完堕ち女子大生~愛と哀しみのナポリタン~

ミロ

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第六章 裏切った人

【34】

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  シャワーを浴びながら、すみれは今日のデートを思い出していた。映画を見てからイタリアンファミレスでの食事は、今までと変わらない、いつものコースだ。なのにーー。

 そもそも、最初からケチがついていた。待ち合わせに遅れたことのない純平が、30分を過ぎても来ない。心配して電話をしても留守電になるばかり。メッセージを送っても、いつまで経っても既読にならなかった。

 グレンチェックのハイウエストのスカートは膝上三十センチで、少しかがんだだけで下着が見えてしまいそうだ。ミニプリーツから伸びている長い脚が悩ましい。ニットのプルオーバーはDカップのバストラインを盛り上げていた。どれも長門に与えられたものだ。
 純平を刺激するようなファッションは避けたかったが、「この前プレゼントしたあれ、着て行けよ。待ち合わせ場所に着いたら写真送るんだぞ。ちゃんと着ていったかチェックしてやる」と念を押されると、逆らえなかった。

 ただでさえ百六十八センチの長身は目立つ上に、小顔でモデルのようなすみれのセクシーないでたちは、いやでも街行く男たちの目を引く。
「彼女、待ちぼうけ? 俺らと飲み行かない?」
 金髪のチャラい大学生がナンパしてくるのが煩わしかった。

 どこか店に入ろうか、それともここで待つ方がいいか……。
 そんなことを考え出した頃、純平が息せき切って駆け寄ってきた。
「ごめん、すみれ。電車に乗ろうとしたらスマホがなくてさ。大学まで戻って探したんだけど、結局見つかんなくて……」
「ええ? 大丈夫?」
「すみれに連絡しようと思っても、全部スマホに入ってるから番号も分かんないし。もう最低だよ」
「映画キャンセルして探しに行こうか?」
「うん……。多分、部室のどっかに転がってると思うんだ。あ、ねぇ、ちょっとすみれのスマホ貸して。ダメ元で電話してみる」
「いいよ、はい」
 呼び出し音が何回か鳴った後、「はい」と遠慮がちな声が返って来た。
 すみれの方を見てOKサインをしながら、純平は「よかったぁ、あって」とホッとしたようにつぶやく。
「もしもし、もしもし、それ、俺のスマホなんですけど」
「水嶋くんでしょ」
 一緒に耳をそばだてていたすみれから慌てて離れると、純平は声を潜めた。
「もしかして玲子さん、ですか」
「部室に戻ったらちょうど床で鳴り出したから、つい出ちゃった。画面にすみれ、て出てるから、迷ったんだけどね」
「あ、それは……」
「なによ、彼女なんでしょ、柊泉の」
 純平は返事に窮した。彼女がいることは認めたが、名前までは教えていなかったはずだ。なんですみれだって知ってるんだ……。
 玲子は絶句している純平に追い討ちをかける。
「西巻さん、だっけ。デートじゃないの、今日は」

 純平がマンションの部屋に来ると、シャワーを浴びている隙を狙って玲子はスマホを覗き見していたのだ。暗証番号は誕生日だと知っていたから、ロックを解除するのはわけなかった。だからすみれとのやりとりは筒抜けだった。そうとは知らない純平は、すみれに背を向けながら問いただす。

「俺、すみれのこと話しましたっけ?」
「そんなの、噂はあちこちから回って来てるわよ。それよりこれ、どうするの? 持って行ってあげようか」
 スマホは大事だ。だが、こんなところですみれと玲子をハチ合わせさせるわけにはいかない。
「いや、それはちょっと……」
「じゃあ、うちまで取りに来る?」
「それも今日は……明日まで預かってもらっていいですか。学校でピックアップしますから」
「学校でなんていやよ。うちまで取りに来て。朝よ」
「……分かりました。じゃあ」

 純平はスマホをすみれに返すと、何事もなかったように引きつった笑顔を浮かべた。
「あったよ、部室に。部長が預かってくれるって」
 そう言ってから、純平はすみれの姿をまざまざと見た。
 なんだか、いつもと違う。何というか、大人の色気がムンムンと漂っていた。
「部長って、木之下さんだっけ?」
 見とれているところに、突然声をかけられ、慌てて調子を合わせる。
「え、ああ、うん」
「玲子さん、ていうんだ……」
「みんなそう呼んでるよ」
「そうなんだ……」
(純平くんのこと本気で狙ってるって噂だから)
 すみれの胸の中に、急に美咲の言葉が現実味を帯びて迫ってきた。
「なんだよ。別に何もないって」
 純平への疑念が初めて胸に芽生える。もしかして……。
「別に何にも聞いてないけど」
 トゲのある言い方をしてしまってから、すみれは自己嫌悪に陥った。
(純平のこと、責められないよね、私なんか……)
 純平は逆襲するようにすみれに突っ込む。
「なんだか、きょうは大人っぽいね」
「え? そうかな。久しぶりだから張り切っちゃった」
 引きつった笑いを悟られないように、すみれは言葉を続けた。
「よかったじゃん、スマホ見つかって。早く行こ。映画、もう始まっちゃうよ」
 ひと月半ぶりだというのに、デートは気まずい雰囲気で始まるしかなかった。

 純平のチョイスで見た映画も酷かった。
 不慮の交通事故で亡くなった女子高生が、悲しみに暮れる同級生の彼氏の姿を見て天国に行きそびれ、幽霊となって見守るという陳腐なストーリーだ。
 主演のアイドルを食い入るように見ている純平の横で、眠気と戦うしかなかった。
 映画の後の食事は、いつものイタリアンファミレス。今までならシェアして喜んで食べていたのに、今日はどこか味気ない。

 何より、二人でいても心がときめかないのだ。長門に犯される前はあんなに待ち望んでいたデートなのに、会話が弾まない。今日は何度、純平に「すみれ、聞いてる」と言われたか。抱えた秘密の大きさに気もそぞろで、早く帰りたいとさえ思った。
 もう元には戻れないんだーー。
 認めたくない現実を突き付けられ、暗澹たる気持ちになる。
 それを純平に悟られまいと、すみれは強張った笑みを浮かべるしかなかった。
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