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53.同じ穴の狢(レイズ(兄上)視点)
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王城からルークが消えたと聞いた時、それがとても現実とは思えなかった。
「ルークが居なくなった?叔父上と一緒だったのに?」
今日は、ルークが私のものになるはずの記念すべき日だった。だから、少し早めに王城へ出向いた時、騒ぎが起きていた。
ルークが貴賓室の隣のトイレに行ったっきり行方不明になったというのだ。現場にはなにひとつ手がかりはなく、まるで消えてしまったかのように居なくなったのだと。
「はい、ガルシア公爵様が目を離した数分の間に消えていたと……」
その言葉が何を意味するのか、犯人は相当の手練れであるということだ。可能性として考えられるのは叔父様に恨みを持つ隣国の王族関係者、あるいは本日、ルークの王族への復帰を行う際に罪が明るみに出るバローズ公爵家に関連する者である可能性もある。
(可能性が膨大過ぎてひとつずつ精査する必要があるが……)
もしそれでルークが死ぬような事態になれば、考えただけで恐ろしかった。
(ルーク……私の愛おしい半身ともいえる存在。失うことになったら……)
気が狂いそうになる。ルークが居なくなるという事態が私を狂わせるのだ。以前、叔父上にルークを連れていかれた時も心の中が壊れるのではないかと思うほど不安と怒りに苛まれた。
また、私は同じ思いをしなければいけないのか。冷静になるべきなのに最悪の事態が浮かんで恐ろしくて心臓がずっと激しく脈打っていた。
しかし、何もしないわけにはいかない。一時ではあるが叔父上とも協力が必要だろう。
私は、エドワードと謁見の間に入った。
「ルークが失踪したというのは本当ですか」
「王太子殿下。そうです間違いありません」
ベルダンディ公爵が答えた。表情は冷静だが顔色は真っ青である。彼もルークをとても可愛がっているひとりであるから気が気ではないのだろう。
謁見の間には、私達のほかに、父上、叔父上、ベルダンディ公爵、そして見覚えのない男がいた。
「彼は誰だ?」
「彼は、影のひとりです」
パッと見ると通常の使用人のようだが、私が入った時に陛下の前に自然な動きで守る間合いをつめていたのでそのような訓練を受けた人間であるのは明らかだった。
「叔父上、何故ルークが失踪しなければいけなかったのですか?叔父上がいながら……」
「そうだな。すまない。ルークが失踪したのは完全に僕の過失だ」
叔父上は弁明することもなくあっさりと謝罪を口にする。
「だから、必ずルークを安全に保護する。先ほど魔法で確認したところルークは「まほろばの森」の「名無しの館」に居ることがわかった。我々もこれから向かうところだが、先に元護衛騎士のジャックにルークの保護を命じた」
だいぶ話が進んでいるが、叔父上ならばそれくらいお手のものだろう。
叔父上は人と言う枠外にいる存在なのだから。
王城に古くから仕えている者達は、表向きは決して口にはしないが、叔父上について人ならざる者として扱っているところがあった。
生まれた時から、尋常ならざる力を持ち、本来ならこの国の王にだってなれただろうその人は、しかしそうなることを望まなかったと言われている。王家の呪いのためだと思うが。
ただ、少なくとも救国の英雄となる前はその力の強さから、多かれ少なかれ厄介者として扱われていたと聞いてるのでその部分に関して、私は叔父上に自分と近いものを感じることはある。
「なるほど。しかし「まほろばの森」の「名無しの館」とは……あの館は特定の者しか入れない場所と聞いておりますが……」
どの国にも後ろ暗い過去というものが少なからずあるとは思うが、我が国にもそれがある。それこそが「名無しの館」の存在である。
「名無しの館」とは王家のために裏側で諜報や工作を行う、影の隠れ家のような場所である。
隣国に近くかつ魔法の干渉を受けない場所であるため、隣国との戦争が長らく続いていた折にはその場所が拠点として使われていた。しかし、それも隣国との戦争が終わるまでの話である。現在は、機密事項があるため管理はされているが表向きは廃墟として扱われている。
影の中でも一部の権限を持つもの以外は、その中に入ることができない特殊な建物である。
「その件で、この者をここに呼んだんだよ」
父上が、可愛らしい顔で王らしくない口調でそういった。父上は年こそ重ねているし、実の父親だけれど幼い言動と表情がルークによく似ているので憎めない。
「なるほど、影の者ですね」
「王太子殿下、お目にかかれて光栄でございます」
「礼儀はいい。誰が犯人か目星はついているということだな?」
そう問うと昏い瞳がほんの僅かの感情の揺れを起こした気がした。感情のコントロールを行っている影のそれなりの実力者でも感情が揺らぐということは相当良くない事態なのだろう。
「はい、これを行ったものは、元々ルーク殿下を専属で守っていた元影の男で間違いないと思われます」
「……そうか」
元影と言われたその男は現在は確か、王城の庭師をしていると聞いていた。正確には元々庭師兼影だった。とても優秀でそつがなく仕事をこなす男だったが、ルークの廃嫡事件の際に彼も大切な情報を取りこぼしていたとして処罰されたと聞いていた。
その結果、影を下ろされただの庭師となったのだと。
「ルークへの恨みで行われたということだろうか?」
そう影の男に問うと、首を振ってから静かに、しかししっかりとした口調で答えた。
「あの男に限ってルーク殿下を恨むはずがありません。あの男はルーク殿下を……」
「愛していたんだ。僕の屋敷にも毎日のように手紙と薔薇が届いていたよ」
そう叔父上に告げられて、思わず目を見開く。
(なぜ、愛していたならルークを連れ去ったんだ……)
