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2009年作品

雪起こし

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 今日も、外は雪。一面の銀世界。
 昼のうちに父が屋根に上って、雪下ろししたけど、この降り方だと、明日も雪下ろししないと。
 ストーブで暖かくなった私の部屋、二重になったガラス戸の向こう、カーテン越しにときどき光がひらめくのが見える。

 雪起こし。

 大雪が降る前兆の雷。



 私は、聡君が好き。
 ずっと小学生の頃から憧れていた。
 でも、それは私の片思い。
 だって、聡君には、生まれたときから決められている許嫁いいなずけのあかりちゃんがいて、いつも一緒にいるから。
 私と聡君とあかりちゃん。
 村で最後の中学生。
 私たち三人が来年卒業して、町の高校の寮へ入っちゃうと、もう村には子供がいなくなってしまう。
 だから、私たちの分校は来年で廃校になることが決まっている。
 私たちの父や祖父や、さらにもっと上の世代の人たちが学んできた分校。
 なくなると、村の人たちは悲しむんだろうな。
 私も小学校一年生のときから九年間学んできた学校だし、すごくさびしい。



 最後の中学生三人のうち、二人はいいなずけ同士。
 残りの私は余計者。
 相思相愛の二人に、ぽつんとひとりきりの私。すごくみじめな気分。
 聡君もあかりちゃんも、小さい頃から一緒に育った三人きりの友達同士だから、私には気さくに話しかけてくれる。
 だけど、二人が見つめあい、手をつなぎあっているところへ、私が入っていけるはずなんてない。
 私だって分かってる。私が居ない方がみんな幸せになれるって。
 だから、なるべく二人のそばに居ないようにしている。
 でも、三人しか生徒のいない分校の中で、二人から離れれば、私は、完全に一人ぼっち。
 さびしくないといえば、嘘になる。
 この九年間、ずっと一人ぼっちだったから、もう慣れちゃったけど。



 私、聡君のことが好き。そして、そのこと、たぶん、みんな気がついている。
 気がついていて、知らないフリをしてくれている。
 私のこの気持ち、絶対、口にしてはいけない。
 私のことを友達だと思っていてくれるあかりちゃんのためにも、二人が将来結婚して、村を守り立ててくれることを期待している村の人たちのためにも。
 そして、あかりちゃんとの愛情を、私との友情を、ともに大事にしている聡君のためにも。
 だから、どうか、雪起こしの雷様、私のこの気持ち、雷を落として、バラバラに打ち壊してほしい。
 なにかの拍子に、私の口から飛び出てしまわないように。
 あと数ヶ月しかない中学生活を聡君とあかりちゃんと屈託なく、楽しくすごせるように。





 明かりを消した部屋、少女がベッドに入る。
 今夜も、カーテン越しに、光がひらめいていた。
 つぎの日もこの山奥の村では大雪が降った。
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