71 / 95
第二部。あれから一年後。オリム、さらわれる
●おまけ⑥クロノス、涙の疑惑とその真相
しおりを挟む
●おまけ⑥クロノス、涙の疑惑とその真相(オリム、クロノス、ヴァイオレット)
魔術師団控え室に、休憩になったクロノスとヴァイオレットが鉢合わせた。
オリムが書類に目を通していると、
ヴァイオレットがニヤニヤしながらクロノスに目線を送る。
「…そういえばさ。リィが隣国に、さらわれたとき」
クロノスがピクリと肩を跳ねさせる。
「お前泣いてたよな?」
「泣いてない」
静かな声で即答。
冷静ぶってるけど耳が赤い。
ドキッとして、オリムはクロノスを見る。
助け出された瞬間の、クロノスの腕の力強さを思い出した。
胸の奥がじわりと熱くなる。
「泣いてた。完全に泣いてた。オレは見た」
「見てないだろ」
「見てないけど。泣いてた」
「しつこいぞ」
不毛な応酬が続く。
ほっとけば永久に言い合いかねない。
オリムはペンを持ったまま2人を見た。
クロノスは、目があって気まずそうに視線をずらし、
オリムの前に紅茶を置く。
「泣いてはいないです。
心配で、死にそうだったのは本当だけど」
その言葉で、オリムの心がぎゅっとなった。
「クロノス…」
甘い空気に変わりかけたところで、
ヴァイオレットが、そうはさせるかと、茶化した。
「あ~あ。泣きながら馬飛ばすクロノス様、もう一回見てぇな。
あれは今世紀最高の顔だったな」
「馬の上でなんて泣いてない」
「馬の上じゃないところで泣いたんだろ」
「だから、泣いてない」
勝ち誇ったヴァイオレットにクロノスの声が険しくなる。
そろそろ止めるか。
バンッ。
机を叩いたのはオリムだ。
「…いい加減にしろ、お前ら」
低い声に
ふたりが同時に黙る。
オリムは書類を閉じ、
静かに告げる。
「泣いてたのは…オレだよ」
突然の告白に、
クロノスが瞬きをして
ヴァイオレットは口を開けたまま固まった。
「「えっ?」」
オリムは照れを隠すようにわずかに視線をそらした。
「だいぶ昔の話だけど、…クロノスが領地戻る日。
ドア閉めた瞬間、勝手に涙が出てきた。
…寂しかった」
クロノスが声を震わせる。
「え…オリムさん…あの時泣いてたの…?
え、え、本当…?」
そして拳をきつく握りしめた。
「………くそっ、なんで気づかなかった!?」
オリムは肩をすくめる。
「泣くよ。普通に。
…お前が好きだから」
その言葉の直撃に、クロノスは音もなく崩れ落ちた。
「おい…………砂吐く…」
頭を抱えるヴァイオレット。
「だから、誰が泣いたとか、泣かないとか、どうでもいい。
……オレは、お前達が来てくれて嬉しかったし、助かった」
クロノスがうつむいて震えた声で言う。
「…僕…本当に…今度こそ絶対間に合わせようと思って。
オリムさんが傷つくの見たくなくて、気づいたら、泣いてました」
オリムは小さく息をついて、
クロノスの頭を軽くぽんと叩いた。
「泣かせてごめんな」
少しだけ照れを含ませて言う。
「でももし次、泣く時があったら、ちゃんと言え。
今度は…オレがそばで抱きしめるから」
クロノス、完全に沈黙。
ヴァイオレットは顔を覆って机に伏せる。
「そのやり取り、職場でやるか…?」
「ほらふたりとも、そろそろ仕事戻れ」
オリムはヴァイオレットの背中を小さくたたき、
クロノスと目を合わせ、ほんの少し恥ずかしそうに微笑んだ。
魔術師団控え室に、休憩になったクロノスとヴァイオレットが鉢合わせた。
オリムが書類に目を通していると、
ヴァイオレットがニヤニヤしながらクロノスに目線を送る。
「…そういえばさ。リィが隣国に、さらわれたとき」
クロノスがピクリと肩を跳ねさせる。
「お前泣いてたよな?」
「泣いてない」
静かな声で即答。
冷静ぶってるけど耳が赤い。
ドキッとして、オリムはクロノスを見る。
助け出された瞬間の、クロノスの腕の力強さを思い出した。
胸の奥がじわりと熱くなる。
「泣いてた。完全に泣いてた。オレは見た」
「見てないだろ」
「見てないけど。泣いてた」
「しつこいぞ」
不毛な応酬が続く。
ほっとけば永久に言い合いかねない。
オリムはペンを持ったまま2人を見た。
クロノスは、目があって気まずそうに視線をずらし、
オリムの前に紅茶を置く。
「泣いてはいないです。
心配で、死にそうだったのは本当だけど」
その言葉で、オリムの心がぎゅっとなった。
