疲れたあなたの背中をそっと押すサプリ、あるいはプラセボ

しかまさ

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2009年作品

幼馴染み

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 ゲームの世界で幼馴染みといえば、ダメダメ主人公の世話を焼く、しっかりモノの世話女房タイプか、どこかネジの緩んだほわほわおバカさんのどちらか。
 どっちにしろ、すごくかわいい女の子なんだけど……
 現実の世界では、ゲームみたいにはいかない。
 俺の幼馴染みといえば、女なのに、お腹まわりにたっぷりとぜい肉のついたお相撲さん。
 同級生の信二や将太の幼馴染みの長瀬さんなら、ゲームに登場するようなショートカットの笑顔がかわいい女の子だというのに、なんで俺だけ、罰ゲームなんだか……
 お隣同士で、幼稚園・小学校と集団登校の制度もあって、美優と一緒に通っていたけど、中学生になってまで、一緒に登校しなけりゃいけないなんて……
 俺が陸上部の部活で足を捻挫ねんざさえしなければ、信二や将太とふざけあいながら登校できた。
 いや、それどころか、男子たちみんなの憧れの長瀬さんと冗談を言いあいながら、学校へ行けたのに。
 俺の不注意のせいで、毎朝の幸せな時間が、美優との二人きりの時間にとって代わられてしまった。



「なあ、俺一人で学校へ行けるから、ついてこなくても大丈夫だよ」
「なにいってるの! さっきから、杖突くたびにフラフラしてるじゃない! 危なくって見てられないわ!」

 確かに、まだ杖に慣れてないから、不安定な感じだけど。

「おっと!!」
「ほら、また! 言ってるそばから、これじゃない!」

 バランスを崩して、慌てて、美優の肩につかまった。もちろん、体格のいい美優がいてくれると、すごく安心感はあるんだけど。でも、なんだかなぁ~
 こういうときには、往々にして、運のないことが起こるもので。

「よっ、お二人さん、朝っぱらから、アツアツだねぇ~」
「旦那、なかなかお似合いでげすよ。うらやましい~」

 信二と将太のヤツ!

「吉村君、美優ちゃん、お幸せに~♪」

 うっ、長瀬さんまで!
 おわった! 俺の人生、始まる前に、終わってしまった!

「も~ ゆりちゃんからかわないでよ」

 美優のヤツ、信二と将太には無表情にジロリとにらんだだけのくせに、長瀬さんには愛想のよい笑顔をふりまく。
 どういうわけか、美優と長瀬さんは馬が合うみたいで、中学に入ってすぐに親友になった。
 長瀬さんとの接点が、増えたのはいいんだけど、信二と将太も長瀬さんに恋心を抱いているみたいだし、美優を通してだと、美優の存在が邪魔になる。
 かといって、美優を遠ざけると、長瀬さんとの接点もなくなるし。
 長瀬さんが隣の家に遊びに来たときに、俺が気安く出入りできるっていうのは、絶対的なメリット。
 でも、美優との仲を勘繰られるのもなぁ~

 ジレンマだ……



 学校に到着して、美優に手伝ってもらいながら、上履きに履き替え、教室へ。

「よっ! お二人さん、相変わらずラブラブだねぇ~」

 なんて声を無視して、自分の席に着こうとしたんだけど、窓側の席でふざけあっていた男子たちの声が耳に入った。

「吉村もよくやるよ! なんで、あんなデブがいいのかねぇ~ 俺なら死んでもお断りだよ!」
「吉村のヤツ、デブ専なんじゃねぇの」
「ハハハ、そうかもな」
「あははは、マニア吉村!」

 俺の耳にそんな言葉が入ったってことは、俺のそばで心配そうに俺を見守っていた美優の耳にも入ったってこと。
 たちまち、美優、怒りで顔を真っ赤に染めて、その男子たちにドスドスと近づいていった。

「ちょっと、ヘンなこといわないでよ! 私を馬鹿にするのは構わないけど、恭平を馬鹿にするんなら、許さないわよ!」

 お相撲さんみたいなのが、鬼の形相で突進してきただけでも怖いのに、こぶしをポキポキ鳴らして、こいつらのあばら骨を今日は何本折ってやろうかって物騒な視線でにらんでいるし。
 かわいそうに、その男子たち、慌てて、ぺこぺこ美優に謝って逃げていっちゃった。

「こら! 謝る相手が違うでしょ! 恭平にキチンと謝りなさい!」



 でも、まあ、罰ゲームみたいな幼馴染みだけど、俺としては、決して嫌な関係じゃないな。
 美優自身、俺のことを大切に思っていてくれてるみたいだし。
 俺も、なんだかんだ言っても美優のこと、結構好きだ。といっても、別にお互いに恋愛感情がどうこうってことはない。
 それでも、できれば、長瀬さんみたいな友達に自慢できるような幼馴染みだといいんだけどな。
 今日の帰りも、美優と一緒。
 頼りがいのある幼馴染みと――
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