【完結】悪役だった令嬢の美味しい日記

蕪 リタ

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第二章

8.ビバ!青春!

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 夏の花祭りである成願祭せいがんさいが終わると共に急激に気温が上昇し、外の日差しでより一層背中に流れる汗が増える午後。夏季休暇に入り、領地へ帰る準備をしていたところに――彼女はやってきた。


「レティ! 準備できたよー!」


 バンッと開いた扉から、勢いよく私にダイブしてきたアリス。抱きとめたけど、首に体重がかかっているせいか、おっ重たい。これでも西公爵家わがやだからマシな方。


「アーリースーさーん。重たい! 苦しい!! 首、キツイ!!」
「あ、ごめん」


 パッと離してくれたけど、「やっちゃった! てへ」って顔しないで! めっちゃ可愛いけど! そのまま抱きしめるな!? 後ろのニナもスルーしないで!! ニナも最近アリスの扱いに慣れてきたわね・・・・・・。


「あれ? 彼女も行くのかい?」


 そう。この部屋には、もう一人いるんです! 無視しちゃいけない人が!! というか、この人の所為せいで私の準備は中断してるんだけど・・・・・・。何故いるかって? 臣籍降下後の勉強のために、毎週末西公爵家わがやに来ては公爵家の執務を始めてるんですよ、この人。早くない?

 この人が西公爵家わがやで執務を始めるためだけ・・・・に、私の妃教育は急ピッチに進められ、学院入学前に修了した。殿下が臣籍降下予定なので、妃教育自体が少なかったのもあるかもしれないけど――何故、巻き込まれた? 私が西公爵家いえに居なくてもできるじゃないの? まあ、早く終わって良かったと言えば、良かった・・・・・・のかな。その分、料理できるし。

 殿下を認識した瞬間に「げ!?」っと口かられたアリスは、ロボットのようにぎこちない動きで振り返った。可愛いし、面白いっていいなぁ。抱きついたままだけど。


「あわっ、はわわわ!?」
「アリス、言葉になってないよ」
「ななななんで、いっいらっしゃるんですかあぁぁー!?」
「居たら、まずいことでもあるのかい?」


 おっと、黒いオーラが見えるのは気のせいかな!? いつも思うけど、ゲームなら攻略対象なのにヒロインアリスと本当に仲良くは無いよね。悪いわけでもなさそうだけど・・・・・・。


「いーえ。いて言えば、レティシア様とのイチャイチャする時間が減るくらいです!!」
「それは――お互い様じゃないかな?」


 本当に、この人たち何やってんだろう・・・・・・。アリスの態度も不敬罪になると思うのに、殿下も殿下でその態度を遊んでる感があるんだよね。仲良いんだか、悪いんだか。

 いい笑顔なのに黒い二人は、バチバチと火花が散っているように見えるのは――気のせいということにしておく。放っておけばずっとこのままなのもいつも通りなので、先ほど出来上がった琥珀糖をお茶と一緒にニナに出してもらった。今日の琥珀糖はアールグレイを煮詰めた物なので、水を入れずにミルクで煮出したミルクティーを頼んだ。口に含んだアールグレイの琥珀糖が、ミルクティーと合わさって濃厚なミルクの甘さが引き立つし、後味が柑橘系紅茶であるアールグレイのおかげで爽やかでサラッとしてる。あ、暑くなってはきてるけど、まだまだ風が冷たいからホットミルクティーだよ!

