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2010年作品
ラブ&ピース
しおりを挟むある大陸にA国と大河を挟んでB国があった。
A国では、愛を至上のモノとする宗教が国教と定められ、国民の大多数がその宗教の信者だった。
お隣のB国では、平和こそ人類の使命だとする宗教が広まり、国民のほとんどがその宗教を信奉していた。
愛と平和。
両国の人々は穏やかに暮らし、争いごとも起こさず、お互いを思いやって暮らしていた。
だが、ある日、大雨が降った。
そして、両国の国境を流れる大河が空前絶後の大氾濫を起こした。
一夜にして、大河の流れは変わり、あちこちで今までと違う蛇行の仕方で流れていた。
ある場所では、それまでA国の一部だった土地がB国と地続きになり、B国の領域だった場所がA国側へ移動していた。
当然、そういった場所に住んでいた人々は、一夜にして、母国から切り離され、他国からの大勢の来訪者を迎える羽目になった。
新しく陸続きになった町へやってきたA国からの来訪者たちは、町に平和が満ち溢れ、人々が争いを好まず、秩序だって穏やかに暮らしていることに驚いた。
でも、町のはずれに住む貧しい人々や病気の人々のことをだれも気にかけず、自分たちの生活を整然と運営することにしか興味がない町の人々に、非常な違和感を覚えていた。
A国の人にとっては、愛こそがすべて。貧しい人、困っている人がいるのなら、隣人愛を発揮して、援助すべきだ!
A国の人々は憤った。
そして、愛のムチをふるって、人々の腐った根性を叩きなおすべきだと考えるようになった。
B国側と新しく接続した町へきた来訪者たちは、町に愛が満ち溢れ、だれもが他人を思いやり、愛し合っているのをみて驚嘆した。
でも、彼らはだれに対しても愛情を示しあっている。自分の妻や夫、恋人に対してだけでなく、他人の妻や夫や恋人に対しても。そのため、町のあちこちで人々は嫉妬しあい、相手の不義をなじりあって、やかましい。
B国の人にとっては、平和こそが大義。このような乱れに乱れた愛情のために、人々がののしりあい、争いあうなどあってはならないこと!
B国の人々は怒った。
そして、正義の力によってこそ、人々のあやまてる愛情表現を抑え込み、平和な社会を築きなおせると信じるようになった。
やがて、A国とB国の軍隊が動き始めた。
それぞれの正義のために。愛と平和のために。
はじめこそ、両国の軍隊は大河を挟んでにらみ合っていただけだが、ある兵士の不用意な銃の発射を発端に、砲火を交えることとなった。
その戦いの火は、またたく間に、国境全体へと飛び火した。
ついに、長年、仲良く共存共栄してきたA国とB国は、大河周辺で大衝突を起こし、全面戦争に突入したのである。
それから長い長い年月が経った。
A国とB国の戦争は、終結の見通しも立たず、いまだに続いている。
A国の人々は、この長い戦争の間に、自分たちの家族を殺したB国の人々を憎み、憎悪している。
B国の人々は、この長い戦争の間に、自分たちの家族を殺したA国の人々を嫌い、嫌悪している。
「愛こそすべて! 我々の愛すべき隣人たち家族たちを殺したB国に復讐を!」
「平和こそ大義! 我々の隣人や家族を殺し、平和をかき乱すA国に正義の鉄槌を!」
世界には、愛を求め 平和を大切にする人は多い。
そして、愛を尊びながら隣人を憎む人や、平和を守るために隣人と争う者も、また。
ラブ&ピース!
ああ、なんと素晴らしき世界!
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