恋人に浮気された腹いせに男娼を買ったら人生狂った。(完全版)

まりあ

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第二部。過去の回想。偽物だった男娼の純情な感情(クロノス)

●おまけ④傾国殿と怖いバック

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●おまけ④傾国殿と怖いバック

午後の会議室にて



「傾国殿、こちらへ。」
年長の議員が軽い調子で呼んだ。

軽い笑い声がおこる。
クロノスは書類を片手に静かに会釈した。
笑いをかき消したのは、彼が持つ気高さだった。

傾国。
その2つ名には、ただの冗談ではない響きがある。


クロノスが領地に帰った時の王子の沈みようといったらなかった。

その後、騎士をやめ、爵位を継いだはずなのに、それを捨てて官僚として復帰した。

貴族籍もなくしたくせに、王子の傍に立つ唯一の特例。
それは王子の独断で押し通されたものだということを知らぬ者はいない。

「王子はなんでも傾国殿の言いなりだ」
「元婚約者の王女にも追いかけ回されてるらしい」
「傷があったときは不気味だったのにな」
「今じゃ微笑みひとつで王子を操ってる」

傾国。
嫉妬と羨望、それからほんの少しの敬意がまじったあだ名。



オリムはムッとする。

隣に座る魔術師長補佐のマットが「オリム先輩、おさえて」とつぶやいたが無駄だった。

オリムは立ち上がる。

「公の場でああいう軽口で呼ぶのはどうかと思いますが」

「あーあ、言っちゃったよ」小さくマットが言った。
(自分のことだと聞き流すくせに…この人クロノス様のことになると見境なくなるんだよなぁ )


「魔術師長…?」
普段無表情の男の低く抑えた声に、議員は目を瞬かせる。
だけど次の瞬間、わざとらしく口角を上げた。
「傾国殿にはみんな惑わされているようですね」


挑発にオリムが我慢できず、さらに言葉を紡ごうとする。
「彼は…」


その時、誰かがオリムの肩をつかんだ。

王子だった。
いつの間にかそばに来ていたらしい。

「おまえ、名は?」
王子に問われ、議員の顔色が変わった。
その場の空気が張り詰める。
「…」


「本当に傾国だと思っているなら、気をつけて。
怖~いバックがついてるかもしれないから」
王子は茶目っ気たっぷりに人差し指の腹で自分の頬を押した。
「そして、お前の言う通り惑わされてるのは僕だけじゃないよ。怖い顔でにらんでるこの魔術師長が公私混同させてデバフをかける前に、口を慎んだほうがいい。」

「殿下!!」
オリムが止める間もなく、
王子はすでに足取り軽くクロノスのほうへと向かっていた。

王子はすでにオリムたちは眼中になく、その瞳はクロノスただ1人をみつめていた。
「クロノス~」




(こんなことで熱くなって…本当調子狂うよ)
「王子じゃないんだ、公私混同なんて…するわけないだろ」
オリムは呆れと安堵の入り交じった息を吐いた。

耳ざとく、その声を拾って、となりでマットが冷静につっこむ。
「いや、すでに顔が職務放棄してました」

オリムは言い返そうとしたが、結局やめて、
視線を王子にむけた。


眉尻を下げてクロノスが言う。
「殿下、いま会議中ですよ」

「クロノス、お前の顔が見たくなったんだ」

「…」クロノスの沈黙だけで空気が冷たくなるのがわかる。

「…ごめん」
王子が誰かに簡単に謝るなんて、クロノスにだけだ。


クロノスが短く息をついた。
「先に執務室にお戻りください。
お願いしておいた公務は終わっていますか?」

王子は誇らしげに胸を張った。

「そう!だからお前に早く伝えたくて」


「お疲れ様でした、殿下。よくがんばりましたね」

クロノスは「傾国」と由来される微笑みをむけた。

その笑顔に、その場にいる全員が、息をのんだ。
オリムの心臓にも直撃する。

王子は楽しげで、ちょっと誇らしそうにそれを見ていた。


「これは…クロノス様のバックが王子なのか、
王子のバックがクロノス様なのか、わかりませんね……」
見惚れたままのオリムに、マットが小さく耳打ちした。

「…あ、ダメだオリム先輩、かたまってる…
おーい、
…そういうのが無自覚のろけって言うんですよ」







後日、クロノスの非公式ファンクラブで、あの年長議員と再び顔を合わせることになるとは、
この時のオリムは知るよしもなかった。
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