 琥珀糖が出てくるや否や、アリスの目は輝くほどにキラキラに変わって、周りに花でも咲かんばかりの可愛らしい笑顔で私の横にサッと座った。


「やったぁー! レティシア様の琥珀糖!」
「そういえば、キラキラして綺麗なお茶菓子ではあるけど・・・・・・もとは何だい?」
「これは、水と砂糖に寒天を使っています。寒天は西公爵領わがや特産のテン菜テングサと呼ばれる海藻かいそうを凍結や分解等の工程を経て抽出された成分を乾燥させ、食品等に使えるようにしております」
「なるほど。先程見ていた資料にあった海藻類か――面白そうだから、一度加工場を覗いてみるよ。その時はレティ、案内をお願いね」
「・・・・・・えぇ、勿論です」
「今の『間』は何かな?」
「いえ!何でもありません! 是非とも、ご一緒させてください!」
「フフッ。いや、無理にとは言わないよ? レティのことだから、料理の時間が無くなるとはじいたんだろう」
「うっ・・・・・・そ、うですけど」
「地図にあった通りなら、確か加工場の近くに市場があったんじゃないかい? 時間があるなら、視察の後に市場で何か料理に使える物を探すのはどうだろう?」
「!? ・・・・・・行きたいです」
「じゃあ、案内よろしくね」
「ちょっと!! 難しい話してると思ったら――何、デートの算段さんだんつけてるんですか!? 二人っきりの時に誘ってください!!」
嗚呼ああ、まだ居たのか」
「居ますよ!? むしろ、レティシア様独り占めしますよ!!」


 遊んでる殿下ひとと遊ばれてるアリスひとたちは放っておいて、ミルクティーに手をつける。暑くなってきているからか熱々では無く、かと言って冷たすぎるほどぬるくも無く、程よく冷めたミルクティーは、クリーミーなミルクの甘さが際立つ。その余韻に浸りながら琥珀糖を口に運ぶと、優しい甘さの中からアールグレイ特有のベルガモットの爽やかな香りが鼻からフワッと抜けていく。美味しいわ――自画自賛だけど。

 私の行動もいつも通りなので、ニナが何も言わずに空いたカップにおかわりを淹れてくれる。二人とも良くもまあそんなに沢山、色々言いたいことが出てくるのね・・・・・・凄いわ。

 お代わりに手をつけ始めようとした時、ふと先週の花祭りのことを思い出した。確か、アリスって誘ってたよね。


「デートといえば、ベルナール様とのデートはどうしたの?」
「それがね! ベルナール様がね!」
嗚呼ああ、最近はベルナールに付きまとってるのか」
「付き纏ってません!」
「じゃあ、何かな?」
「猛アタックしてるところです!!」
「・・・・・・世間では、それを付き纏ってると言わないかい?」
「殿下にご迷惑をかけている訳ではないので、いいじゃないですか!」
「まあ、そうだな。おかげで、愛しの婚約者殿との時間を邪魔されないし」
「な!? 私がベルナール様に会いにいってる間に、レティシア様に手出ししてませんよね!?」
「・・・・・・それは、どうかな?」


 遊ばれてるわ、アリス。大丈夫よ、アリスが思ってる展開にはなってないから。

 結局二人のじゃれ合いが再開したので、夏季休暇中にアリスをつつけばいいかと二人そっちのけで再びミルクティーに手をつけた。


 じゃれ疲れた二人と明日の出発時間を確認をし、それぞれの帰宅を見送ってから部屋に戻る。夕食までまだ時間があるので、二人に邪魔されてできなかった細々こまごました物の荷造りをする。大きい物は大概たいがい領地に置いてあるし、ニナが既にし終えてるのよね。いつまでも前世の感覚が抜けない私にとっては、一人でしなくていいからありがたいわ。



 当初の予想に反して、乙女ゲーム的展開はなかった。お腹黒目な婚約者さんをゲットし――いや、ゲットされちゃった?のかな・・・・・・。ゲームヒロインは、まさかの従姉いとこ。クロエやアメリーという素敵なお姉さま方に可愛がっていただいて、何故か実習後からやたらと騎士科生達や飯盒はんごう先生に追い回され――懐かれたのかな。思いの外、楽しく学生生活が送れてると思う。青春って感じ? 中身は、永遠のアラサーだけど。最近は、レティシアの実年齢に引っ張られているかな。

 せっかくなので、このまま乙女ゲームは忘れたまま、アリスたちと目一杯めいっぱい学生生活満喫するわ!! カモン!夏休暇!! ビバ!青春! 明日からの領地生活楽しみだわ!




 この時、沈み始めた日差しに向かって拳を突き上げている姿を、小休憩用のお茶を淹れにきたニナに見られていたのを知らなかった。ニナは「また始まったか」とでも言いたげな顔のまま素早く茶器をセットし、静かに部屋を出ていった。私がそれに気づいたのは、お茶がすっかり冷めた頃。せっかく温活目的で温かいお茶淹れてもらってたのに! じょ、常温ならまだいいか?
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