婚約破棄が確定している悪役で聖女の私は国外追放されて自由になるはずだった。

ひよこ麺

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09.呪われた血筋(視線:オリオン公爵)

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オリオン公爵家は呪われている。

オリオン公爵家はこの国の建国に関わった一族であり、かつ初代王の弟を始祖に持つ由緒正しい家柄でもある。それにもかかわらずオリオン公爵家には問題があった。

オリオン公爵家の始祖であるエドモンド王弟様は初代王の腹違いの弟だった。腹違いとはいえ初代王との仲はけっして悪くはなかった。

むしろ仲の良い兄弟だったと伝わっている。

この国は現在のベテルギウス王国になる前はベテルギウス神聖国という名だった。それは今も伝わる「聖女」と呼ばれる不思議な女性とその声を伝える「司祭」により成り立つ宗教国家だった。

元々現在の王族は元「司祭」の一族で神の声を伝え人を癒す「聖女」を支えていた。しかしある時、事件が起こってしまった。

「聖女」がいなくなってしまったのだ。忽然と失踪してしまったのだ。そこで仕方なく「聖女」の声を伝えていた「司祭」が王となり建国したのがベテルギウス王国である。

「聖女」の国から「王」の国になっても「聖女」は時折現れた。「聖女」が現れたならその時は奉ることは現在も続いているが、「聖女」を偽る存在も現れたためその存在を「魔女」と呼ぶようになったのが「聖女」と「魔女」の起源だがそれを知る者はもはや古からの上位貴族と王族しかいない。

さらに、この話には公の秘密としての物語がもうひとつある。忽然と失踪した「聖女」の行方だ。それこそオリオン公爵家の呪いの根源。エドモンド王弟様こそが「聖女」を簒奪した者だと言われている。

エドモンド王弟様は初代王の指示で彼女を誘拐し、自身が所有していた北の離宮こと「アイビーの館」に監禁していたそうだ。必要な数の精鋭の使用人だけで固められた鉄壁の監獄。全ての窓に嵌め殺しの鉄柵があり、特定の通路以外には二重で鍵をかけなければ開かない仕組みとなっている。

そして、その巨大な鳥かごの中で「聖女」と対話するうちにエドモンド王弟様は彼女を愛するようになってしまった。それから彼の偏執狂パラノイアが始まった。彼は彼女を誰かに奪われないよう誰の目にも触れないように異常なまでに監視をしていた。

そうして死ぬまで彼女に囚われ続けたエドモンド王弟様の家庭はほぼ崩壊してしまった。しかも、その跡取りはどこの誰と作ったのかわからない私生児だったという。

もうわかると思うが私生児は「聖女」との間の子供だ。そして、その影響なのかオリオン公爵家にはふたつの異なる力が働いているようだ。

ひとつは「聖女」が自身を簒奪した者にかけた呪いとして、異常な執着をする偏執狂パラノイア。もうひとつは自身の息子への祝福として与えた幸福の加護。

具体的には偏執狂パラノイアには必ず陥る血筋だが、決して不幸にはならないという奇妙なものだ。

そのおかげで実際現在までオリオン公爵家は継続しつづけている。

幼い頃この話をアイビーの館の管理人にまるでおとぎ話のように聞かされた時は冗談だと思った。自分にはそんな呪い等ないと思っていたからだ。しかし、自身が愛する人を手に入れられなかった時、愛のない結婚を承諾した時、何かが壊れていくのが分かった。その狂気にいち早く気づいていれば今も私の横でナリッサは笑っていたはずだ。

けれど、ナリッサは産後の肥立ちが悪くて死んだ。さらに生まれた娘まで死んだことにして捨てられてしまった。だから私は必死に孤児院を回り探し続けた。8年間かけてやっと私は娘に、ベラトリクスに再会できたのだ。

しかし、ベラトリクスはあくまで娘でナリッサではないから執着を激しくしてはいなかった。ただ、時折ナリッサと似た表情をする時だけいとおしい気持ちになる程度だ。だから私は偏執狂パラノイア等ではないと自負している。

そんな折、私の唯一の息子。愛情はないがオリオンを継ぐ嫡子であるウィリアムが妙な事を言った。

「アイビーの館の鍵を頂きたい」

その言葉に驚くと同時にそういえばつい最近ベラトリクスの婚約者の第二王子が子爵の娘と浮気をしていること、その子爵の娘をウィリアムも好み、貢ものをしているという話を諜報から聞いていた。

そうして、ピンときた。ウィリアムは第二王子と恋人を取り合っていて、その子爵令嬢をアイビーの館に閉じ込めるつもりなのだろうと。

偏執狂パラノイアに侵されている息子を前に私は深いため息をついた。どうしてこんなことになってしまったのだろうか。

「だめだ。ウィリアムお前は嫡男だ。第二王子と争ってその愛人を閉じ込めたりしてはいけない」

初めて父親らしいことを言ったつもりだった。しかし、私とよく似た顔がまるで苦痛にでもあったように歪んだ。

「安心してください。父上が思うような人を閉じ込めるつもりはありませんから、その証拠に私はある令嬢との婚約をさせて頂くつもりです」

そう言ってウィリアムはクレア伯爵令嬢との縁談の話を始めた。そこそこ格式のある家柄で元々は我が家と同じ公爵と伯爵の爵位を持っていた家系だった。

全く色恋に興味があるように見えなかったが大切な人を見つけたのかもしれない。私に父親らしいことなどはじめからあきらめているだろう息子のためにその婚約に同意することにした。

そして、その婚約の前祝いに、アイビーの館の鍵をその場で与えた。

「ありがとうございます、父上」

そう言った息子は相変わらず無表情だったが、そこからなぜか喜びの感情を感じることができたのは親子故かもしれない。

それからしばらくして、ベラトリクスが第二王子により糾弾されて婚約破棄になったこと、公爵家を無断で除籍され国外追放を命じられたことを聞いて腸が煮えくり返ると同時に私は娘を探した。

しかし、ベラトリクスは国境付近で賊に襲われてしまい、もはや判別できない死体となってしまったという事実を突きつけられ絶望にを打ちひしがれた。

さらに、娘が全くの無罪であり、すべては第二王子と子爵令嬢の捏造であったことも分かり王宮は大わらわとなった。

私は激しい怒りから王族を批判。それに同調するように「聖女」として市井の人々を救っていたベラトリクスの死に世論も王族批判が展開されてよもや反乱まで起きかけた。

それをおさめるために第二王子は結局廃嫡の上で、離宮へ幽閉。子爵令嬢は「聖女」とされていたが、それさぇも捏造とわかり「魔女」だとみなされて処刑が決定したが心が晴れることもない。

きっと、あの日ナリッサを失ってからじわじわと壊れてきていた心がベラトリクスの死で完全に折れてしまったらしい。私は爵位を息子のウィリアムに譲り隠居することにした。静かな隠居の中でナリッサへの思い出にせめてうずもれたいと願うばかりだった。
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