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2009年作品
メリークリスマス
しおりを挟む私がまだ小さな子供だった頃、私がほしいと思っていたものを、毎年ピタリとサンタさんがプレゼントしてくれるのが不思議だった。
着せ替え人形やドールハウス、魔女っ子キャラクターの変身アイテム。
もしかしたら、サンタさん、なにかの手違いで、私のほしいものと違うものをプレゼントしてくれるかも、もしかしたら、私にプレゼントをくれること自体、うっかりして忘れているかも……
毎年二十四日は、朝から不安に感じ、緊張していたっけ。
で、サンタさんが忘れていたり、間違ったりしないように、しっかり見張ってようと、がんばって起きているのだけど、いつの間にか、眠気に負け、夢の中のお花畑で、チョウチョと追いかけっこをしているってことに。目が覚めると、サンタさんがすでにやってきていて、私の枕元の靴下の脇に、いつもちゃんとほしいプレゼントの箱が置いてあった。
一度も、サンタさん、間違えることなんてなかった。
二十五日は、私にとって、あっという間にすぎていく一日。
朝起きると、サンタさんのプレゼントの包装紙を慎重に剥がし、丁寧にたたんで、大切に保管する。
それから、心臓をドキドキさせながら、おもちゃたちを取り出して、夢中になって遊ぶのだけど、いつも私、不注意で、そのおもちゃをどこかにぶつけたりして、傷つけてしまう。
毎年、毎年、すごく悲しかった。
大切に遊んでいるつもりなのだけど、夢中になると、どうしてもまわりが見えなくなっちゃう。
大きくなってからの、私の恋も一緒だった。
大好きになった人に夢中になりすぎて、結局、私の周りの何人かの友人を傷つけてしまった。
友達の彼に夢中になったり、失恋したばかりの友人に私の幸せを見せ付けたり……
私、ひどく愚かな女だった。
今年も、十二月二十四日がやってくる。
そして、サンタさんも。
日が暮れて、飛鳥と二人きりの晩ご飯。
小さなケーキを二人で分け合い、部屋の隅のツリーに明かりをともす。
あの頃の私に代わって、今は飛鳥が、ツリーを綺麗だといって、はしゃぎまわっている。
舌足らずな声で、たのしそうにサンタさんのことをおしゃべりし、サンタさんが間違ったプレゼントをもってきたりしないか、プレゼントをもってくるの忘れたりしないか、時々不安そうに窓の外を眺めている。
それから、
「今日はサンタさんに会うまで起きている」
なんて、さっきまで眠い目をこすりながら、起きていたけど、いつのまにかリズミカルな寝息を立てていた。
やがて、夜も更け、寒さが増すころ、玄関の外で、カギをガチャガチャいわせる音が聞こえてきた。
「ホッホッホー、メリークリスマス!」
細身の背の高いサンタさんが、玄関に立っていた。
「メリークリスマス!」
私、玄関まで出迎えてあげる。
「ホッホッホー、なぐごはいねがぁ~!」
「ふふふ、なにそれ?」
くすっと笑って、サンタさんが靴を脱ぐ間、抱えてきていた荷物を持ってあげる。
「で、お姫様は?」
「さっき、寝たとこ」
「OK、プリンセスの寝顔を拝みにいきますか」
私から荷物を受け取って、サンタさん、飛鳥の眠る二階へ階段を上っていった。
やがて、手ぶらで下りてくると。
「あ、これは、君に……」
ポケットから取り出したのは、キラキラと輝く宝石のネックレスの箱。
「え……」
「きっと、すごく似合うと思うよ」
私、サンタさんのプレゼントを受け取り、胸の前に抱えた。
もう私には、どうしてもほしいとサンタさんに願うおもちゃなんてない。ただ、私の家族が、飛鳥が健康で元気にすごしてくれたら、それだけで満足。
あまりほしがり、手に入れて、夢中になりすぎて、壊したりしないように、気をつけないと……
とにかく、私のことを忘れず、キチンとプレゼントをくれるサンタさんの気持ちがうれしかった。
私、爪先立ちになって、クビを伸ばして――
チュッ
サンタさん、嫌がりもせず、私の唇を受けた。私の腰を抱くようにして。
「ホッホッホー 今、この瞬間で、世界で一番幸せなサンタさんだな、俺は」
サンタさんはそう私の耳元でささやいた。
ウン
私、小さくうなずいた。サンタさんの肩に頭を預けたままで。
それから、サンタさんにだけ聞こえる声で、そっと言った。
メリークリスマス!
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