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第二部。あれから一年後。オリム、さらわれる
●おまけ⑨「そのままでいいんだ」
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●おまけ⑨「そのままでいいんだ」(ヴァイオレット、車椅子の青年)
車椅子の青年視点
その日、オレは少しだけ寝不足だった。
たまたま知りあった親切なお兄さんが、王宮見学に招いてくれたからだ。
もしかしたら、魔術師長オリム様に会えるかもしれない。
そう思ったら、前の夜からわくわくして眠れなくて、
朝から胸がずっとドキドキしていた。
だけど、待ち合わせ場所に、お兄さんはいなかった。
「来てないな」
少しだけ胸がざわつく。
あの人、約束は守るタイプなのに。
お兄さんが伝えてくれてたみたいで、門の内側には入れてもらえた。
勝手に1人でまわれってことかもしれない。
だけどオレは、王宮の通路の影や裏庭を探してまわった。
そして、誰も通らなそうな古い回廊の奥で、見覚えのある蜂蜜色の髪を見つけた。
お兄さんが、長い足を投げ出して壁にもたれている。
これまでお兄さんとは、何度か偶然出会って、
少し話をするくらいの仲なんだけど、
今日のお兄さんは、妙に静かだ。
「お兄さん?」
近づくと、彼はビクッと肩を揺らした。
「…なんでお前がここにいんだよ」
とげのある声。
でも、目が弱ってる。
オレはそっと笑った。
「だって…待ち合わせ、ここじゃないだろ?」
「…悪ぃ。行く気なくした」
「どうして?」
「…うるせぇな。見んなよ」
言葉は乱暴なのに、声は揺れてる。
だから、オレは車椅子を彼の隣に止めて言った。
「…今日、リィさんに会ったんだ?」
途端にお兄さんの肩が大きく跳ねた。
図星だ。
「…会ったっていうか、久々に二人きりになった。…相変わらず可愛いんだよな」
言ったあと、彼は顔をゆがめた。
「…最低だ、オレ」
その声が、とても小さかった。
「どうして最低なんだよ?」
問い返すと、彼は苛立つように髪をかきあげる。
金色の絹糸みたいな髪がさらさらと揺れた。
「だって…あいつはクロノスのだし。オレなんかが、可愛い、なんて思っていい存在じゃねぇんだよ」
『オレなんか』
その言葉が胸に刺さる。
「…なんで、自分だけそんなに下げるんだよ」
「下げてねぇよ」
「下げてるよ。
リィさんの前だと、すごく小さくなる」
「…は?」
否定したい顔なのに、否定しきれてない。
オレは続けた。
「お兄さんは、顔も、力も、立場もあって…
オレから見れば、ほんとすごい人だよ」
「…」
「でも、リィさんの話をしてるとき
“自分で自分を殴ってるみたいな顔”になる」
お兄さんの喉が、ごくりと動いた。
「…なんで、そんなことわかるんだよ」
「なんとなく」
オレが笑うと、彼は目をそらして、元気なく言う。
「なんとなく。かよ…」
「お兄さん、すごく素敵だよ」
「…は!?」
「好きな人の前で弱くなるのって、普通だし。
強いままでいられるほうがおかしいだろ?」
「…」
「弱くなるって、それだけ本気で好きだったってことだと思う。
本気で好きになれるってことは、素敵なことだ」
ほんの少し、お兄さんの目が赤くなる。
だからオレは、優しく言った。
「弱いお兄さんも、ちゃんとお兄さんだよ。
そのままでいいんだ」
風が、王宮の回廊をすり抜ける。
「…おまえ、キザすぎだろ。
そういうの、簡単に言うなよ」
「父さんの受け売りなんだ。
でも、オレも本気で思ってる。お兄さんはそのままでいい」
オレは付け足した。
「それにさっき、泣きそうな顔してたから」
「っ。…してねぇよ」
「してたよ」
「してねぇって言ってんだろ!」
耳まで真っ赤だ。
本当に不器用な人。
オレがにこっと笑うと、
彼はそっぽを向いたまま、すごく小さくつぶやいた。
「……ありがとな」
「ちゃんと聞こえてるよ」
途端に、彼の耳はさらに赤くなった。
オレは軽く車椅子を動かして言った。
「折角だから。オレ、城の庭回ってくるかな」
その瞬間、影が横についた。
「…お兄さん?」
「危なっかしいんだよ」
そっぽを向きながら言うお兄さんに
オレは笑って、そっと言った。
