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52.奇妙な館と影(ジャック視点)
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しばらく思案した俺は、自分の役割を思い出した。
(一刻も早くルーク殿下を探し出さねばいけない。)
首謀者は気になるが、とにかく殿下を保護することが俺に与えられて最重要の任務である。だから、俺は自身の五感を研ぎ澄ませた。
静寂に包まれている館の中で、かすかに音が聞こえる。その音は先ほどから感じる臭いとは別の方角から聞こえている。ならば……
(ルーク殿下である可能性が高い。罠ではないとも限らないが確認してみよう)
俺は耳を澄ませながらその館の中に踏み入れる。とても奇妙な館だった。それは木で出来ている。我が国、プロキオン王国の建物の基本は石やレンガ造りである。そのため何百年単位で建物が残る。
けれど、この館は木で出来ている。木は腐るものだ。だからこのような状態でしっかりと残っているはずがない。定期的に誰かの手が入っているならばまだしも……。
歩く度にキシキシと軋む広い廊下を進む。それは家の中にありながら、屋根は当然あるが外に剥き出しになっている奇妙なものだった。
木と紙で作られた簡素な引き戸が廊下と館の部屋を隔てている。
廊下から見える美しい庭園には見覚えのない薄紅色の花が咲いており花弁が舞う様はとても美しく見えた。
その奇妙な廊下を抜けると薄暗い室内に狭く急な階段があったので登る。外観から2階建てのこの建物のおそらく最上階に着いた時、例の物音が大きくなるのが分かった。
2階について、音の痕跡を追おうとした時、ふっと先ほどの何者かの臭いを同時に感知した。
五感を研ぎ澄ませる。
(どちらがより近い?)
パサリ
近くから酷く軽い音がした、そして同時にこれは敵対者の立てた音だと分かる。ソレは咽かえるような血のにおいがしていたから。
慎重に音を消して振り返ると、そこに確かにいた。
真っ黒い装束を着た男が。
「お前が、ルーク殿下をさらったのか?」
男は答えない。ただ、間合いをつめて切りかかろうした。とても慣れた動きだったがすんでのところで身をかわす。そして、間近に近づいたことで俺はその顔を見ることができた。
「……お前は」
「久しぶりだな」
男はニヤリと笑う。ガタイの良い大柄なその男を俺は知っていた。
「お前は、庭師だな」
ガルシア公爵様のお屋敷までルーク殿下を想い、薔薇を届けていた寡黙な男がいた。元々は王城の庭園の庭師として雇われていた平民の男。名前は憶えていない。
「ああ、お前らからすれば俺は庭師で名前のない男だろう」
昏い目だった。光の全く入らない暗黒のような、そんな瞳だった。
「お前が、何故……」
言葉を紡ぎかけて、俺はあることを思い出した。王家では影と呼ばれる暗殺者を雇っていると。そしてそういう人間は多くの場合使用人に扮してターゲットを守っていると。
だとしたら、この男こそがその影のひとりに違いない。
「お前なら分かるだろう?護衛騎士ならその存在くらい知っているはずだ」
男が笑う。その笑顔からは言い知れない狂気が浮かび上がる。
「影か?」
「ご名答。まぁ元影というべきだな。ルーク殿下が、俺のもっとも愛する御方が王族を追われてしまい守るべきものがいなくなった」
(一刻も早くルーク殿下を探し出さねばいけない。)
首謀者は気になるが、とにかく殿下を保護することが俺に与えられて最重要の任務である。だから、俺は自身の五感を研ぎ澄ませた。
静寂に包まれている館の中で、かすかに音が聞こえる。その音は先ほどから感じる臭いとは別の方角から聞こえている。ならば……
(ルーク殿下である可能性が高い。罠ではないとも限らないが確認してみよう)
俺は耳を澄ませながらその館の中に踏み入れる。とても奇妙な館だった。それは木で出来ている。我が国、プロキオン王国の建物の基本は石やレンガ造りである。そのため何百年単位で建物が残る。
けれど、この館は木で出来ている。木は腐るものだ。だからこのような状態でしっかりと残っているはずがない。定期的に誰かの手が入っているならばまだしも……。
歩く度にキシキシと軋む広い廊下を進む。それは家の中にありながら、屋根は当然あるが外に剥き出しになっている奇妙なものだった。
木と紙で作られた簡素な引き戸が廊下と館の部屋を隔てている。
廊下から見える美しい庭園には見覚えのない薄紅色の花が咲いており花弁が舞う様はとても美しく見えた。
その奇妙な廊下を抜けると薄暗い室内に狭く急な階段があったので登る。外観から2階建てのこの建物のおそらく最上階に着いた時、例の物音が大きくなるのが分かった。
2階について、音の痕跡を追おうとした時、ふっと先ほどの何者かの臭いを同時に感知した。
五感を研ぎ澄ませる。
(どちらがより近い?)
パサリ
近くから酷く軽い音がした、そして同時にこれは敵対者の立てた音だと分かる。ソレは咽かえるような血のにおいがしていたから。
慎重に音を消して振り返ると、そこに確かにいた。
真っ黒い装束を着た男が。
「お前が、ルーク殿下をさらったのか?」
男は答えない。ただ、間合いをつめて切りかかろうした。とても慣れた動きだったがすんでのところで身をかわす。そして、間近に近づいたことで俺はその顔を見ることができた。
「……お前は」
「久しぶりだな」
男はニヤリと笑う。ガタイの良い大柄なその男を俺は知っていた。
「お前は、庭師だな」
ガルシア公爵様のお屋敷までルーク殿下を想い、薔薇を届けていた寡黙な男がいた。元々は王城の庭園の庭師として雇われていた平民の男。名前は憶えていない。
「ああ、お前らからすれば俺は庭師で名前のない男だろう」
昏い目だった。光の全く入らない暗黒のような、そんな瞳だった。
「お前が、何故……」
言葉を紡ぎかけて、俺はあることを思い出した。王家では影と呼ばれる暗殺者を雇っていると。そしてそういう人間は多くの場合使用人に扮してターゲットを守っていると。
だとしたら、この男こそがその影のひとりに違いない。
「お前なら分かるだろう?護衛騎士ならその存在くらい知っているはずだ」
男が笑う。その笑顔からは言い知れない狂気が浮かび上がる。
「影か?」
「ご名答。まぁ元影というべきだな。ルーク殿下が、俺のもっとも愛する御方が王族を追われてしまい守るべきものがいなくなった」
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