疲れたあなたの背中をそっと押すサプリ、あるいはプラセボ

しかまさ

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2010年作品

風邪なう

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 やっちゃった……

 こないだ、学校へ向かう電車の中で、隣に立っていたオヤジがマスクもつけないで、コンコンやっていたから、きっとそのときに風邪の菌だかウィルスだかをもらってきたのだろう。
 見事に風邪ひいた。

 頭痛い! 筋肉痛い! 気分悪い!

 鼻水がズルズルでて、もうゴミ箱に使用済みのティッシュが山になっているし、散々、咳をコンコンやっているので、のどがヒリヒリする。
 目が回る。熱も三十八度……



 今頃学校では、一時間目と二時間目の授業の間の休み時間、さっきからSNSに真里菜たち友達からのお見舞いのメッセージがいっぱい来ている。
 みんな私のことを心配していてくれるんだ。
 うれしくて、感激して、涙ぐんで、鼻をかむ。コホンッ
 でも、こんな状態だから、それぞれに返信するのに、意外と手間取って、体力使ってしまい、また鼻をかむ。
 全部、返し終わった頃には、ぐったりとしてベッドの中で横になっているだけ。
 まだ、二時間目の後、三時間目の後、昼休み、五時間目の後、そして、放課後……
 考えただけで、吐きそう。で、また鼻をかむ。コホンッ



 風邪で休んでいても、安心して休めないのって、中学以降だなぁ~。
 中学に入って、スマホを買ってもらって以来、四六時中友達とメッセージのやりとりをしてきたけど、風邪のときもメッセージの送受信、欠かすことが出来なくて、全然休めなかったっけ。

 小学校のときはよかったなぁ~。

 スマホなんか持ってなくて、風邪で休んでいたら、放課後たまに、心配した友達がお見舞いに来てくれるぐらいで、ぐっすり安心して寝ていられたんだもの。
 そういえば、いつも会ったら憎まれ口ばかり叩きあってた隣のアイツだって、心配そうな顔して、学校のプリントとか持ってきてくれてたっけ。

 アイツ覚えてるかなぁ~?

 きっと忘れてるだろうな。
 小学校の四年生のとき以来、小学校、中学校、高校と同じ学校に通っているといっても、ずっと別々のクラスだったし。中学以降は、全然、話とかしたこともないし。

 コホッ

 とにかく、二時間目の終わりに備えて、すこしでも休んでおかなくちゃ。

 寝よ寝よ。おやすみなさい。



 昼に飲んだ風邪薬がようやく効いてきたのか、熱も咳も鼻水もだいぶよくなってきた。
 まだ、すこし頭が痛くて、フラフラするけど、我慢できる程度。
 さっきから不思議なのだけど、一時間目の後の休み時間から、今日は友達からのメッセージが一つもこなかった。
 おかげで、夕方の今の時間まで、グッスリ布団にもぐって寝ていられたし、しっかり休むことができた。
 きっと友達の心遣いだね。みんなやさしい。ほんと、私、いい友達をもったものだ。
 さっそく、朝、メッセージをくれた真里菜たちに、お礼を……

 ――ピンポーン♪

 打ちかけのスマホをテーブルの上に置いて、買い物へ出かけている母さんの代わりに、私が玄関に出る。
 ドアを開けると、そこにいたのは、まさに真里菜。

「よっ! 恵、元気? って、元気なわけないか、風邪ひいてるんだもん」
「真里菜! 来てくれたんだ。ありがとう。上がって」
「ちわー。おじゃまします」

 わざわざ、お見舞いに来てくれるなんて、親友ってホントいいもんだ。

「だいぶ元気そうじゃん? 風邪、よくなった?」
「うん、朝からグッスリ眠れたから、しっかり休めたよ」
「へぇ~ そうなんだ。よかったね」
「ありがとね。みんなにメッセージしないように言ってくれたんでしょ? おかげで、気にせず眠ってられたから、助かったよ」

 飛び切りの笑顔で、真里菜に笑いかけて見せたのだけど、真里菜、途端に微妙な表情を浮かべた。

「あ、あれ? ……あれ、私じゃないんだ……」
「え? だれ? 朋美? 莉香? もしかして、夕紀恵?」

 私が友達の名を一人づつあげるたびに、真里菜、首を振る。

「えぇ? だれ? もしかして、小林君? 間瀬君? ないと思うけど、藤堂先生?」

 やっぱり首を振るばかり。

「えぇ~? だれ? だれが言ってくれたの? あとで、お礼しないと」

 真里菜、たっぷり私の顔を見てから、口を開いた。

「A組の高橋くん。彼、うちのクラスの佐藤と同じ部活じゃん。で、教科書かなにか借りてたみたいで、一時間目の後、返しにきてたの。そしたら、恵が風邪で休みだって気がついて、私たちに、SNSのやりとりするなって。ねぇ? もしかして、恵と高橋くんって、付き合ってるの? 彼、すごい剣幕だったわよ」
「……」

 私、驚いて、言葉もでなかった。
 よりにもよって、アイツが止めてくれたなんて……

「ねぇ? どうなの? 付き合ってるの?」
「え? ううん。そんなことあるわけないじゃない! だって、アイツとは小学校のとき以来、口きいてないもん」
「へぇ~ そうなんだ。ん? 小学校のときって?」
「うん、アイツ、ここの隣の家に住んでる幼馴染みだよ」
「そ、そうなんだ……」

 なんだか、気まずい沈黙。



 真里菜が帰って、母さんが帰ってきた。
 私は、部屋にこもって、また横になる。

 アイツ、覚えてたのかな?

 今このときも、小学校のときのような心配そうな表情を浮かべて、私のこと考えているのだろうか?
 天井を見上げ、ぼんやりしていると、テーブルの上のスマホがなった。
 知らないアカウントから。

 だれだろう?

『よっ! オレ、修馬。久しぶり、元気か? 風邪ひいたんだって? しっかり寝てろよ』

 だって。
 どこで、私のアカウント手に入れたんだろう?
 でも、その文面を見ているだけで、無性にうれしくて、涙が溢れて……
 また、風邪ぶり返したみたい。熱が出てきたもの。

『ありがとう。しっかり休んで、風邪なおすね』
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