【完結】悪役だった令嬢の美味しい日記

蕪 リタ

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第二章

7.試験と初恋はエビマヨ味

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 今日はついに前期試験の日! なんだけど、朝から厨房に立つ私。はい! エビマヨ作ってまーす!

 普段授業を聞いてて、しっかりと復習さえしていれば、今回の前期試験の範囲的には短いので大丈夫! まぁ、座学もすでに領地の討伐に出てる私にとっては、知ってる内容しかないのでほぼ勉強いらず。ありがとう、無理矢理・・・・討伐に連行して行った過去の父よ。よく頑張ったよ、過去の私。

 ということで、アリスとお約束のエビマヨを作ってる最中。多分、試験終わったら涼香・・の性格上、即行動に移すはずなので、エビマヨ弁当にして応援しようと思います!

 アルバのエビは、魔物の『シュリング』だけ。英語の『シュリンプ』みたいだよね――多分英語から取ってると思うけど。大きさや色によって名前がちがうシュリングの、今日使うのは『レッドシュリング』。地球のブラックタイガーと同じくらいの大きさで、真っ赤な体に左だけ体と同じくらい大きなはさみを持つのが特徴。味はちょっと高級なエビさんかな? 伊勢海老みたいな、味がしっかりしてる感じ。

 今やってるのは、そのシュリングのからいて、背ワタを取る作業。勿論もちろん手でね? 魔法使ってわかったけど、こういった細かな作業だと手のほうが速く、材料も傷つかない。ただ、魔導具で泡立て器があるように、混ぜるときや火を強火にしたり、水を追加で入れる時などは魔法のほうが便利だった。だから、適宜てきぎ使い分けするようにした。繊細な魔法が使えるマリオン先生ですら、細かな作業に魔法は使えなかったしね。魔法の使い道にも、向き不向きがある事がわかった実験だったな・・・・・・。

 おっと、全部剥き終わったわ。左の鋏は、次回エビしんじょを作る時にでも使うとして――地球のエビよりぬめりがひどいから、魔法でチャチャッと流して、あったんだよ! 清酒! 来た人・・・が作ったんだろうなぁ。

 脱線したわ。シュリングいっぱいあるから、大きめのスプーン一杯の清酒と擦ったショウの根しょうがを臭み取りに入れ、塩コショウで下味をつけてからこっちの片栗粉の『イモ』(初めて聞いた時、一人で笑っちゃった)を満遍まんべんなくつける。少し多めにひいたごま油が入ったフライパンに並べていき、揚げ焼きにしていく。焼きあがったシュリングの余分な油を軽く取ってからボウルに入れ、多めのマヨネーズに少しチャップリンケチャップ(もう本当に誰がつけたの!?)を入れてえると『アルバ風莉香れいかのエビマヨ』が完成! マヨソースの酸味とトマチトマトの甘みからのぞく、カリッカリの中にあるプリッとしたシュリングの食感がたまんないんだよ! 自画自賛!いいよ、美味しいから! ということで、味見もオッケー!

 このエビマヨと、殿下お気に入りの甘い玉子焼き、緑サイサイほうれん草のおひたしに塩おむすびを、森を守る南公爵領特産のげわっぱに入れて・・・・・・エビマヨ弁当完成! 勿論、玉子焼きにうるさい・・・・殿下の分もある。いつも別行動でも、作ったと知れただけで怖いからね・・・・・・。

 空間収納に入れて、試験を受けに学院へ行く準備をする。時間経過ないのって便利よね。ご飯なんて出来立てで保存できるから、温め直さなくても美味しいし。

 準備ができたところに――あぁ、やっぱり来たんですね。迎えに来てくれた殿下にお弁当を渡し、一緒に学院まで馬車に揺られた。



 今日の前期試験は、座学の筆記試験のみ。実技は後期試験に入るから、冬季休みの前になる。年明けは三年次の卒業試験のみのため、のんびりお料理しながら授業の日だけ勉強しに行く感じだ。

 試験用の割り当てられた座学の教室に入ると、沈んだ空気が窓際から漂っていた。大丈夫かな・・・・・・。


「おはようアリス」


 声につられて顔を上げたアリスは・・・・・・浮かない顔ね。大丈夫じゃないみたい。


「おぉおはっおはようございます! レティシアさま~。助けてください!!」

 泣きながら凄い勢いで引っ付かれた。あぶな! バランス崩すところだったわ。それにしても、涼ちゃんって私より・・・勉強出来たのに、アリスはできないのかな?

