恋人に浮気された腹いせに男娼を買ったら人生狂った。(完全版)

まりあ

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最終章(クロノス視点)

3

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※※※


オリムさんは今週は、随分きつそうだった。


通常業務の他に
各所に頭を下げに出向き、一部では嫌みも言われたようで、精神的にも削られたはずだ。


でも、今日はやっと週末、明日からは2連休。オリムさんをどろどろに甘やかすつもりでいる。


僕は早めに帰宅して、家事を済ませて彼を待っていた。




帰宅した彼は疲弊していて、顔色も良くなかった。
それに難しい顔をしていた。
毎週末欠かさず買って来てくれるブーケもなかった。
買ってきてほしいわけじゃない。
ただ「いつもあるものが今日はない」というだけで胸騒ぎがした。

この1年、そういう「違和感」には慣れてしまっていた。
あの頃のオリムさんは、しょっちゅう僕に冷たかった。

抱きしめたいのに、抱きしめられなかった。
オリムさんの傷を思って、距離を置いた日も多かった。

優しく話してくれる日もあるけど、突然心を閉ざす日もあった。


オリムさんを心配すると、少しきつい口調になって拒否された。

ふらついたオリムさんを支えようと、反射的に伸ばした手を「今はやめて」と震える声で払われたこと。

体調を崩した日、額に触れようとした僕の手を
「……平気。触らないで」とそっと払いのけたこと。

仕事の話しかしない時期もあった。

「恋人」という言葉を僕が出すと、身体を固くした。

夜、一緒に眠っていたけど、朝になると少し距離が空いていた。

(怒っているわけじゃない。拒絶したいわけでもない。
でも、触れられるのが怖いんだ)
そう感じた。

最近はそんな日々も、少し昔に感じられたのに。
だけど今日の「沈黙」も、懐かしい痛みに似ていた。



そんな彼を、部屋着に着替えさせて、僕の作った食事をあーんで食べさせる。


彼は嫌がることもなく、されるままになっていた。
だけどいつもと様子が違った。
怖い顔をしたまま、ほとんどしゃべらない。苦手なはずの付け合わせの野菜も文句を言わずに食べた。いつも必ず言う「これ上手いな」も今日はなかった。疲れているせいだけじゃないとわかる。




「今週は大変でしたよね。
今日はアップルタルトを焼いたんです。紅茶をいれますね。
それともシャンパンあけちゃいましょうか?」

食後の彼にわざと明るく言った。




「いや、クロノス…大事な話がある。先に聞いてくれ」

すごく真剣な顔。
胸の奥で、静かに冷たいものが広がるのを感じた。

「…はい」

聞きたくなかった。


僕は1度オリムさんにフラれている。
ヴァイオレットに拉致られた後だ。

僕との関係を終わらせるつもりだったオリムさんを引き留めようと、
なりふりかまわず、家出同然に爵位も捨てて、周囲の目も気にせず彼の近くで再就職した。

婚約も同情心と責任感につけこんで破棄をさせなかった。


同情させて、無理やり押し掛けて、付きまとって、
恋人の時と同じように接している。

最近のオリムさんは「好き」とは言ってくれるし、愛されてるのは感じるけど、
恋人の状態が継続されているかの確認は、怖くて出来ないままだ。
それでもこうして同棲生活は成り立っていたのだから、オリムさんは僕を受け入れてくれていた。
でもそのせいで今回彼は命を狙われた。




「あのさ、お前はもうオレのこと追いかけなくていいよ」
沈黙を破ってオリムさんは言った。
やっぱり。
予感はあったけれど、落胆は大きかった。
でも、僕の答えは決まっていた。
慕えるだけで幸福で、
一生ひとりで生きていこうと思った時期もあった。
だけど今は違う。
(もともと長期戦になる覚悟はしてたんだ…)
失いたくない。
この気持ちが一方的でも、みっともなくても。
でも、縛りたいわけじゃない。
ただ、手放す勇気なんて僕にはどこにもないだけだ。
その必死さが、ヴァイオレットや王女の執着とどう違うのか、胸がざわつく。
嫌な記憶が脳裏をよぎる。
また、あのときみたいに「切られる」のかもしれない。
だけど…そこで思考が止まった。

違う。
僕はオリムさんの選ぶ自由は奪わない。
彼に選んでもらえるように、努力しつづけるだけだ。


追いかける、それはまさに、この1年の僕とオリムさんにぴったりの言葉だった。
最近はやっと、その背中に指先が届いた気がしていたのに。
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