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最終章(クロノス視点)
●おまけ⑧何度でも繰り返す
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●おまけ⑧何度でも繰り返す
(後日談)
数年後、エスラストは目覚ましい発展を遂げていた。
即位したルキウス陛下は賢王として名高く、
クロノスの助言に耳を傾け、国政は驚くほど円滑に進んでいる。
前王の時代には数年に一度は戦争がおこっていたが、いまはそれも懐かしい。
国民は穏やかな日々を享受している。
クロノスは武力ではなく言葉と策をもって問題を解決し、
オリムの負担を減らすため、王を巧みに操っていた。
平和な日常はクロノスのオリムへの愛が作った副産物とも言える。
だけどそのことに、当の本人は気づいていない。
宮廷の廊下は、窓から差し込む柔らかな陽光に満たされていた。
雲ひとつない青空が、窓の外にどこまでも広がる。
顔が映るほど磨かれた大理石の床を踏みしめながら、オリムがつぶやいた。
「最近ずっと平和だよな……。正直、こんなに王が、出来るやつだとは思わなかった」
「そうですね。オリム先輩が魔術師団総出で床掃除しようなんて言い出すとは、誰も予想してませんでしたよ」
「暇だし、給料もらってるしな」
「このまま平和が続いてほしいですね。
この調子だと、お城がピカピカになっちゃいますよ。
……今なら、新婚旅行とか行けちゃうんじゃないですか?」
「今じゃ、あっちが忙しいからな」
「ああ、そうでしたね。クロノス様、ずっとお忙しそうですもんね」
オリムがふいに歩みを止めた。
隣を歩くマットもつられて足を止める。
オリムがふっと表情をゆるめる。その視線の先に、クロノスの姿があった。
「あいつが恋焦がれてますって目でオレを見てくるから……落ち着かないんだ」
そうオリムが以前惚気ていたのを思い出す。
(いや、先輩も同じ顔してますけどね)
朝も夜も同じ家から出入りしているのに、
まるで運命の再会でも果たしたかのように見つめ合う二人。
…本当、何年経っても変わらない。
マットは心の中で苦笑いした。
そのときふと頭をよぎった。
かつて王都で囁かれていた、クロノスの二つ名『傾国殿』。
当時は誰もが、
“国が傾くほど顔が良い”
くらいの軽口だと思っていた。
だけど、いまやその名を口にする者はいない。
そしてマットは今、別の意味でその二つ名を思い出す。
(あの人は一人の魔術師を守るためなら、国の重心を、平和のほうへ傾けてしまう)
誰にも気づかれない暗がりで。静かに、確実に。
クロノスを指す『傾国』は、国を乱す者ではなく、国を守る方向へ傾ける人。
マットの目には、そんなふうに映っていた。
(後日談)
数年後、エスラストは目覚ましい発展を遂げていた。
即位したルキウス陛下は賢王として名高く、
クロノスの助言に耳を傾け、国政は驚くほど円滑に進んでいる。
前王の時代には数年に一度は戦争がおこっていたが、いまはそれも懐かしい。
国民は穏やかな日々を享受している。
クロノスは武力ではなく言葉と策をもって問題を解決し、
オリムの負担を減らすため、王を巧みに操っていた。
平和な日常はクロノスのオリムへの愛が作った副産物とも言える。
だけどそのことに、当の本人は気づいていない。
宮廷の廊下は、窓から差し込む柔らかな陽光に満たされていた。
雲ひとつない青空が、窓の外にどこまでも広がる。
顔が映るほど磨かれた大理石の床を踏みしめながら、オリムがつぶやいた。
「最近ずっと平和だよな……。正直、こんなに王が、出来るやつだとは思わなかった」
「そうですね。オリム先輩が魔術師団総出で床掃除しようなんて言い出すとは、誰も予想してませんでしたよ」
「暇だし、給料もらってるしな」
「このまま平和が続いてほしいですね。
この調子だと、お城がピカピカになっちゃいますよ。
……今なら、新婚旅行とか行けちゃうんじゃないですか?」
「今じゃ、あっちが忙しいからな」
「ああ、そうでしたね。クロノス様、ずっとお忙しそうですもんね」
オリムがふいに歩みを止めた。
隣を歩くマットもつられて足を止める。
オリムがふっと表情をゆるめる。その視線の先に、クロノスの姿があった。
「あいつが恋焦がれてますって目でオレを見てくるから……落ち着かないんだ」
そうオリムが以前惚気ていたのを思い出す。
(いや、先輩も同じ顔してますけどね)
朝も夜も同じ家から出入りしているのに、
まるで運命の再会でも果たしたかのように見つめ合う二人。
…本当、何年経っても変わらない。
マットは心の中で苦笑いした。
そのときふと頭をよぎった。
かつて王都で囁かれていた、クロノスの二つ名『傾国殿』。
当時は誰もが、
“国が傾くほど顔が良い”
くらいの軽口だと思っていた。
だけど、いまやその名を口にする者はいない。
そしてマットは今、別の意味でその二つ名を思い出す。
(あの人は一人の魔術師を守るためなら、国の重心を、平和のほうへ傾けてしまう)
誰にも気づかれない暗がりで。静かに、確実に。
クロノスを指す『傾国』は、国を乱す者ではなく、国を守る方向へ傾ける人。
マットの目には、そんなふうに映っていた。
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