 よっぽど不思議そうな顔をしてたのか、アリスは泣きながら怒る器用なことをしてきた。


「もう! こっち・・・の勉強とあっち・・・の勉強はちがうんだから! 全然わかんないよ~・・・・・・追試なんて受けたくないぃぃ!」


 あぁ、確かに今日の試験は地球あっちにない『魔法』関連の座学ばかりだったなと思い出し、もう一つ思い出したことをアリスに小声で伝えた。


「今日がんばって、ベルナール様に声かけるんでしょ? エビマヨ弁当作ってきたから、今出来ることをがんばりなさい」
「――!! がんばる!がんばれるわ!! やってみせます!!」


 機嫌が良くなったアリスは、そそくさと勉強会でクロエに作ってもらったノートを取り出して、必死の形相ぎょうそうで試験までの時間を暗記にあてた。がんばって・・・・・・。






 無事試験が終わり、今はベルナールを見かけたという古本屋のほぼ真向かいにある、アリスの家が経営するアメリス商会の二階に併設されたカフェにいる。さっきまで魂が抜けきったような顔をしていたアリスは、エビマヨ弁当をご機嫌に頬張ほおばっている最中だ。魂抜けてたから、先に上げることにしたの。そうでもしないと、大事なメインディッシュまでありつけなさそうだったからね。

 私はエビマヨ弁当よりもカフェのメニューが気になってしまい、メニューからデザートを数品頼み、あると思ってなかったコーヒーを頂きながら待っていた――ケーキが来るのと、窓から見えるところに来るだろうメインディッシュを。


 前回、アリス達が目撃した時間は、お昼より前だったらしい。今は試験もあって、お昼を少し過ぎたあたり。アリスが見張らせていた商会の人の話では、今日はまだ来ていないらしい。何させてんのよ・・・・・・。

 もしかしたら、今日はもう来ないかもしれない。そんな事を思いながら、来たケーキに舌鼓したつづみをうつ。来なくても、私はケーキが食べれて満足だし、「まぁいいかなぁ」なんて思ってる。ごめんね、現金なんだ私。日が長くなってきたから、柑橘系はさっぱりしてて美味しいわ。

 向かいのアリスはエビマヨ弁当をいつの間にか完食してて、知らない間に頼んでたカフェのケーキに手をつけていた。あ、それ! チョコの中からジャムソースが出てきてるじゃん!! 美味しそう!!次、それ頼む!

 別のメニューにも良いのないかなぁってメニューに手を伸ばして・・・・・・止まった。固まってる私に気がついたアリスは、私の目線の先を見ると、ガタンッと勢いよく立ち上がった。ここ、二階でよかったね。下の階だと絶対バレてたよ・・・・・・。

 そう、なんで二階かと言うと、アリスが「心の準備が!!」って必死だったから。心の準備どころか、お腹の準備が万端だったわ。


「あっわあわわ、わわたし! 行ってくる!!」
「え!? ちょっと作戦・・・・・・」


 アリスは何も考えずに、走って階段を降りてった。大丈夫かなぁ。あ、本屋に入っていったわ。

 仕方がないので、別のデザートを頼んで待つことにした。あ、さっきアリスが食べてたやつにしようかな。



 追加で頼んだケーキを二つ食べ終えて、次は何にするかメニューを見ながらコーヒーを飲んでいると、猛スピードで階段を駆け上がってきたアリスが目に入った。思いのほか、早かったな・・・・・・っていうか、よくそのスピードで誰にもぶつからなかったわね。

 勢いついたままなのに座る時は全く音がしなかったアリスに驚きつつ、メニューを片付けてもらいながらカップを置いた。どうなったんだろう?

 座ってからずっとうつむいてるアリス。やっぱりダメだったかなぁ、なんて思いながらも待つ。


 五分くらい待ったかな? コーヒーの湯気がすっかり立たなくなった頃、ようやくアリスが顔を上げた――キラッキラの目で。え?


「貰えた! 貰えたよ!! 連絡先!」


 興奮気味に話すアリスにさっき頼んでおいたアイスティーをすすめ、一口飲んでのほほんと落ち着いた顔する彼女に説明してもらう。


「落ち着いた?」
「・・・・・・うん。ごめん」
「ふふ。謝らなくていいから、その嬉しそうに緩む顔の話、聞かせて?」
「うん! えっとね・・・・・・」


 アリスの話を聞くと、なんと!直球ストレートを投げてきたらしい。「初めてお見かけした時に、格好良いと見惚れてしまいました! ぜひ!! ぜひとも、お友達になってください!」と。彼女にしてくださいではないところが、アリスの本気が見えるわ・・・・・・。

 ベルナールの方も、御令嬢にここまで直球で迫られたことがなかったようで、面白い子だなぁと笑いながら友達になって手紙をやりとりするのを了承したらしい。面白いのはいいんだ・・・・・・。

 そのあと、いかにベルナールが真摯しんしに話してくれたとか、眼鏡を上げる仕草がグッときたとかを陽が傾くまで聞かされた。今世の友達に春が来たんだから、最後まで素直に聞いたけどね。




 帰り際に渡した私が手をつけていなかったエビマヨ弁当 涼香の好物は、アリスになってから初めての恋の味になったと後から聞かされたわ。
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