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32:何かがおかしい(正妃視点)
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「……どういうことかしら」
「そ、それが……退職する者はみんな口々に『化け物』が出て怖いというのです」
非現実なことを口にしながら、本人も震えているその男は、この城を護る騎士のひとりだ。今、王城で異常な事態が起きていた。
何故か、侍女、使用人、メイド、騎士、衛兵、シェフなど城を機能させるのに必要な臣下達が大量に退職を希望しているのだ。
もちろん、私は彼等をいびるような真似はしていない。むしろ親切で優しいふりをし続け彼等の心を掴んでいるはずだった。それなのにいきなり始まった城内の幽霊騒動からまるで蜘蛛の子でも散らしていくように城から人がいなくなっていくのだ。
最初は、衛兵が、次は年若い騎士、下働きからメイド、侍女、とじわじわ替えがきかない役職のものまで辞めはじめたのだ。
(これはまずい。一気にいなくなれば城がまともに機能しなくなる)
王と王妃が住まう城が、そのような状態になればまともに国が機能しなくなる、そんなことはあってはいけない。だから、原因を探るために退職者に近しものや、その上司を呼びつけて聞き込みをしているが、彼らは口々に『化け物』の話をする。
「『化け物』なんて、とても非現実ね。けれど退職者はみな同じことをいうのですか??」
「はい、みんな……。俺、いえ、私の友人も夜の見回りで『化け物』に出会ってから変わってしまって……何もない壁を見つめながら『神だ、神がきたきたんだ』と叫んで発狂してそのまま病院につれていかれまして……。あの後、何度も病院へ行きましたがその……」
「『神』……そういったの??」
「はい、そう言いました」
その言葉に、私は少し嫌な予感がしていた。この世界は私が主人公であり強制力は基本的に私の味方のはずであるが、最終回の評判が芳しくなく、続編が書かれたのだ。
けれど、その続編は書籍版のみな上、BLだったので私は興味がなく手を出していない。BLな時点で私が主役でないことは明かだったけれど、チラりと見た表紙のキャラクターには見覚えがなかったのでてっきり数百年後とか、次世代の話かと考えていたけれど、その前提が違うとしたら。
途端に、全身に鳥肌が立つ。もしも、今この瞬間、この世界の主人公が私から切り替わったとしたら、私ではない者がこの世界の強制力を使えるようになったのだとしたら。
そこまで考えて、その主人公を探す必要があることに気付いた。なんとしても消さないといけない。
(表紙のイラストは黒髪のイケメンと金髪の子供……子供!?)
そこで気付いた、あの子供は間違いない。先日生贄に捧げたあの女の息子であるルキオだ。
(けれどルキオは死んだ、だって竜神の生贄に……)
生贄にした、物語の通り。しかしその瞬間にWeb版の感想欄のことを思い出した。私はこの作品のファンで何度も感想を書いた。そして、他の読者のネタバレコメントも楽しく拝読していた。
けれど、この生贄でルキオが殺された時のコメント欄は荒れに荒れていた。
『ルキオは何も悪くない小さな男の子を殺すなんて、ヒロインが嫌いになりました』『こんなことしたらヒロインもざまぁされてほしい』『ルキオきゅん可愛くて好きだったのに、全裸で谷に突き落とすとか、ヒロイン最悪』などの言葉が溢れて、今まで主人公に同情的だった目が真逆になっていた。
『ルキオの母親は悪女だけど、ルキオは被害者。むしろ虐げられていた。本来ならヒロインはそんな甥っ子だけでも助けるべきだった』
急に後ろから頭を殴られるような衝撃が走った。その感想を思い出した時、ルキオを殺したことが過ちだったと気付いた。書籍版では、その箇所はカットされてふたりが結ばれるところで話は終わり、ルキオ救済のためにBLの続編が描かれた。自然と私はそれを理解していく。
そして、ルキオの救済が続編だとしたらざまぁ対象が誰か??
