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最終章(クロノス視点)
●幕間『すれ違う初恋』
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これは、誰も知らない『すれ違った初恋』の記録。
●クロノスの記憶
クロノスには忘れられない光景がある。
夜の森で、死を覚悟した幼い自分の前に
一筋の炎の道が走った。
焦げた匂い。倒れる魔物。
そこに立っていたのは、同い年の少年オリム。
圧倒的な強さと返り血に染まった細い身体で、
自分に向けて微笑んだ。
「もう、大丈夫だよ」
その声は、不思議なほど優しくて。
震える手で差し出したハンカチを
彼は不思議そうに眺めて笑った。
その笑顔が、胸の奥を焼いた。
初恋であり、英雄であり、憧れのすべて。
だけどクロノスにはわかっていた。
あの日の任務はオリムにとって『日常』だ。
(覚えているわけがない)
自分の記憶も、想いも、
きっとあの人には特別ではない。
いつだって誰かを助けてきた人だから。
だからクロノスは口にしなかった。
初恋の話も、夜の森の話も、
あの震える手で渡したハンカチのことも。
ただ心の奥にしまい、
ただ一途に、ただ静かに、
あの日の気持ちの延長線でオリムを愛し続けた。
気づいてほしいとも思わなかった。
彼が覚えていないことさえ、
愛おしかったからだ。
●オリムの記憶
オリムにも忘れられない光景がある。
10歳の時の話だ。
自分は『消耗する道具だ』と思い込んでいた時期。
自分とは命の価値が違う貴族の子どもが
夜の森で行方不明になったと呼び出され、
当直だったオリムが向かった。
黒髪と金髪の、
おとぎ話のように綺麗な子どもたち。
返り血で汚れた自分を見て、
黒髪の子は震える手でハンカチを差し出した。
「大丈夫?」
どうして自分が心配されているのか、
本気でわからなかった。
だけれどそのまっすぐな瞳に、
胸が撃ち抜かれた。
それが、オリムの初恋だった。
名前も知らず、
身分も違い、
二度と会えないのはわかってた。
だけどそれ以来、オリムの生き方を支え続けた優しい灯。
いまの恋人の前で過去の恋を語るなんて、
誠実じゃないからオリムはしない。
だからオリムは、
クロノスとの婚約をきっかけに
そのハンカチを魔法で消した。
(もう振り返らない。
オレにはクロノスがいる。
この人だけを好きでいればいい)
そう信じて、
自分の初恋を、静かに葬った。
●すれ違う運命
オリムは知らない。
初恋の相手が、いま隣にいる男だとは。
クロノスも知らない。
オリムの初恋を消したのが『自分との未来のため』だとは。
互いの心には、十年以上前からずっと同じ相手だけがいるのに、
ふたりは生涯気づかない。
それでも同じ相手に恋をする。
何度でも。
すれ違ったまま、無自覚のまま。
●クロノスの記憶
クロノスには忘れられない光景がある。
夜の森で、死を覚悟した幼い自分の前に
一筋の炎の道が走った。
焦げた匂い。倒れる魔物。
そこに立っていたのは、同い年の少年オリム。
圧倒的な強さと返り血に染まった細い身体で、
自分に向けて微笑んだ。
「もう、大丈夫だよ」
その声は、不思議なほど優しくて。
震える手で差し出したハンカチを
彼は不思議そうに眺めて笑った。
その笑顔が、胸の奥を焼いた。
初恋であり、英雄であり、憧れのすべて。
だけどクロノスにはわかっていた。
あの日の任務はオリムにとって『日常』だ。
(覚えているわけがない)
自分の記憶も、想いも、
きっとあの人には特別ではない。
いつだって誰かを助けてきた人だから。
だからクロノスは口にしなかった。
初恋の話も、夜の森の話も、
あの震える手で渡したハンカチのことも。
ただ心の奥にしまい、
ただ一途に、ただ静かに、
あの日の気持ちの延長線でオリムを愛し続けた。
気づいてほしいとも思わなかった。
彼が覚えていないことさえ、
愛おしかったからだ。
●オリムの記憶
オリムにも忘れられない光景がある。
10歳の時の話だ。
自分は『消耗する道具だ』と思い込んでいた時期。
自分とは命の価値が違う貴族の子どもが
夜の森で行方不明になったと呼び出され、
当直だったオリムが向かった。
黒髪と金髪の、
おとぎ話のように綺麗な子どもたち。
返り血で汚れた自分を見て、
黒髪の子は震える手でハンカチを差し出した。
「大丈夫?」
どうして自分が心配されているのか、
本気でわからなかった。
だけれどそのまっすぐな瞳に、
胸が撃ち抜かれた。
それが、オリムの初恋だった。
名前も知らず、
身分も違い、
二度と会えないのはわかってた。
だけどそれ以来、オリムの生き方を支え続けた優しい灯。
いまの恋人の前で過去の恋を語るなんて、
誠実じゃないからオリムはしない。
だからオリムは、
クロノスとの婚約をきっかけに
そのハンカチを魔法で消した。
(もう振り返らない。
オレにはクロノスがいる。
この人だけを好きでいればいい)
そう信じて、
自分の初恋を、静かに葬った。
●すれ違う運命
オリムは知らない。
初恋の相手が、いま隣にいる男だとは。
クロノスも知らない。
オリムの初恋を消したのが『自分との未来のため』だとは。
互いの心には、十年以上前からずっと同じ相手だけがいるのに、
ふたりは生涯気づかない。
それでも同じ相手に恋をする。
何度でも。
すれ違ったまま、無自覚のまま。
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