「クロノス…」
甘い空気に変わりかけたところで、
ヴァイオレットが、そうはさせるかと、茶化した。
「あ~あ。泣きながら馬飛ばすクロノス様、もう一回見てぇな。
あれは今世紀最高の顔だったな」
「馬の上でなんて泣いてない」
「馬の上じゃないところで泣いたんだろ」
「だから、泣いてない」
勝ち誇ったヴァイオレットにクロノスの声が険しくなる。
そろそろ止めるか。
バンッ。
机を叩いたのはオリムだ。
「…いい加減にしろ、お前ら」
低い声に
ふたりが同時に黙る。
オリムは書類を閉じ、
静かに告げる。
「泣いてたのは…オレだよ」
突然の告白に、
クロノスが瞬きをして
ヴァイオレットは口を開けたまま固まった。
「「えっ?」」
オリムは照れを隠すようにわずかに視線をそらした。
「だいぶ昔の話だけど、…クロノスが領地戻る日。
ドア閉めた瞬間、勝手に涙が出てきた。
…寂しかった」
クロノスが声を震わせる。
「え…オリムさん…あの時泣いてたの…?
え、え、本当…?」
そして拳をきつく握りしめた。
「………くそっ、なんで気づかなかった!?」
オリムは肩をすくめる。
「泣くよ。普通に。
…お前が好きだから」
その言葉の直撃に、クロノスは音もなく崩れ落ちた。
「おい…………砂吐く…」
頭を抱えるヴァイオレット。
「だから、誰が泣いたとか、泣かないとか、どうでもいい。
……オレは、お前達が来てくれて嬉しかったし、助かった」
クロノスがうつむいて震えた声で言う。
「…僕…本当に…今度こそ絶対間に合わせようと思って。
オリムさんが傷つくの見たくなくて、気づいたら、泣いてました」
オリムは小さく息をついて、
クロノスの頭を軽くぽんと叩いた。
「泣かせてごめんな」
少しだけ照れを含ませて言う。
「でももし次、泣く時があったら、ちゃんと言え。
今度は…オレがそばで抱きしめるから」
クロノス、完全に沈黙。
ヴァイオレットは顔を覆って机に伏せる。
「そのやり取り、職場でやるか…?」
「ほらふたりとも、そろそろ仕事戻れ」
オリムはヴァイオレットの背中を小さくたたき、
クロノスと目を合わせ、ほんの少し恥ずかしそうに微笑んだ。
41
あなたにおすすめの小説
番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か
雪兎
BL
第二性が存在する世界。
Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。
しかし入学初日、彼の前に現れたのは――
幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。
成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。
だが湊だけが知っている。
彼が異常なほど執着深いことを。
「大丈夫、全部管理してあげる」
「君が困らないようにしてるだけだよ」
座席、時間割、交友関係、体調管理。
いつの間にか整えられていく環境。
逃げ場のない距離。
番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。
悪役令嬢の兄でしたが、追放後は参謀として騎士たちに囲まれています。- 第1巻 - 婚約破棄と一族追放
大の字だい
BL
王国にその名を轟かせる名門・ブラックウッド公爵家。
嫡男レイモンドは比類なき才知と冷徹な眼差しを持つ若き天才であった。
だが妹リディアナが王太子の許嫁でありながら、王太子が心奪われたのは庶民の少女リーシャ・グレイヴェル。
嫉妬と憎悪が社交界を揺るがす愚行へと繋がり、王宮での婚約破棄、王の御前での一族追放へと至る。
混乱の只中、妹を庇おうとするレイモンドの前に立ちはだかったのは、王国騎士団副団長にしてリーシャの異母兄、ヴィンセント・グレイヴェル。
琥珀の瞳に嗜虐を宿した彼は言う――
「この才を捨てるは惜しい。ゆえに、我が手で飼い馴らそう」
知略と支配欲を秘めた騎士と、没落した宰相家の天才青年。
耽美と背徳の物語が、冷たい鎖と熱い口づけの中で幕を開ける。
その首輪は、弟の牙でしか外せない。
ゆずまめ鯉
BL
養子ゆえに、王位継承権を持たないオメガで長男のレイン(24)は、国家騎士団として秘密裏に働き、ただ義弟たちを守るためだけに生きてきた。
