲れ様です、ジドルさん。こちらが報酬です」
「ありがとうございます」
受け取った金を袋にしまい、外に出ると仲間の冒険者が声をかけてきた。
「ジドル、今日も調子いいみたいだな!」
「いや、まだまだだよ」
「何言ってやがる。もう村じゃ有名人だぜ。光のジドル、なんてな!」
「やめろよ、その呼び名は……」
そんなやり取りを繰り返すうちに、月日は流れ、俺は少しずつ冒険者として名を知られる存在になっていった。
---
ある日、受付に声を掛ける。
「ジドル様、今日はどうされますか?」
「その……旅に出ようと思って。どこか、おすすめはありますか」
「そうですね。ゴドル王国などはどうでしょう。海を越えた先にあります。ジドル様の実力なら問題ないかと」
「ゴドル王国……考えてみます」
心の奥で、何かが旅立ちを後押ししていた。
---
村を発って数日。森を抜け、丘を越え、地図を頼りに歩く。道中は思ったより静かだった。
「……意外と平和だな」
そう呟いたある午後、草むらの奥で異様なものを見つけた。
「……入口?」
地面に埋め込まれたような石造りの扉。彫刻や装飾が施され、禍々しいほどに存在感を放っている。
「どう見ても……迷宮だよな」
近づこうとした瞬間、足元に魔法陣が展開された。
「うわっ……!」
強い光が弾け、数人の男たちが姿を現す。
「転移成功だな!」
「よし、今度こそクリアしてやる」
「モンスターはこりごりだが……仕方ねえ」
彼らは軽口を叩き合いながら、迷宮の扉を押し開けていった。
「……あいつら、普通に入っていったな」
呆然と立ち尽くしていると、数秒後――
「ぎゃああああ!」
「うわあああっ!」
中から男たちの悲鳴が響き渡った。
「……な、なんだ今の……!」
背筋を冷たいものが走る。
迷宮――そこには、想像以上の何かが待っているのかもしれない。
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