殺したいほど憎いのに、好きになりそう

味噌村 幸太郎

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第一章 転生

初恋の人

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 俺の幼馴染と名乗る、小さな女の子。
 桃川 優子ちゃんと一緒に中学校へ登校することになった。
 カバンを手に持って、リビングにいるお母さんへ「いってきます」と挨拶をすると……。

「あ、藍。待ちなさい!」と呼び止められた。

 何だろうと振り返ったら、お母さんの手にはラップで包まれた食パンがあった。

「あんた、朝食も食べてないでしょ? 目玉焼きとレタスでサンドしたから、歩きながら食べなさい」
「う、うん……ありがとう、お母さん」

 なんだか、不思議な気分だ。
 前世ではちょうどこの時代、家に引きこもっていて、”お母さん”と呼ぶこの人に玄関から手を振っていたのに。
 この世界では、立場が逆になっている。

 お母さんからサンドイッチを受け取ると、俺は初めて1995年の福岡を目にする。
 なんて眩しい朝日だ。
 我が家の前にはJRの線路があり、学校へ向かうには遠回りして、踏み切りを通らないと行けない。
 線路沿いを優子ちゃんと並んで歩いてみる。

 お母さんが作ったサンドイッチをパクパクと食べていると、隣りにいた優子ちゃんが苦笑いしていた。

「あの……藍ちゃん。この数日で本当に人が変わったみたいだね」

 顔が引きつっている。
 なんだ? そんなに以前の藍という女の子は、俺と対照的なのか。

「ゴフッ……ど、どういうこと?」
「だってさ、藍ちゃんて……こんな言い方したら悪いけど。病弱で食も細かったし、小学校の頃はいつも食べるのが遅いからって、先生に居残りされてたじゃん」
「え? マジ?」
「うん」

 ダメだ、この水巻 藍という人物が見えてこない。
 というか、それじゃ転生というより、俺というおっさんが女の子に憑依したのでは?

 
 しばらく隣りを歩く、優子ちゃんを見てずっと思っていた。
 どこかで見たことがある……そうだ! ”あゆみ”ちゃんの友達じゃないか!?
 俺の初恋の人、”鞍手くらて あゆみ”だ。
 
 前世で、小学校から学校へ行けなくなった俺は、中学校へ一度も通学することは無く、卒業してしまった。
 もともと友達がいなかったから、プリントなんて届ける人もおらず。
 担任の教師さえ俺に冷たくて、たまに家へ来ても説教されるだけ。
 そんな中、唯一優しくしてくれたのが、同じクラスメイトの女の子。鞍手 あゆみ。

 小学校の時から、俺が一方的に想いを寄せていただけなのに。
 学校を休むようになってから、毎日のように我が家へ顔を出してくれた。
 今日起きた出来事や学校のスケジュールなど、プリントも積極的に持って来てくれた。

 引きこもりの俺は床屋に行けないから、髪が汚く伸びていても、嫌な顔を一つも見せず、笑ってくれる。
 その際、いつも隣りに地味な女の子が立っていた。
 確かその子の名前が、桃川 優子だったはず……。

 ということは、俺の憧れである鞍手 あゆみがこの世界にも存在しているのかも?
 気になったので、隣りを歩く優子ちゃんに聞いてみることにした。

「あ、あのさ……優子ちゃんって、鞍手 あゆみていう女の子知っている?」

 その名前を発した途端、彼女の顔が真っ青になってしまう。

「え……? 鞍手さんがどうしたの?」
「その、もし知っていたら、仲良くなりたいなって……」
「やめておいた方が良いと思うよ」

 優子ちゃんの言葉に俺は耳を疑った。

「は? どうして?」
「鞍手さんも同じ小学校だったけど……あの子、勝気というか。人を近づかせないような空気というか……」
「どういうこと?」
「藍ちゃんだって、言ってたじゃん。苦手だって」
「俺……じゃなかった。私が?」
「うん、藍ちゃんはクラスでも控えめな性格だから、あんまり接点なかったけど。クラスで色んな女の子、泣かされたって聞くよ?」

 やはりこのパラレルワールドという世界。
 元の世界とは違って、人々の性格も逆転しているのだろうか?
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