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第二章『魔法少女を襲撃する者』
Act.02:不穏な噂②
しおりを挟む「今日も会えましたね」
「ん」
最近のホワイトリリーは何処かおかしい。
妙に距離が近いし、俺と会うといつも笑顔である。笑顔は良いんだけど、何なんだろうな? 俺何かしたかな? 心当たりはショッピングモールの時に助けたくらいなのだが。
「Sクラスの魔法少女が野良に会って良いの?」
「問題ありません。今の所、魔物は居ませんしね。リュネール・エトワールは何をしてるんですか?」
今は魔物が居ないのは確かだ。ホワイトリリーの方はそもそも何をしてるのかと問えば、見回りの強化中だそうだ。魔物の警戒は勿論、この前の魔法少女襲撃の事件もあったからみたいだ。
「ここって魔法少女が襲撃された場所ですよね」
「ん。ちょっと色々調べてた」
手がかりと言う手掛かりはないのが現状であるが……。
「やっぱりリュネール・エトワールも気になってるんですね」
「一応」
俺も元の姿はあれだが、一応魔法少女である。狙われる可能性は高いし、その短剣も謎が多い。力が抜けるって割と危ないよね。
「この前の事件以降、現在までに同様の事は発生してません」
「そういうの言って良いの?」
「はい。別に口外禁止って訳じゃないですし」
まあ、事件についてはニュースや新聞でも既に取り上げられてる所を見ると、箝口令とかを出してる訳でもなさそうだしな。
「因みに何件発生した?」
「えっと、5件程度ですね。どの子も同じ感じです。これはあくまでこの茨城地域の件数ですけどね」
この茨城地域以外にも、栃木地域や群馬地域、東京地域とかでも発生してるようだ。件数までは分からないが、複数件は起きていると見て良いかもな。
犯行手順は同じで、油断して近寄ってきた魔法少女に黒い短剣を刺す、と言う物。他の地域でも出てるとなると、犯人は一人じゃなさそうだなあ。
「他地域については分かりかねますけど……この地域だけで起きている訳では無さそうです」
「なるほど。……組織的な何か?」
「多分、ですけどね」
バックに魔法少女がいるとか、組織になっているとか、何だかちょっと話が大きくなってる気がする。どれも信憑性は低いが、現状分かってるだけだとこんな感じになる。
この地域だけで起きてたら起きてたらで、それも中々あれだなと思うけど。
「!」
そんな会話をしていると、急にサイレンが鳴り始める。これは……魔物だ。
「ラビ」
「ええ。分かってるわ。推定脅威度はBね」
リュネール・エトワールが被ってるとんがり帽子の中にラビは今待機してる。他の魔法少女に見られると面倒だし。
幸いとんがり帽子は大きいのでラビくらいのサイズならすっぽり収まる。
「私は行きますね。また!」
「ん」
サイレンを聞き、ホワイトリリーも素早くその場を去っていく。B程度ならホワイトリリーでどうにかなりそうだが、この前みたいな事が起きないとも限らないので、付いていくことにする。
勿論、問題なく倒せてるなら俺は手出しはしない。いつものように高く飛び上がって、こっそり? とホワイトリリーの後を付いていくのだった。
□□□□□□□□□□
「問題無さそう」
「そうね……流石はSクラスの魔法少女」
心配っていうのもあったが、ホワイトリリーは特に何事もなく魔物を捌いていた。今回出現した数は三体で、そのうち一体がBの魔物。
この前のカタツムリの魔物ではなく、狼のような姿をした魔物だった。普通の魔物よりは小さいが、素早いみたいだ。
「また?」
ホワイトリリーの戦ってる光景を見ていると、再び魔物が出現したという警報が鳴り響く。
「今度は脅威度Cね。行く?」
「うん」
ここから近いみたいなので、向かうことにする。ホワイトリリーは三体相手にしてるから向かえなさそうだしな。
狼型の魔物が出現した場所からこの身体能力で向かうこと三分程度。警報の原因である魔物を確認する。
「あれか」
「ええそうね」
見た所、魔法少女は駆け付けてない様子。という訳で、早速加速して魔物の目の前に近づく。
すると、あら不思議。進む方向をこちらに変更して来るではないか。これが魔法少女を攻撃するという魔物の特性。
正確にはその魔力に反応しているようだが……取り敢えず、放置はできないので相手になって貰おう。
「トゥインクルスターリボン!」
そこ、名前に笑わない。
ステッキから一つのリボンのようなものが飛び出す。先端には星のオブジェクトが付いており、それを先頭に魔物へと飛んでいく。
リボン部分は星と月の描かれた帯だ。何でこう、無駄に星と月の演出が多いのか……可愛いけどさ、俺男だよ?
