これはとても円満な婚約破棄のお話し~色々ありましたがほぼみんな幸せです

ひよこ麺

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09.可憐なお嬢様とエリザベート様03

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仲睦まじく見えるふたりを見つめるエリザベート様の眼差しは冷え切っていた。特にお嬢様へ向けるその温度感といったら真冬通りこして北極並みだろう。

「では、また後ほど」

「ごきげんよう」

完全なる義務と社交辞令でしかないふたりの関係。けれど、真面目にふたりともそれを全うする……それは正しい姿であり誰が批判すべきものでもない。

それでも恋やら愛というのは人をおかしくする。例えば完璧超人の皇太子が僕への感情に現を抜かし、婚約者は作らないし、あげくの果てに弟の婚約者にちょっかいを出しているという誤解を生みだしていたり、僕だって身分が高いお嬢様に懸想して、色々うまくいかないと定期的に謎の死にます宣言をしてしまうくらいには……。

だからこそ、彼女の想いに気付いてしまったのかもしれない。

(気づいたからどうにかできるわけでも、お嬢様を苦しめる人を肯定する訳ではないけれど……)

その愚かさを憐れんでしまった。どうにもならない恋ほど胸を蝕むものはない。

「そろそろ私達もいきましょう」

取り巻きを連れて去っていったエリザベート様の背中に、言い知れないもやもやを見ながら、僕もお嬢様とその場を後にした。

**********************

お嬢様は特に部活などはされていないので、ピョートル殿下との話を終えてそのまま帰宅された。館に着けばいつも通り侍女が迎えに来てそのまま着替えて湯あみ後に、夕食となる。

夕食は基本的にお嬢様は僕と食べていることが多い。本来お嬢様付きの下僕でしかない僕が食卓を共にするなどは不敬の極みだが、お嬢様の御父上である公爵様がそれを許可しているため問題にはならない。

しかし、個人的に拾って家においていただいている立場でありながら、お嬢様と同じ食事を頂き、学園にて高等教育まで身につけさせてくださる公爵様には頭が上がらない。

(しかし、何故公爵様はそこまで僕を面倒見て下さるのか……)

ぼんやりと考え事をしながら、しかし、お嬢様に迷惑をかけないために必死に見につけたマナーを生かして食事をしていると、お嬢様がとても疲れた表情であることに気付いた。

「お嬢様、どうされましたから??」

「いいえ。今日はピョートル殿下と2度も話し合いをしたからかしら、とても疲れてしまったの」

(それもそうだな、ひとつは婚約破棄の打診だったし……)

「本日は無理されず、ゆっくり休まれてください。後でお嬢様の大好きなショートブレッドとロイヤルミルクティーをお部屋に持ってまいります」

「ふふふ、テオは本当に優しいのね。いつもありがとう」

花のよう、天使降臨というような微笑みを浮かべたエリナエル様に五体投地したい気持ちを抑えながら、僕は食事を済ませた。
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