『理不尽ばかりの人生でしたが、異世界でようやく報われるようです

ジュド

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第一章

第4話 救出と出会い

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第4話 救出と出会い

 俺は叫び声のする方向へ駆け出した。その声は驚きと恐怖に満ちていて、耳に届くたび胸を締め付けられるようだった。
「誰かーっ! 助けてくれー!」
「なんだ!? ……まずいな」

 茂みをかき分けると、視界に飛び込んできたのは絶望的な光景だった。大勢のゴブリンたちが、無抵抗な人々を取り囲み、牙を剥いて襲いかかろうとしていたのだ。

「くんじゃねぇ!」
「や、やめろ!」
「ジャアァァァァッ!」

 俺の頭に怒りが噴き上がる。無力な人々を弄ぶように襲う魔物たち。その残酷さが、俺の中で眠っていた何かを揺さぶった。

「ふざけるな……!」

 剣を抜き放ち、俺は迷わずゴブリンの群れへ飛び込んだ。鋼と鋼がぶつかる甲高い音が響き、血と土の匂いが鼻を刺す。

「ライトソード!」
「ギャァァァァッ!」

 聖なる光をまとった刃が、ゴブリンの一体を一瞬で斬り伏せた。残る奴らも次々に俺へ牙を剥いて突進してくる。

「おい、あんたらそこにいろ! 動くな!」
「わ、わかった!」

 人々を庇うように前へ出て、迫る魔物の群れを片端から斬り裂いていく。
 ――やがて、最後のゴブリンが絶叫を上げて崩れ落ちた。

「ふぅ……。これで終わりだな」

 俺は剣を下ろし、振り返って怯える二人に声を掛けた。
「大丈夫か?」
「あ、ああ……なんとか」
「助かった……命の恩人だ」
「そうか、それなら良かった」

 立ち去ろうとしたその時だった。荷台から漂う、どこか不穏な気配に気づいた。腐臭とも言える臭いが鼻を突く。

「……おい、その荷台。変な臭いがするぞ。まさか、これのせいじゃないのか?」
「そ、それは……」

 二人の顔色が一気に青ざめた。俺の胸に警戒心が走る。

「見られたら仕方ねぇな」
「行くぞ!」

 二人が刃を抜いた瞬間、俺は迷わず動いた。鋭い剣閃が空を裂き、二人は叫ぶ暇もなく倒れ伏した。

「……やはり怪しいと思ったんだ」

 重苦しい気配を放つ荷台に手をかけ、扉を開く。中を覗いた瞬間、息が詰まった。

「これは……!」

 そこには、無残に命を奪われた人々の亡骸が山積みにされていた。そして、その中に――まだ微かに息をしている少女の姿を見つけたのだ。

「おい、大丈夫か!」
「……た、すけて……」

 か細い声。かろうじて生きている。俺は迷わず彼女を抱き上げ、急いで安全な場所へ運んだ。


---

 川辺にたどり着き、彼女をそっと横たえる。体には深い傷とあざ、息は荒い。

「しっかりしろ……水で傷を洗えば少しはマシになるはずだ」

 俺は川の水をすくい、彼女の体を丁寧に清めてやった。泥と血を洗い流し、清潔な布を裂いて応急処置を施す。

「……これで少しは落ち着いたか?」
「……あ、りがとう……ございます」

 震える声が耳に届き、胸が熱くなった。

「とりあえず、これで体を拭け。服は……俺がなんとか作ってみる」

 周囲で見つけた布切れやつたを利用し、簡素なワンピースを形作っていく。指先が覚えている不思議な感覚――魔力を込めると、布は自然と縫い合わさっていった。

「よし……出来た。着てみてくれ」
「……はい。……ありがとうございます」

 彼女はおずおずと着替え、涙をこらえながら微笑んだ。その笑顔に、胸の奥が温かくなる。


---

 簡単な食事を用意し、二人で川辺に腰を下ろした。
 焚き火の明かりに照らされ、彼女の表情が少しずつ和らいでいく。

「……それで、君の名前は?」
「……ロマ、といいます」
「ロマ。いい名前だな」

 少しの沈黙のあと、彼女はぽつりと語り始めた。

「私の村に……盗賊たちが来て。男の人たちは殺されて、残った者は……捕まって……」
「……あの荷台に?」
「はい。気づいたら、生きていたのは……私だけで……」

 声が震え、涙がこぼれ落ちた。俺は拳を握りしめる。

「……酷すぎるな」
「私は……どうなっていたのでしょうか。奴隷に……売られるはずでした。首には……奴隷紋が……」

 ロマは首筋を押さえた。そこには淡く光る刻印が刻まれていた。

「これ、消せないのか?」
「強い魔法使いなら……可能だと聞きました。でも、私には……」
「そうか。なら、俺がどうにかしてやる」
「え……?」
「俺はそんなものに従うつもりはない。ロマ、もしよければ――俺と一緒に来ないか」

 彼女は驚いたように目を見開き、それから小さくうなずいた。

「……いいんですか? 本当に……」
「もちろんだ。過酷な旅になるが、それでもいいなら」
「……はい。木の属性魔法なら少し使えます。役に立てるかは分かりませんが……」
「十分だ。俺はダンジョンに挑戦しようと思っている。ロマ、回復したら一緒に行こう」
「……はい!」

 その夜、俺とロマは川辺で小さな焚き火を囲みながら、互いの存在を確かめ合った。
 孤独に押し潰されそうだった彼女の目に、ようやく希望の光が灯っているのを感じながら――。
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