純愛パズル

久遠寺風卯(ペンネーム)

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第1話 記憶の片隅

記憶の片隅(7)

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                 7

 時は現代。
 西暦二〇二三年( 令和五年 )三月十三日の夜。
 遠野家の大広間に敷かれた布団で何時間も目が覚めることなく眠り続ける一の姿があった。
 彼の手には朝顔の簪が握られたままだ。
 一の傍らにライムとふぶきが左右に居て、彼の様子を心配していた。
「全然、起きないですね。杉浦様。」
「おそらく、何らかのきっかけで、九十九神の力が発動し、杉浦を眠らせ、夢を通して過去の時代で起こった出来事を見せているんだろう。厄介だねぇ 。」
 一が握りしめている朝顔の簪に、ふぶきが目をやりながら深く重い溜め息を吐いた。
「これ、確かお葬式で杉浦様が蕨様の手に添えて、火葬し燃えて消えたはずですよね? 」
 ライムは疑問に思いながら、一の顔を悪戯する。
 彼の瞑る瞼を、おふざけするように無理矢理にでも指で摘んで開いて見る。
「ダメです。反応ないです。」
「当たり前だろう。九十九蝦蟇先生によれば、失った記憶を全て見終わらない限り、杉浦は目を覚ますことはない。四、五日、あるいは一週間かかるかもしれないとのことだが。」
 観月は壁に一人立って同じく一の様子を見ていたが、ライムの襟首を掴み一から距離を取らせながら彼女に言い聞かせる。
「長引けば危険だよ。」
 一は今、栄養が取れない寝たきり、昏睡状態だ。念の為に、点滴をして栄養のある成分を身体に流しているが、身体と精神がどこまで持つかが重要だ。
「今回の九十九神の中では最悪だ。
 亡くなった持ち主の強い念、後悔の想いから。あるいはこの簪の怨念から。何にしても、舞い戻って来るくらい杉浦を標的にして現れたってのは確実だ。夢を見せることで記憶が蘇るくらいならまだいい話だが、代償は夢を見る人の養分を吸い取り、そいつを殺める可能性が高いってこと。」
 普通の人間なら一日も持たず、朽ち果てて死ぬ。
 しかし、一は普通の人間よりは強い霊力も治癒能力なども備わる程強い生命力がある。
 簡単には死なないだろう。とふぶきは思いながら観月とライムに話す。
「だけと、俺達にはどうすることも出来ねぇぜ。 九十九神である簪を無理に引き剥がしたら、一の精神が切り離され、脳死状態に近い症状が出て永遠に目覚めない確率があるし。」
 ただ、一が九十九神の能力に打ち勝ち、目覚めるまで待つことしか出来ない。
 三人の妖の能力で持って仮に簪を打ち消そうとしても、強力な結界に阻まれるだけではなく、能力自体が無効化、あるいは動物の姿などに変えられてしまう。色々リスクがあり過ぎる。
「でも、随分と穏やかな寝顔ですね。」
 ライムは、どこからか毛布持ってきて、一が風邪引かないように身体にかける。
「こいつ普段から、夜間勤務やらなんやらで、仮眠程度しかしない。不眠症続きだったしな。」
「蕨様が生きていた頃も同じでしたわね。」
 蕨の死から十七年の月日。
 それをはっきりと今でも思い出せる三人。
 でも一だけは忘れている。
 ある者と契約、代償、対価を払い、愛する人の記憶と自分の寿命を犠牲にした。本来は過去の記憶を呼び覚ますなんてことはあってはならないのだ。
「仮に目覚めて、蕨様のこと思い出したら杉浦様はどうするのでしょう? 」
 ライムは目を少しだけ伏せて、観月に思ったままのことを問う。
「そんなこと心配してもしょうがねぇだろ。過去のこと仮に思い出しても、また薄れて忘れちまう。」
 観月は亡くなった蕨の写真を一瞬だけ見た後、部屋を静かに出て行った。
「もう、観月様ったら何で冷たい言葉しか言わないんですかねぇ。」
 ふぶきはライムと観月の会話が一段落付くと「杉浦の様子は私が見ているよ。」とライムに言葉を掛けた。
「時々交代しながら杉浦の様態を窺って、危なくなったら九十九蝦蟇先生を呼んで対処を考えれば良いさ。」
 ふぶきは、一の額に固く絞った濡れタオルを浸す。
「この男はそう簡単に妖怪の餌食になるような脆弱な人間じゃない。信じて待つしかないよ。」
 ふぶきは暗い顔をせず、案外涼しげな顔で微笑む。
「そうですね。」
 ふぶきの表情を見て、ライムも穏やかな笑みで立ち上がり、遅い晩御飯の用意をしだし、台所へ向かった。
 観月は妖怪の姿のから烏に変化して外の電柱に止まり、夜空を見上げていた。
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