すきなひとの すきなひと と

迷空哀路

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27〈求〉

背中に腕が回ってきていた。肩のところに顔を押し付けて、暖かい手が頭に触れる。
「お前も色々……その、辛かったな」
「……好きなんですか。先輩は……僕の、こと」
濡れた目で見つめると、少しバツが悪そうにズラした。けれど言われたのは意外な言葉だった。
「多分お前が女だったら……いや、そんなこと何回も考えた。でも今のお前だから、男だったから話せたことが沢山あったんだ。性別が違ったら言おうと思ってた。だけど気づいたんだ。今のままで好きになれたんだから、それで良いって。そんなものを理由にして伝えないのはおかしいってな」
「……みっともないですよ。勝手に振り回して、子供みたいに泣いて。色んな人を巻き込んで、それでまた試してる。何回も試さないと信用できない。……一度信じても、些細なことですぐ不安になる。面倒で愚かですよ……その上で離れられると、やっぱりって安心する。少し悲しいけどそのまま無理して付き合われるよりはマシ……だ」
涙でぼやける景色の中で近づいた。息を飲む音が聞こえて、今度はもう少し強くくっつける。大粒になって流れたせいで、その表情はよく見えた。驚きと照れのような、それから泣きそうな顔。
「好きなら……強く、してください……」
腕に力が込められた。じわじわと熱が上がってくる。ここがどんな場所だとか、今までしてきたことも分かっている。でも気にならなかった。今だけは誰も、無駄な考えも邪魔しないで。二人だけにして……。
「……嫌わ、ないで」
誰に言ったのか分からなかった。それは純粋な願いなのか、求めてはいけない希望だったのか。どちらでも良かった。暖かいから。

「……お前の恋人は誰なんだ」
指先が繋がれていた。苦しそうな悲しい顔で片方の指を伸ばすと、頬の上を滑った。
「先輩と……正人」
その手を取って頬にすり寄せた。少し乾燥した大きい手。ずっと触れたかった……この体温に。
甲に口付けると、ぴくりと体が動いた。若干腰を引きながらも、手を外そうとはしない。それに甘えて舌を這わせていく。
「ちょっと、待て……っ」
「……っん……はぁ」
ぴちゃりと音が鳴った。先輩の顔は赤くなっている。指に移動して唇で挟んだ。狼狽るような声が聞こえる。
しばらく続けていると、額を押さえられた。耐えられなくなったようで、自分の顔を片手で隠しながら、震えた声で呟いた。
「っ……やめてくれ、汚いだろ」
「先輩の……舐めてるだけなのに、もう……こんなに熱い……」
自分でも上気しているのが分かる。常識が抜け落ちて、目先のことしか考えられなくなった。身体にしがみついて押し当てると、小さく悲鳴を零した。
「先輩……っ、先輩……」
掴んだままの手にまた口を付ける。さっきよりも大胆に、まるでキスしているかのような激しさでクラクラした。全てを許されたような気がして止まらなくなる。
やがて思いきり肩を掴まれた。離されたことに驚いて、じわじわと絶望的な気分が一つ一つ染み出してくる。嫌われたのだろうかと顔を上げると、やっぱり苦しそうな顔をしていた。
「……ご、ごめんなさ……っ」
「場所ぐらい考えろ! 人がいないったって、学校なんだぞ」
「……はい」
行くぞと言った後、右手に暖かいものが触れた。引きずられるようにしながら、もたつく足を動かす。
怒ったのだろうか。悪いことしか想像できなくて、気分が沈んでいく。なんだか自分が世界で一番弱くなった気がして、涙を拭った。

先輩も特に行く予定の場所は無かったのか、誰もいない公園を見つけると、歩く速度を落とした。二人でベンチに座り、目の先にあった時計をぼんやりと眺める。それぐらいしか明るいところがない。
「少しは落ち着いたか」
泣くと疲れるのを久々に実感していた。あれは体力を使うものなんだ。先輩の言葉に一歩遅れて反応した。
「……はい」
溜め息が聞こえて反射的に身を縮こませてしまう。足元を見つめて、次の言葉が出てくるのを待った。
「何があった」
「えっ?」
「急すぎて分からないんだよ。正人って誰だ。お前がその、今一緒にいる奴なのか? 手繋いでたっていう……」
「先輩……家に来ませんか。ここじゃ寒いですよ。……ね、来てください。近いですから」
分かったとだけ呟いて立ち上がった。久しぶりに迎えの車無しで家まで帰る。その間に会話は無かった。街の騒音が大きくて、何を喋っても消えてしまいそうだったから。
先輩の足が止まった。
「まさか、ここなのか」
「そうですよ」
夜景の一部になっているマンションを見上げた。なんだかハリボテのように見えて笑ってしまう。
「先輩、どうぞ」
明かりがついた部屋に案内した。
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