間違いない、私とバイアティス、そしてレイン……。そこまで考えて鳥肌が立つ。間違いない、今この事態はあの子がかかわっていると。
「あ、あの。王妃様??」
しゃべらず無言になった私を、怯えた目で見る騎士に急いで笑顔を作る。
「もう大丈夫よ。ところで今城にいる騎士を招集してほしいの」
「はい、わかりました」
小走りで去るその背中を見ながら、私は探しださなければいけない。私の未来を恐ろしい形に変えかねない禍々しい甥、新しい世界の主人公を。
(見つけ出してこの物語が完全に移行する前に殺さなければ……)
「そ、それが……退職する者はみんな口々に『化け物』が出て怖いというのです」
非現実なことを口にしながら、本人も震えているその男は、この城を護る騎士のひとりだ。今、王城で異常な事態が起きていた。
何故か、侍女、使用人、メイド、騎士、衛兵、シェフなど城を機能させるのに必要な臣下達が大量に退職を希望しているのだ。
もちろん、私は彼等をいびるような真似はしていない。むしろ親切で優しいふりをし続け彼等の心を掴んでいるはずだった。それなのにいきなり始まった城内の幽霊騒動からまるで蜘蛛の子でも散らしていくように城から人がいなくなっていくのだ。
最初は、衛兵が、次は年若い騎士、下働きからメイド、侍女、とじわじわ替えがきかない役職のものまで辞めはじめたのだ。
(これはまずい。一気にいなくなれば城がまともに機能しなくなる)
王と王妃が住まう城が、そのような状態になればまともに国が機能しなくなる、そんなことはあってはいけない。だから、原因を探るために退職者に近しものや、その上司を呼びつけて聞き込みをしているが、彼らは口々に『化け物』の話をする。
「『化け物』なんて、とても非現実ね。けれど退職者はみな同じことをいうのですか??」
「はい、みんな……。俺、いえ、私の友人も夜の見回りで『化け物』に出会ってから変わってしまって……何もない壁を見つめながら『神だ、神がきたきたんだ』と叫んで発狂してそのまま病院につれていかれまして……。あの後、何度も病院へ行きましたがその……」
「『神』……そういったの??」
「はい、そう言いました」
その言葉に、私は少し嫌な予感がしていた。この世界は私が主人公であり強制力は基本的に私の味方のはずであるが、最終回の評判が芳しくなく、続編が書かれたのだ。
けれど、その続編は書籍版のみな上、BLだったので私は興味がなく手を出していない。BLな時点で私が主役でないことは明かだったけれど、チラりと見た表紙のキャラクターには見覚えがなかったのでてっきり数百年後とか、次世代の話かと考えていたけれど、その前提が違うとしたら。
途端に、全身に鳥肌が立つ。もしも、今この瞬間、この世界の主人公が私から切り替わったとしたら、私ではない者がこの世界の強制力を使えるようになったのだとしたら。
そこまで考えて、その主人公を探す必要があることに気付いた。なんとしても消さないといけない。
(表紙のイラストは黒髪のイケメンと金髪の子供……子供!?)
そこで気付いた、あの子供は間違いない。先日生贄に捧げたあの女の息子であるルキオだ。
(けれどルキオは死んだ、だって竜神の生贄に……)
生贄にした、物語の通り。しかしその瞬間にWeb版の感想欄のことを思い出した。私はこの作品のファンで何度も感想を書いた。そして、他の読者のネタバレコメントも楽しく拝読していた。
けれど、この生贄でルキオが殺された時のコメント欄は荒れに荒れていた。
『ルキオは何も悪くない小さな男の子を殺すなんて、ヒロインが嫌いになりました』『こんなことしたらヒロインもざまぁされてほしい』『ルキオきゅん可愛くて好きだったのに、全裸で谷に突き落とすとか、ヒロイン最悪』などの言葉が溢れて、今まで主人公に同情的だった目が真逆になっていた。
『ルキオの母親は悪女だけど、ルキオは被害者。むしろ虐げられていた。本来ならヒロインはそんな甥っ子だけでも助けるべきだった』
急に後ろから頭を殴られるような衝撃が走った。その感想を思い出した時、ルキオを殺したことが過ちだったと気付いた。書籍版では、その箇所はカットされてふたりが結ばれるところで話は終わり、ルキオ救済のためにBLの続編が描かれた。自然と私はそれを理解していく。
そして、ルキオの救済が続編だとしたらざまぁ対象が誰か??
間違いない、私とバイアティス、そしてレイン……。そこまで考えて鳥肌が立つ。間違いない、今この事態はあの子がかかわっていると。
「あ、あの。王妃様??」
しゃべらず無言になった私を、怯えた目で見る騎士に急いで笑顔を作る。
「もう大丈夫よ。ところで今城にいる騎士を招集してほしいの」
「はい、わかりました」
小走りで去るその背中を見ながら、私は探しださなければいけない。私の未来を恐ろしい形に変えかねない禍々しい甥、新しい世界の主人公を。
(見つけ出してこの物語が完全に移行する前に殺さなければ……)
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