『理不尽ばかりの人生でしたが、異世界でようやく報われるようです

ジュド

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第一章

第五話 ダンジョンの扉と夢

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 森の中で過ごす日々は、思った以上に穏やかで、そして過酷だった。
 昼間は小動物や川魚を捕まえての食事。夜は焚き火を囲み、星空の下で互いに語らう。だが――日に日に森に現れるモンスターが増えていくのを、俺たちは肌で感じていた。

「こんなにモンスターって出るものなのか?」
「……普通はここまでじゃありません。これは異常です」
「だよな。狩っても狩っても数が減らない。まるで何かに押し出されてるみたいだ」
「それは……ダンジョンの影響かもしれません」

 ロマの言葉に俺は頷く。森の奥には、不気味な入口が口を開けている。数日前に見つけてから気にはなっていたが、避けて通ってきた。

「……らちが明かねえな。ロマ、入ろう」
「はい。ジドルがいるなら……私、怖くありません」


---

 石造りの門を抜けると、ひんやりとした空気が肌を撫でた。苔むした石壁、滴り落ちる水滴の音。足音が響き、通路は奥へ奥へと続いている。

「……雰囲気あるな。まさにRPGのダンジョンって感じだ」
「ジドル、またゲームの話ですか?」
「ああ、ついな。俺の世界じゃ、ダンジョンって娯楽だったんだよ」
「娯楽……信じられませんね」

 ロマは呆れたように微笑んだ。だがその表情もすぐに引き締まる。
 通路の影から、小型のモンスターが次々と姿を現したのだ。

「とりあえず、ロマ一人でどのくらい戦えるか見せてくれ」
「……わかりました」

 ロマは杖を構え、深呼吸すると呪文を放った。

「ニードルショット!」
「ギャァァァン!」

 木の針が弾丸のように飛び、敵を貫いた。彼女の魔法は速く、正確だった。

「……お前、思った以上にやれるな」
「ジドルが鍛えてくれたおかげです」
「俺は大してしてねえよ。元から素質があったんだろ」
「ふふっ、そう言ってもらえると嬉しいです」


---

 戦闘を重ね、俺たちはダンジョンの奥へ進んだ。
 やがて目の前に、巨大な扉が現れる。高さは十メートル近く、重厚な装飾が施されている。周囲の空気が張り詰め、ただの扉ではないことを告げていた。

「……ボス部屋、だろうな」
「そう見えますね」

 俺は剣を肩に担ぎ、ロマを振り返る。
「今すぐ挑むのは無謀だ。ここで一度休もう」
「はい。じゃあ、料理を作りますね」

 焚き火を囲み、湯気の立つスープを啜る。胃に温かさが広がり、体が少しずつ緩んでいく。そんな中、ロマが口を開いた。

「……ジドル。少し聞いてもいいですか?」
「ん? なんだ」
「ジドルは……やっぱり転生者なんですね」
「! ……ああ。なんで分かった?」
「この世界には、たまにそういう人が現れるんです。魔力の質が違うので」
「なるほどな……」

 俺は肩を竦めて笑った。だがロマの目は真剣だった。

「中には悪い人もいました。力を得て、村を襲ったり、奪ったり……」
「……俺がそうなると思うか?」
「いいえ」
 ロマはきっぱりと首を振った。
「ジドルは……人を守る人です。だから私は信じます」
「……」

 胸の奥が熱くなる。俺は軽く咳払いして誤魔化した。

「それに……私には夢があります」
「夢?」
「はい。私は“杖の勇者”になりたいんです」
「杖の勇者?」
「魔法を極め、数々の伝説を残した人の称号です。子供のころ、親に誓ったんです。必ず杖の勇者になるって」

 ロマの目が炎に照らされ、強い輝きを放っていた。

「……立派だな。俺なんか、勇者なんて柄じゃない」
「ジドルなら、なれます」
「強いだけじゃ駄目だろ」
「いえ。優しさも必要です。ジドルには、それがあります」

 俺は返す言葉を失った。
 ――優しさ。そんなものを、自分が持っていると思ったことはなかった。

「……ありがとな」
「はい!」

 ロマの笑顔に、胸の奥の闇が少しずつ溶けていく気がした。


---

「……じゃあ、明日に備えて休もう」
「おやすみなさい、ジドル」
「おやすみ」

 石床に身を横たえ、目を閉じる。扉の向こうに待つものを思いながら――。


---

 朝。
 冷たい空気に目を覚ますと、ロマが湯気の立つ器を差し出してきた。

「おはようございます。朝食、できました」
「おお、ありがとな」

 体に活力が戻る。俺は立ち上がり、扉に手をかけた。

「よし……行くか」
「はい」

 重厚な扉が軋みを上げ、ゆっくりと開いていく。
 暗闇の奥から姿を現したのは――甲殻に覆われた巨大な魔物だった。

「……なんだ、カブトムシか?」
「いえ……ジャイアントビート。森を食い尽くす災厄の魔物です!」
「マジかよ……デカすぎるだろ」

 六本の脚が石床を砕き、振り下ろされた角が地面を割る。
 圧倒的な存在感に、思わず息を呑む。

「これが……ボスか」
「ジドル!」
「ああ、行くぞロマ!」

 二人は同時に駆け出した。
 ――ダンジョンの試練が、今始まる。
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