婚約破棄が確定している悪役で聖女の私は国外追放されて自由になるはずだった。

ひよこ麺

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最終話:私の運命

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「ベラトリクス、いいや、ベラ。もう君を傷つけるものはなにもない」


そう言ってみたことのない顔をする男に私は怯えていた。ウィリアムはこんな風に私に笑うことなどないはずだ。この男は私を憎んでいた、そう憎んでいるはずだ。

しかし、何故か私はこの男に奇妙な館に監禁されている。

足に鎖を付けられているせいで、部屋の扉まで行くことができない。部屋自体は鉄格子とどうやら2重ロックの扉以外は特に違和感はないがとても豪奢な部屋だった。

(公爵家の部屋よりずっと立派なんて皮肉ね)

私が押し込められていた部屋。昔の酷い部屋より多少は改善されたがここより良い部屋ではなかった。

それに……ずっとこの部屋に入れられてから気になっていたことがある。目の前にある大きな花瓶の中の大量の薔薇の花。真っ黒い薔薇の花は確か謹慎中にも送られていた。その花言葉を憎しみと解釈していたけれど今になってそれに違和感が出てきた。

監禁されていることあり、ほぼやることがなく、庭を眺めたり本を読んだり、刺繍を縫うくらいしか暇潰しがないこの部屋だからこそ私は薔薇の数を数えるなどということをしたのだった。

まだ、謹慎中は別に他にもするべきことはあったからいちいち数を数えなかったし、数える必要などないと思っていた。あの時点で感づいたなら少しマシだったのだと今なら思う。

薔薇の花にはその本数で花言葉が変わるという面白い特徴がある。例えば10本「あなたは全てが完璧」という花言葉になる。そして、今目の前にあるとんでもない量の黒い薔薇の花は999本あった。

最初数えた時はその本数に慄いたのだが、その花言葉にさらに驚愕することになった。

-何度生まれ変わってもあなたを愛する。

……それに気づいたのはこの部屋に置かれていた本だった。その本を準備してのがウィリアムだということからもこれは意図的なことだと分かった。

また、そもそもその本には黒薔薇の花言葉が「憎しみ」であると記載されていなかった。代わりに記載されていた花言葉、それは……。

「貴方はあくまで私のもの」「決して滅びることのない愛、永遠の愛」
のふたつだった。

未だってそんなはずはないと否定する自分がいるのだが、最近のウィリアムを見ているとそれが誤り出ないことが分かる。だって、あの男は……

「ずっと愛していたんだ、ベラ。そしてすまない。君を繊細な君を傷つけてしまった」

そう言って私を抱きしめるのだ。逃げたいが私は鎖でつながれていて逃げることができない。そんな私のまぶたに鼻に頬にウィリアムはキスの雨を降らせた。

冷たい氷のようだと思っていた青い瞳はとても美しいサファイアのように煌めいて私を慈しむように見つめるようになった。

(ああ。もっと早くそれに気づいていたら、その想いを教えてくれたなら……)

違う運命があったのかもしれない。しかし、私はそれを見落とした。そして彼も私に言うことはなかった。その結果がこの歪な関係なのだろう。

あの日聞いた幻聴の言葉を思い出す。

「……ベラトリクス。僕は君に最後の忠告を与えにきたんだよ。まだ種明かしは出来ないけど君は今よくない方へ進み続けてる。本来準備した恩恵を君は一切受けていない。それどころか…嫌、喋りすぎたね。とりあえず君にはもう少しまわりを見てほしい、ただそれだけだよ。ここは乙女ゲームの皮をかぶった別世界だからね」

(そういうことだったのね……私が敵だと、憎んでいると思っていたこの人は……)

誰よりも私を愛していた。今でこそ歪んでいるとわかるのだがそれは昔からじゃなかったのかもしれない。
そういえば、昔ネモフィラの花が良くバラバラにされて置かれていたのを思い出した。

あれは、誰かの嫌がらせだと思っていたが、真相はウィリアムが持ってきていたのだろう。そうして誰かがそれは散らして嫌がらせのような姿にしてしまったのだ。

それについてはウィリアムが私の髪を撫でながら悲しそうに話していたから分かったことだ。

「昔も僕は君に花を贈ったんだ。毎日ネモフィラの花を……でもベラは迷惑だっただろう?バラバラに散らしてしまうほどに」

「……私はその花を散らしたりしていません」

「?ドアの前にわざと散らしていただろう」

「違います。あれは……使用人が嫌がらせで散らしたのです。私はその花が綺麗な状態では手にしたことがありませんでした」

まるで私達のすれ違いのように、お互いに誤解していたのだ。その話をした時なんだか胸の中であたたかいものが生まれてくるのが分かった。

監禁されはいるが、基本的にしっかりと使用人がついていて、私にとっては今まで一番快適かもしれない生活だった。たまに怪我をした使用人を治したりする以外は、ただ平和な一日を過ごす。

誰かが外から来て傷付けることもない。全てが整っているのだ。

そうして、誰よりも私を気遣ってくれるウィリアムも、いいえ、私のもいる。

「ねぇ、。お仕事は忙しい?」

「そうだね。ソレイユが廃嫡されて、今は王太子の近衛騎士をしているからね。でもベラの顔を見ればすべて癒されるんだ。今日も本当に綺麗だよ」

「ありがとう」

「愛しているよ、僕だけのベラ。君が、君だけがいれば幸せだからどうかもう離れないで……」

ウィルの美しい瞳から涙が零れた。優しい時間。ウィルは知れば知るほどとても可哀そうな人だった。側にいてあげなければ死んでしまうような可哀そうな人。だから……

「大丈夫よ、ウィル。私はいつでもここにいるわ」

そう言って微笑んだ私の体を強く抱きしめるそのあたたかさに思わず微笑む。これで良かったのだ。

今ならわかる。これこそがだったのだ。


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こちら読んで頂きありがとうございます。本編はこれにて終了ですがこのふたりのこの後等諸々書きたい話があるので閑話やR18描写等を含む別立てにて公開させて頂く予定です。
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