完堕ち女子大生~愛と哀しみのナポリタン~

ミロ

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第五章 身勝手な人

【27】

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  店の扉に臨時休業の紙を貼りつけると、長門は昼時の都心のターミナル駅にすみれを連れ出した。
「二人でこうして歩くの、初めてだな」
 無言のままのすみれの右手をひょいっと握る。
「え……」
 駅は文嘉大の最寄りの一つで、利用する学生も多い。
 こんなところ、純平に見られたら……。
 すみれは気が気ではなかった。
「なんだ、誰かに見られたら困るか」
 ニヤニヤしながら、長門は喋り続けた。
「今日は早く帰らないとな。西巻先生も心配するだろ」
 迷路のような地下街を後にすると、有名ブランドのビルや百貨店が立ち並ぶ繁華街に出る。いかつい見た目の中年男と長身美女の組み合わせは人目を引くようだ。手を握って歩く二人を振り返って見る視線がすみれには痛かった。

 そうして二十分ほど歩いただろうか。お濠端を臨む大通りから中に入った一角、風俗店が入る雑居ビルが軒を連ねたところで長門の歩みが止まった。
 店のショーウィンドウには、カラフルな衣装が満開の花のようにディスプレイされている。
「ここは……」
 不安そうな目を向けるすみれの背中に手を回すと、「大丈夫、怖い店じゃないから」と押した。

 そこは、キャバ嬢御用達のキャバドレス専門店だった。
「キャバ嬢に入れ込んでた時期があってな。その時、散々貢がされたんだよ。まあ昔の話だ」
 ズラッと吊るされた原色の派手な衣装に加え、アクセサリーに靴やバッグ、下着までありとあらゆるものが揃っている。ひと目でそれと分かるキャバ嬢が連れ立ってドレスを物色していた。店内を物珍しそうに眺めているすみれをよそに、長門は店員と談笑しながらアイテムを次々にピックアップしていく。

「あの……私、明日からキャバ嬢みたいな格好でバイトするんですか」
 すみれは目を伏せて尋ねた。
「ははは。そんなわけないだろ」
 長門は爆笑しながら、一着のドレスを差し出す。
「初めてのデートなんだから、ドレスアップしないとな。もう会計は済んでるから。下着はこれだ」
 一緒に渡されたのは、サイドが二本の紐になっている黒のTバックとガーターベルト、細かい網タイツだ。
「ブラは……ないんですか?」
「無理に付けなくてもいいんだろ。かえってセクシーだよ。明日からしないでよ」
 芝居がかった口調で命じると、長門は笑いながら続けた。
「昔な、親に隠れてテレビで見た深夜映画で、年上の家政婦に恋したマセガキが、弱みを握って命令するってシーンがあったんだ。ブラジャーはしないでって。子供ながらにひどく興奮したよ。それが忘れられなくてな、一度あの時のセリフを言ってみたかったんだ」
 まだ不安そうな試着室にすみれを押し込むと、楽しそうに同じセリフをもう一度繰り返した。
「無理に付けなくてもいいんだろ。かえってセクシーだよ」

(こんな下着、どうやって付ければいいの)
 全身を映す鏡の前ですみれはガーターベルトを手にため息をついた。
 スマホで調べると、先にベルトをするらしい。右手を後ろに回し、ファスナーに手をかける。ウグイス色のスカートが床に落ちると、ストッキングごとパンティを丸め取った。
(そうか、先にパンティを穿いちゃうと、トイレで困るのね)
 スマホをいじりながら、妙なところでなるほど、と頷くと、ベストを付けストッキングを金具で止めていく。最後にTバックに脚を通して、鏡に目を向けた。
 網タイツが艶めかしい。自分で見ても、妖しい淫力を感じる。
(まるで娼婦みたいじゃないか)
 長門の声が聞こえるような気がした。

 試着室のドアが開くと、長門は「ほう……」と感嘆の声を漏らした。
 着物のように前で打ち合わせるラップドレスは、黒地にオフホワイトのピンストライプ柄が大人っぽい。袖の部分がシースルーになっているので妖艶な雰囲気も漂っていた。ノーブラが落ち着かないのか、すみれは恥ずかしそうに床を見つめている。
「店に出たら、すぐにでもナンバーワンになれるぞ。ほら、顔を上げてごらん」
 今にもキスしそうな勢いで長門は両手を頬にやった。
「綺麗だよ、すみれ。よく似合ってる」
 ショールを巻いたようなカシュクールネックで、サイドから見ると横乳がかすかに覗くのがセクシーだ。ウエストの高い位置に結ばれたリボンは逆に可愛らしい。スカートは膝頭が出るくらいで、その下には網タイツ。シックで落ち着いた色合いのドレスは清楚さと艶っぽさを同時に醸し出していた。

「よし、行こうか」
 ヒールサンダルに履き替えたせいか、長身がさらに目立って見える。スタイルの良さと小顔も相まって、まるでモデルのようだ。
「恥ずかしがらずに背を伸ばして堂々と歩くんだ。その方が格好いいぞ」
 美女と野獣のカップルは嫌でも目を引いた。隣の風俗店にやって来たらしい白髪の中年男が、振り返って好奇の目を向ける。そんな視線を長門は全く気にしない。すみれの肩を抱くと、唇を奪いにかかった。
「あ、ダメよッ。見られてるわ」
「見られたっていいだろ。俺はすみれのことを愛してるんだ」
「ダメッ、あ、ン、ンン……」
 舌が侵入してくると、すみれは抵抗することを諦め、されるがままになっている。白昼の路上で堂々とキスする二人を、中年男はポカンと眺めていた。
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