飛んでいったリボンは目にも留まらぬ速さで魔物を拘束する。グルグル巻きって言えば良いのか? 魔物のグルグル巻きって誰得だ。
「それっ」
拘束を確認したら後はステッキを振りかざせば、たちまちリボンの締め付けは強くなり、最終的にリボンと同時に魔物は弾けた。星のエフェクト付きである。
「えっぐ」
「うわぁ……」
おい、ラビ引くなや。
別に俺は星を飛ばす魔法だけじゃないぞ。こういう魔法も使えるのだ。ただ、何かと星と月の主張が激しいのが欠点だろうか。
消滅した魔物の居た場所へ近づき、いつものように魔石を回収する。他の魔法少女の反応がこちらに近付いてきたようなので、そそくさに去る事とする。
「また貴女なんですね、リュネール・エトワール……」
「ん?」
魔物が出た場所から離れたはずなのだが、何か目の前に魔法少女が居るのだが? ブルーサファイアじゃん。
「ブルーサファイア……」
「また会いましたね。貴女の活躍は魔法省でも結構話題になってます。……魔物を倒してくれる事自体は人手不足なので有り難いんですけど、尚更野良でやってる理由が分かりません……」
それは俺の変身前の姿が27歳のおっさんだから……とは言えない。理由はこれ一つなのだが、こればっかりは絶対バレては駄目だ。社会的にも死にそうだ。
「ん。こっちにも事情はある」
「分かってます。義務がない以上、私達は貴女を連れて行くことは出来ませんが……一度で良いので、魔法省に来て貰えないでしょうか?」
「何故?」
「それは貴女に助けられた魔法少女たちがお礼を言いたいって言ってるからです。いつも何も言わずに行っちゃうそうじゃないですか」
……うん。
確かに魔法少女たちを何度か助けてるのは覚えている。助けたのは良いが、あまり会話はしないようにそそくさにその場を去ってる事も。
え? ホワイトリリーの時は喋ってたって? いやあれは、声をかけるべきだったし仕方がない。何にせよ、魔法少女との会話は最低限にしたいのだ。
無口設定とはいえ、ぼろが出ないという絶対的な確証はないのだから。
「別に。お礼はいらない」
「本当に一度だけでも良いんですが……とは言え、今回の所は引きます。……でも、感謝しているというのは本当です。なので、気が向いたらで良いので、お願いします」
ペコリと頭を下げるブルーサファイア。
そう言われてもな……いや本当にね、正体が俺である以上は魔法省にはあまり近付きたくないんだよ……。
「ん。気が向いたら」
「はいお願いします。それでは……」
とそれだけ言ってブルーサファイアは去っていくのだった。
「先回りされた」
「行動はお見通しって所かしらね。……でも、一度だけなら良いんじゃないの?」
「でも、わたしの正体はバレてはいけない」
「別に変身解除した状態で来てとは言われてないでしょ」
「ん。確かにそうだね」
変身状態でも良いという事ではあるんだろうが、それでもやはり不安が残る。もう少し考えさせて欲しい。
「まあ、私はリュネール・エトワールの意思を尊重するわよ」
「ありがとう、ラビ」
俺を魔法少女にしたのがラビで良かったと、改めて思う。まあ、そもそも他の魔法少女にラビみたいな存在が居るかはわからないが。
その後は特に警報は鳴らず、ラビレーダーにも引っかからなかったが、簡単に県北を見回りした所で、自宅へと帰るのだった。
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