第一継承権を持つアルファで次男のリオール(19)は、そんな兄に「ごく潰し」と陰口を叩く連中を許せなかった。自分を犠牲にしてまで守る価値はないと思っていた。なにかと怪我の多い国家騎士団を辞めさせたかった。
初めて訪れた発情期のとき。約束をすっぽかされたリオールが不審に思い、兄の部屋へ行くと、国家騎士団の同僚──グウェンソード(28)に押し倒されるところを目撃して激高する。
「今すぐ部屋から出ろ!」
独占欲をあらわにしたリオールは、グウェンソードを部屋から追い出し、兄であるレインを欲望のままに抱いた。
翌朝、差し出されたのは特注の首輪──外せるのはリオールのみ。
「俺以外に触らせるな」
そう囁かれたレインは、何年も首輪と弟の執着に縛られ続けてきた。
弟には婚約者がいるのに、こんな関係を続けてもいいのか。
本当にこのままでもいいのか。
ひたすら執着して独占したがる弟と、罪悪感に苛まれる兄。
その首輪は、いつか弟の牙で血に染まるのか──。
どうにかしてレインを落としたいリオールと、弟との関係に悩むレインのオメガバースです。
リオール・グランケット(19)×レイン・グランケット(24)
※この作品は2015年頃に本文を書き、2017年頃にオメガバースに改稿、さらに2026年に手直しした作品になります。読みにくいかもしれません。ご了承ください。
三人称ですが攻めだったり受けだったり視点がよくかわります。攻め視点多めです。
宰相閣下の執愛は、平民の俺だけに向いている
飛鷹
BL
旧題:平民のはずの俺が、規格外の獣人に絡め取られて番になるまでの話
アホな貴族の両親から生まれた『俺』。色々あって、俺の身分は平民だけど、まぁそんな人生も悪くない。
無事に成長して、仕事に就くこともできたのに。
ここ最近、夢に魘されている。もう一ヶ月もの間、毎晩毎晩………。
朝起きたときには忘れてしまっている夢に疲弊している平民『レイ』と、彼を手に入れたくてウズウズしている獣人のお話。
連載の形にしていますが、攻め視点もUPするためなので、多分全2〜3話で完結予定です。
※6/20追記。
少しレイの過去と気持ちを追加したくて、『連載中』に戻しました。
今迄のお話で完結はしています。なので以降はレイの心情深堀の形となりますので、章を分けて表示します。
1話目はちょっと暗めですが………。
宜しかったらお付き合い下さいませ。
多分、10話前後で終わる予定。軽く読めるように、私としては1話ずつを短めにしております。
ストックが切れるまで、毎日更新予定です。
竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜
レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」
魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。
彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。
【完結】一生に一度だけでいいから、好きなひとに抱かれてみたい。
村松砂音(抹茶砂糖)
BL
第13回BL大賞で奨励賞をいただきました!
ありがとうございました!!
いつも不機嫌そうな美形の騎士×特異体質の不憫な騎士見習い
<あらすじ>
魔力欠乏体質者との性行為は、死ぬほど気持ちがいい。そんな噂が流れている「魔力欠乏体質」であるリュカは、父の命令で第二王子を誘惑するために見習い騎士として騎士団に入る。
見習い騎士には、側仕えとして先輩騎士と宿舎で同室となり、身の回りの世話をするという規則があり、リュカは隊長を務めるアレックスの側仕えとなった。
いつも不機嫌そうな態度とちぐはぐなアレックスのやさしさに触れていくにつれて、アレックスに惹かれていくリュカ。
ある日、リュカの前に第二王子のウィルフリッドが現れ、衝撃の事実を告げてきて……。
親のいいなりで生きてきた不憫な青年が、恋をして、しあわせをもらう物語。
※性描写が多めの作品になっていますのでご注意ください。
└性描写が含まれる話のサブタイトルには※をつけています。
※表紙は「かんたん表紙メーカー」さまで作成しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる