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お嬢様への誓い(バーサル編)

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案内されたのは、見たこともないような立派な馬車だった。
男に促され、私は馬車に乗り込む。

「やっときたわね」

中には俺を助けてくれたという女の子とニールデン公爵様がいらっしゃった。

「・・・その・・・ありがとうございます・・」

「ああ。」

少女とよく似た赤い瞳をこちらにむけ、公爵様は鷹揚に頷いた。
初老というには若々しく、何よりそのオーラに俺は圧倒された。

「なぜ・・・俺を助けてくれたんですか・・・」
「別に、私には助けるつもりなどなかった。お前を助けたのは、お前の父が残した書類とわが孫のサフィーだ。」

公爵にとって、誰が伯爵であっても領地全体がきちんと収められ問題なければ、それで良い。

「上に立つものがお前であろうが、あの男であろうが私はどちらでも構わなかったのだがな」

公爵はそう言って、鋭い瞳で俺を見た。
この人は、国のためになるのなら、虐待されていた私など簡単な切り捨てる人だと思った。

「あれが、きちんと契約を守り、問題なく領地を守っているならば口出しなどせぬよ。まぁ、契約を問題なく遂行していればお前がこんな目にあうこともなかったろうがな」

公爵が皮肉めいた笑いを浮かべた。

「お前を我が家に欲しいと言ったのは、サフィーだ。感謝はわが孫にするがいい」

その日から、公爵家で様々な教育を受け、サフィー様のお世話係として日々を過ごすことになった。





「どうして、俺を助けてくれたんですか?」

あるお茶の時間に思い切って聞いてみた。

「そうね・・・その目が気に入ったから」

「目?」

「そう・・・綺麗な深い紫の瞳。そして、絶望と殺意を秘めた瞳」

楽しそうに笑う。

「私がいなかったら、あの家で大虐殺が起きそうだなって思ったわ」

俺は息をのんだ。

あの家で、俺はあの一家を・・・俺を意味なく虐待していた邸の人間、全員を殺すつもりだった。

「そんな目をしたあなたを自分の側に置くのも、悪くないと思ったのよ」

このお嬢は・・・変わり者だった。
だが、変わり者だったから、今俺はここにいられるのだ。
そして、救われた。

椅子からおりて、片膝をついた。

「私は、あなたのモノです。あなたにすべてを奉げます」

サフィー様は満足そうに笑った。

「ならば、私はあなたを傷つけるものを許すことはないわ。命をかけても守ってあげる」

胸の内が満たされるのを感じた。
ならば、命を懸けて守ってくれるこの人のために、私は魂をもかけよう。




たとえ、この人が悪魔であったとしても。
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