しかし、その考えに行き着いた時、自身もルークを連れ去ったということを思い出す。
(ああ、なるほど同じ穴の狢だな……)
「ルークが居なくなった?叔父上と一緒だったのに?」
今日は、ルークが私のものになるはずの記念すべき日だった。だから、少し早めに王城へ出向いた時、騒ぎが起きていた。
ルークが貴賓室の隣のトイレに行ったっきり行方不明になったというのだ。現場にはなにひとつ手がかりはなく、まるで消えてしまったかのように居なくなったのだと。
「はい、ガルシア公爵様が目を離した数分の間に消えていたと……」
その言葉が何を意味するのか、犯人は相当の手練れであるということだ。可能性として考えられるのは叔父様に恨みを持つ隣国の王族関係者、あるいは本日、ルークの王族への復帰を行う際に罪が明るみに出るバローズ公爵家に関連する者である可能性もある。
(可能性が膨大過ぎてひとつずつ精査する必要があるが……)
もしそれでルークが死ぬような事態になれば、考えただけで恐ろしかった。
(ルーク……私の愛おしい半身ともいえる存在。失うことになったら……)
気が狂いそうになる。ルークが居なくなるという事態が私を狂わせるのだ。以前、叔父上にルークを連れていかれた時も心の中が壊れるのではないかと思うほど不安と怒りに苛まれた。
また、私は同じ思いをしなければいけないのか。冷静になるべきなのに最悪の事態が浮かんで恐ろしくて心臓がずっと激しく脈打っていた。
しかし、何もしないわけにはいかない。一時ではあるが叔父上とも協力が必要だろう。
私は、エドワードと謁見の間に入った。
「ルークが失踪したというのは本当ですか」
「王太子殿下。そうです間違いありません」
ベルダンディ公爵が答えた。表情は冷静だが顔色は真っ青である。彼もルークをとても可愛がっているひとりであるから気が気ではないのだろう。
謁見の間には、私達のほかに、父上、叔父上、ベルダンディ公爵、そして見覚えのない男がいた。
「彼は誰だ?」
「彼は、影のひとりです」
パッと見ると通常の使用人のようだが、私が入った時に陛下の前に自然な動きで守る間合いをつめていたのでそのような訓練を受けた人間であるのは明らかだった。
「叔父上、何故ルークが失踪しなければいけなかったのですか?叔父上がいながら……」
「そうだな。すまない。ルークが失踪したのは完全に僕の過失だ」
叔父上は弁明することもなくあっさりと謝罪を口にする。
「だから、必ずルークを安全に保護する。先ほど魔法で確認したところルークは「まほろばの森」の「名無しの館」に居ることがわかった。我々もこれから向かうところだが、先に元護衛騎士のジャックにルークの保護を命じた」
だいぶ話が進んでいるが、叔父上ならばそれくらいお手のものだろう。
叔父上は人と言う枠外にいる存在なのだから。
王城に古くから仕えている者達は、表向きは決して口にはしないが、叔父上について人ならざる者として扱っているところがあった。
生まれた時から、尋常ならざる力を持ち、本来ならこの国の王にだってなれただろうその人は、しかしそうなることを望まなかったと言われている。王家の呪いのためだと思うが。
ただ、少なくとも救国の英雄となる前はその力の強さから、多かれ少なかれ厄介者として扱われていたと聞いてるのでその部分に関して、私は叔父上に自分と近いものを感じることはある。
「なるほど。しかし「まほろばの森」の「名無しの館」とは……あの館は特定の者しか入れない場所と聞いておりますが……」
どの国にも後ろ暗い過去というものが少なからずあるとは思うが、我が国にもそれがある。それこそが「名無しの館」の存在である。
「名無しの館」とは王家のために裏側で諜報や工作を行う、影の隠れ家のような場所である。
隣国に近くかつ魔法の干渉を受けない場所であるため、隣国との戦争が長らく続いていた折にはその場所が拠点として使われていた。しかし、それも隣国との戦争が終わるまでの話である。現在は、機密事項があるため管理はされているが表向きは廃墟として扱われている。
影の中でも一部の権限を持つもの以外は、その中に入ることができない特殊な建物である。
「その件で、この者をここに呼んだんだよ」
父上が、可愛らしい顔で王らしくない口調でそういった。父上は年こそ重ねているし、実の父親だけれど幼い言動と表情がルークによく似ているので憎めない。
「なるほど、影の者ですね」
「王太子殿下、お目にかかれて光栄でございます」
「礼儀はいい。誰が犯人か目星はついているということだな?」
そう問うと昏い瞳がほんの僅かの感情の揺れを起こした気がした。感情のコントロールを行っている影のそれなりの実力者でも感情が揺らぐということは相当良くない事態なのだろう。
「はい、これを行ったものは、元々ルーク殿下を専属で守っていた元影の男で間違いないと思われます」
「……そうか」
元影と言われたその男は現在は確か、王城の庭師をしていると聞いていた。正確には元々庭師兼影だった。とても優秀でそつがなく仕事をこなす男だったが、ルークの廃嫡事件の際に彼も大切な情報を取りこぼしていたとして処罰されたと聞いていた。
その結果、影を下ろされただの庭師となったのだと。
「ルークへの恨みで行われたということだろうか?」
そう影の男に問うと、首を振ってから静かに、しかししっかりとした口調で答えた。
「あの男に限ってルーク殿下を恨むはずがありません。あの男はルーク殿下を……」
「愛していたんだ。僕の屋敷にも毎日のように手紙と薔薇が届いていたよ」
そう叔父上に告げられて、思わず目を見開く。
(なぜ、愛していたならルークを連れ去ったんだ……)
しかし、その考えに行き着いた時、自身もルークを連れ去ったということを思い出す。
(ああ、なるほど同じ穴の狢だな……)
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