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04.王太子の歪んだ愛情が怖すぎる(王太子視点)※7/5 22:30 大幅に加筆修正しました。

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「その話は本当か!?」

「はい、クリスティン殿下の最愛の方が国境騎士団に入団したと……」

その言葉に血液が沸騰しそうになった。目の前で無表情で跪いている影を見つめながら行き場のない怒りを手近な花瓶を床に投げつけて割ることで発散する。

ガシャン

そこそこ丈夫なそれが床にぶつかり割れて中に入っていた水も花もはじけ飛ぶ。思ったより自身が、それに対して苛々をぶつけたことを理解したが、それでも根本的な怒りがおさまらないで腸がにえくりかえるような感覚をなんとか抑え込んだ。

(よりによって国境騎士団とは……クソ、やっとルベルスが手に入ると思ったのに……辺境伯のところへ逃がすなんて、レイモンドも考えたな)

いつも、ルベルスとの恋路を邪魔してきた憎いレイモンドの冷ややかな微笑みが目に浮かんで思わず割れた破片をさらに靴で踏みつけて砕いた。

ルベルスは僕のひとつ年下の従兄弟で、同じ従兄弟のレイモンドが父親に似た冷ややかな男だとしたらルベルスは王国の美しいスイートピーと例えられた叔母である母親によく似たそれはそれは美しく可愛い子だ。

今でもはっきり覚えている。ルベルスと初めて会った日、ひとりで寂し気に雨の中に佇んでいたあの子の儚くも美しいその姿を。

あの姿を見た時、僕はルベルスを『×××たい』と思った。

だから、ルベルスに告白したけれど曖昧にはぐらかされてしまった。けれどはぐらかすくらいならばきっとルベルスにも好意があるはずだと長年想い続けていた。

ルベルスは叔母の命と引き換えに生まれた子だった。この国では、女性はとても貴重な存在であり、王族以外では夫婦になること自体が貴族でも難しかった。

そんな中で、フィッセル侯爵と夫人はとても稀有な夫婦になれた存在だった。

フィッセル夫人こと僕の叔母とフィッセル侯爵は幼い頃から惹かれ合う仲だったそうだ。しかし、女性は王家に嫁ぐ者以外は生家にそのまま居ることが常識だった。

それは貴族にとって女性が居る家というだけで、権力を保持することができたからだ。

だから本来なら叔母とフィッセル侯爵が結婚することは難しいはずだったが、母の生家である公爵家はふたりのほかにもうひとり唯一腹違いの妹がいた。その妹であるもうひとりの叔母を当主の祖父は溺愛しており、母と叔母に対しては義務で作った子と女性であるから最低限の保護はしていたがそれはあまり良いものではなかったことを母からよく聞かされた。

だからこそ、叔母は生家で暮らすよりも、愛する人と築く人生を選ぶことにした。それを姉である母が後押しして、異例中の異例でお役目を終えたタイミングとはいえ生家を出てフィッセル侯爵と結婚したのだった。

だからこそ、ルベルスが叔母を殺して生まれたことがフィッセル侯爵は許せなかった、いや、許せないなんて生ぬるいものではない、あれは完全に壊れてしまったのだ。

そのため、あんなに美しく可憐で愛らしいのにも関わらず、ルベルスは生まれた時から忌み子として扱われていた。

あのはじめてルベルスと会ったあの日も、レイモンドが挨拶周りをしていないことを見計らって、意地の悪い貴族の子息が嫌がらせをして、王宮の庭で泣いていたのだ。

けれど、その時は僕は、ルベルスがどんな状況なのか知らなかった。

ただ、母親譲りの艶やかなピンクの髪に美しいアレクサンドライトのような角度で色を変える神秘的な瞳から流れる真珠のような涙があまりに美しくて、僕はルベルスを『×××たい』と思ったんだ。

だから、あの後、手始めにルベルスをいじめていた連中は。僕の可憐で愛おしいルベルスを傷つけることが重い罪だと今までルベルスに嫌がらせをした連中に教えてあげたんだ。

ルベルスが悲しいことから遠ざかればこちらを振り向いてくれると思ったけれど、予想に反してルベルスはけっして僕を見てくれなかった。

それからも、ルベルスが好きでルベルスのいろんなことを調べ上げた。

ルベルスの全てを知りたかったから。

けれど、僕が話しかけてもいつもどこか寂し気な様子ではぐらかされた。

その儚い美しさが僕だけではなく、女性すら虜にしてしまっていた。結果、女性達にのめり込んだルベルスは全く僕になびかなかった。

男であれば皆殺しにしたかったが貴重な女性には流石に手出しはできなかった。ならば仕方なくルベルスから女性を奪おうとしたがその打算は女性達に見透かされてうまくいかなかった。

国の王太子として大切に育てられた僕はルベルスに出会うまではこの世の全て手に入れることができると信じていた。

しかし、その僕がもっとも渇望しながら唯一手に入れられなかったのがルベルスだった。

「王太子殿下、スミノフ侯爵令嬢からお手紙を預かっておりますが……」

「……そうか」

そのために、本来手を組みたくなかった相手とも手を組んだ。今手にある手紙の差出人であるスミノフ侯爵令嬢と……。

そのことを思い出すと眉間に皺が寄ったが、たとえどんな犠牲を払っても僕はルベルスを手に入れたいと渇望している。

ルベルスには憎いレイモンドが手を回したせいで侯爵家の恩恵があった。

それを引き剥がして、僕以外を頼れないようにして愛おしいルベルスを『×××たい』と思っていたのに……、永遠の幸せの中で溺れるほどの愛で満たしてあげるつもりだったのに、もう二度とあんな寂しい顔などしないでいいのだと教えたかったのに、それなのに、もっとも危険な国境騎士団にレイモンドがルベルスをこの度の罰として、送ったというのだ。

「今後もルベルスの監視を続けろ、ルベルスを害すものは消しても構わない」

「……御意」

昏い声で答えて、影が去った後、僕は壊した花瓶に生けられていた花を何気なく手に取った。

それは可愛らしくも美しいピンクのスイートピーで思わずルベルスの姿と重なった。

「ルベルス……」

だから、それを優しく優しく丁寧にひとつひとつの花を手折った時、やっと自然と笑顔がこぼれた。

「大丈夫だよ、ルベルス。僕のところにくれば永遠に××てあげるからね」
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