「ありがとう」
優しくて、不器用な人。
返事はなくて、でもその耳は、さっきよりもっと赤かった。
車椅子の青年視点
その日、オレは少しだけ寝不足だった。
たまたま知りあった親切なお兄さんが、王宮見学に招いてくれたからだ。
もしかしたら、魔術師長オリム様に会えるかもしれない。
そう思ったら、前の夜からわくわくして眠れなくて、
朝から胸がずっとドキドキしていた。
だけど、待ち合わせ場所に、お兄さんはいなかった。
「来てないな」
少しだけ胸がざわつく。
あの人、約束は守るタイプなのに。
お兄さんが伝えてくれてたみたいで、門の内側には入れてもらえた。
勝手に1人でまわれってことかもしれない。
だけどオレは、王宮の通路の影や裏庭を探してまわった。
そして、誰も通らなそうな古い回廊の奥で、見覚えのある蜂蜜色の髪を見つけた。
お兄さんが、長い足を投げ出して壁にもたれている。
これまでお兄さんとは、何度か偶然出会って、
少し話をするくらいの仲なんだけど、
今日のお兄さんは、妙に静かだ。
「お兄さん?」
近づくと、彼はビクッと肩を揺らした。
「…なんでお前がここにいんだよ」
とげのある声。
でも、目が弱ってる。
オレはそっと笑った。
「だって…待ち合わせ、ここじゃないだろ?」
「…悪ぃ。行く気なくした」
「どうして?」
「…うるせぇな。見んなよ」
言葉は乱暴なのに、声は揺れてる。
だから、オレは車椅子を彼の隣に止めて言った。
「…今日、リィさんに会ったんだ?」
途端にお兄さんの肩が大きく跳ねた。
図星だ。
「…会ったっていうか、久々に二人きりになった。…相変わらず可愛いんだよな」
言ったあと、彼は顔をゆがめた。
「…最低だ、オレ」
その声が、とても小さかった。
「どうして最低なんだよ?」
問い返すと、彼は苛立つように髪をかきあげる。
金色の絹糸みたいな髪がさらさらと揺れた。
「だって…あいつはクロノスのだし。オレなんかが、可愛い、なんて思っていい存在じゃねぇんだよ」
『オレなんか』
その言葉が胸に刺さる。
「…なんで、自分だけそんなに下げるんだよ」
「下げてねぇよ」
「下げてるよ。
リィさんの前だと、すごく小さくなる」
「…は?」
否定したい顔なのに、否定しきれてない。
オレは続けた。
「お兄さんは、顔も、力も、立場もあって…
オレから見れば、ほんとすごい人だよ」
「…」
「でも、リィさんの話をしてるとき
“自分で自分を殴ってるみたいな顔”になる」
お兄さんの喉が、ごくりと動いた。
「…なんで、そんなことわかるんだよ」
「なんとなく」
オレが笑うと、彼は目をそらして、元気なく言う。
「なんとなく。かよ…」
「お兄さん、すごく素敵だよ」
「…は!?」
「好きな人の前で弱くなるのって、普通だし。
強いままでいられるほうがおかしいだろ?」
「…」
「弱くなるって、それだけ本気で好きだったってことだと思う。
本気で好きになれるってことは、素敵なことだ」
ほんの少し、お兄さんの目が赤くなる。
だからオレは、優しく言った。
「弱いお兄さんも、ちゃんとお兄さんだよ。
そのままでいいんだ」
風が、王宮の回廊をすり抜ける。
「…おまえ、キザすぎだろ。
そういうの、簡単に言うなよ」
「父さんの受け売りなんだ。
でも、オレも本気で思ってる。お兄さんはそのままでいい」
オレは付け足した。
「それにさっき、泣きそうな顔してたから」
「っ。…してねぇよ」
「してたよ」
「してねぇって言ってんだろ!」
耳まで真っ赤だ。
本当に不器用な人。
オレがにこっと笑うと、
彼はそっぽを向いたまま、すごく小さくつぶやいた。
「……ありがとな」
「ちゃんと聞こえてるよ」
途端に、彼の耳はさらに赤くなった。
オレは軽く車椅子を動かして言った。
「折角だから。オレ、城の庭回ってくるかな」
その瞬間、影が横についた。
「…お兄さん?」
「危なっかしいんだよ」
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オレは笑って、そっと言った。
「ありがとう」
優しくて、不器用な人。
返事はなくて、でもその耳は、さっきよりもっと赤かった。
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