恋人に浮気された腹いせに男娼を買ったら人生狂った。(完全版)

まりあ

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第二部。あれから一年後。オリム、さらわれる

●おまけ⑦天使は微笑んで赦さない

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●おまけ⑦天使は微笑んで、赦さない

本編後の話(ザマァ編)セマ、クロノス、ヴァイオレット


風が心地よい午後、
クロノスは中庭を足早に歩いていた。

長い手足に小さな顔。  
細身なのに、しなやかな筋肉が服の下で動く。  
骨格の美しさだけで目を引く男だった。
切り取った一枚の絵みたいだとセマは思った。
(オリムって、めちゃくちゃ面食いだよな。あー、オレもあと20㎝脚が長ければ…)



「クロノス!」名前を呼んで
振り向いたクロノスに駆け寄る。

「ああ、セマ。こんにちは。どうしたの?」

「王女が虎に襲われてケガをしたらしいんだ」
セマは声をひそめた。

(金髪は怖いけど、クロノスは話しやすいんだよな。話し方も優しいし。オリムも『天使』って言ってたもんな)

クロノスの表情が一瞬、わずかに動いた。
「……え。それは、怖いね」

「魔力を吸いとる違法手枷を使ってたって話が、もう魔術師たちの間で広まっててさ。
ヒールしてくれる魔術師が誰もいないんだ。
全治三ヶ月はかかるらしいよ。顔じゃないけど、痕も残るかもって」


「三ヶ月…」クロノスが小さくつぶやく。
その声は、まるで独り言のようだった。
「…三ヶ月で済んだのは、本当に運が良かったんだと思うよ」

「え?」セマが聞き返す。

クロノスはすぐに笑顔をつくり、眉尻を下げた。
「いや。お気の毒にね」


「ほら、あん時の虎だよ。オレたちが帰ったあとに、檻の出口が開くように誰かがリモコンでタイマーをかけてたんだって」

「そうなんだ?」クロノスが相づちを打つ。
穏やかな声だったが、どこか含みがある。

セマはふと、思い出してしまった。
「あんた、確かあのとき、檻のリモコンいじってたよな…?」

「さあ、どうだったかな」
クロノスは首を傾げ
「でも、オリムさんを虎に襲わせた人が、自分も虎に襲われても文句は言えないよね?」

晴れ晴れとした笑顔は、宝石みたいに輝いていた。

(こわ…)
セマは思わず一歩、後ずさる。

そのとき、後ろからヴァイオレットがやってきて、クロノスの肩に手を置いた。
「チビ、気をつけろよ。こいつ、見た目の千倍、心が狭いからな。オレも昔、半殺しにされた」

「お前のは、されて当然だ!」
クロノスがムッとした顔で、ヴァイオレットの手を振り払う。

セマの心臓がドクンと跳ねた。
(金髪も怖いけど…クロノスもオリムが絡むと怖いんだ…。
この二人には、オリムにどうやって薬を飲ませたか、絶対に言えない…!)

クロノスは、自分のことでは怒らない。
でも、大事な人のことになると容赦がない。
その境界線の明確さが、ある意味で彼の「優しさ」だった。


ちなみに、違法手枷の件を国中に広めたのは、エスラストの全国民です。
今や城下ではその話題でもちきりだった。
王女は、見事に全魔術師を敵に回してしまった。



そして、クロノスが去ったあと。
残されたヴァイオレットとセマは、同時にため息をついた。
「…なあ、金髪」
「なんだよ?」
「オリムはクロノスを『天使』って言ってるけどさ」
「あん?」
「たぶん、守護の天使っていうより、復讐の天使だよな」
「だったら、あいつの翼、片方は刃物だぜ」
二人の肩を、ひやりとした風が通り抜けていった。
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